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CODE: SILVER -世界を解く瞳-  作者: GODS04


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第1章:色彩の遺伝子

第1章【前書き】

本編『ECHO-記憶の残響-』に登場する、銀髪の天才ハッカー・蓮水佳乃はすみ よしの

彼女がいかにしてあの異能を手に入れたのか、そしてどのような幼少期を過ごしたのかを描く過去編スピンオフです。


まずは彼女がこの世に生を受けた日、そして伝説の始まりから。

0と1の世界に愛された少女の物語を、どうぞお楽しみください。


――


(0と1の無機質な世界に、

鮮烈な「色彩」が生まれた日。)


――


◆【2022年・嵐の夜(誕生)】


都内総合病院の待合室。

窓の外では、季節外れの激しい雷雨が荒れ狂っていた。


「あかん……落ち着けへん……! ああ、神様、仏様、ダウ平均株価様……!」


頭を抱えて廊下を往復しているのは、蓮水はすみ 春雄はるお、30歳。

普段はモニターの前で何億もの金を動かすデイトレーダーだが、今の彼はただの狼狽する男だった。


ベンチには、携帯ゲーム機をピコピコと操作する少年が座っている。

7歳の長男、しゅうだ。


「パパ、うるさい。敵の足音が聞こえない。」


「柊! お前、ママが戦ってるんやぞ! もっとこう、祈るとかないんか!」


「ママなら大丈夫だよ。……あ、クリア。」


柊は涼しい顔で『GAME CLEAR』の画面を見せた。

その時、分娩室のランプが消え、扉が開いた。


春雄は弾かれたように駆け寄った。


――


◆【銀色の月】


分娩室の中は、嵐の音が嘘のように静かだった。

ベッドには、汗ばんだ髪をかき上げた妻・れんが横たわっている。

その腕の中には、タオルに包まれた小さな塊があった。


「……春雄。」


蓮が静かに呼ぶ。普段はクールなプログラマーである彼女の声が、今は少しだけ震えていた。


「来て。……この子、少し変わってるわ。」


「か、変わってる……?」


春雄は恐る恐る覗き込んだ。

そして、息を呑んだ。


赤ん坊は泣いていなかった。

じっと、春雄を見上げている。


その瞳は、透き通るような水色シアン

そして産毛は、病院の蛍光灯を反射して銀色に輝いている。


日本人離れした、あまりにも神秘的な色彩。


「……こ、これは……」


「アルビノじゃないわ。」


蓮が愛おしそうに赤ん坊の頬を撫でた。


「私の母さん……あの子のお婆ちゃんと同じ色。」


「えっ? お義母さんが?」


「ええ。写真でしか見たことないけど……私の母も、この銀色の髪と、宝石みたいな瞳をしていたそうよ。」


蓮は懐かしむように目を細めた。


「隔世遺伝ね。……まさか、私の代を飛ばして、この子に出てくるなんて。」


春雄は、震える指で赤ん坊の小さな手に触れた。

赤ん坊が、ぎゅっと指を握り返す。


「……綺麗や。」


春雄の目から、ボロボロと涙がこぼれ落ちた。


「お義母さんの生まれ変わりかもしれへんな。

……ようこそ、パパのところへ。お前は、蓮水家の宝物や。」


「名前、決めてあるんでしょ?」


蓮が微笑む。


「おう。……佳乃よしのや。」


春雄は泣き笑いの顔で宣言した。


「どんなにデジタルな時代になっても、人の『良心よし』を知る子になってほしい。……ええ名前やろ?」


佳乃は、まるでその言葉を理解したかのように、キャッキャと無邪気に笑った。


――


◆【2026年・4歳のハッカー】


それから4年後。

蓮水家のリビングは、今日も賑やかだった。


「あかん! あかーん! 暴落やぁぁぁ!」


春雄の悲鳴が響き渡る。

複数のモニターには、真っ赤な下降トレンドを描くチャートが映し出されていた。


「くそっ、読み間違えた! ここで損切りか!? いや、反発狙いか!? AI予測も外れまくりや!」


頭を抱える春雄の横で、キッチンに立つ蓮が呆れた声を出す。


「春雄、うるさい。今、重要なコード書いてるんだから静かにして。」


「せやかて蓮ちゃん! 俺のへそくりが消し飛ぶ瀬戸際なんや!」


「自業自得よ。」


冷たく切り捨てる母の横で、ソファには11歳になった柊が座っていた。

彼はヘッドセットを装着し、プロ顔負けの手つきでFPSゲームをプレイしている。


「パパ、右のモニター、邪魔。敵が見えない。」


「お前ら冷たいなぁ! パパ孤独死しそう!」


その時だった。

春雄の足元に、銀色の髪を揺らす小さな影が近づいてきた。


4歳になった佳乃だ。

彼女は、春雄が操作していたメインのタブレット端末を、下からじっと見上げた。


「……パパ、うるさい。」


「おお、佳乃ぉ……パパな、今ピンチなんや。おやつ減らさなアカンかも……」


佳乃は首をかしげ、画面上の複雑なチャートを見た。

普通の4歳児には理解不能な線の羅列。

だが、彼女の碧眼には、それが「音」と「色」の流れとして見えていた。


赤い線は悲鳴。緑の線は歓喜。

そして、その奥にある「情報の歪み」が、パズルのピースのように浮かび上がってくる。


(……ここ、ちがう。)


佳乃は、ぽちゃっとした指で、画面の一点を叩いた。


「……あぶー。」


「え? なに? そこ? ……そこは『全力買い』ボタンやぞ? 今買ったら即死……」


春雄が止める間もなく、佳乃はボタンを連打した。


《注文完了:全力買い》


「ぎゃああああ! 買うてもうたぁぁぁ!」


春雄が絶叫し、床に突っ伏した。

終わった。破産だ。


しかし――その3秒後だった。


『……ピロリン♪』


軽快な電子音が鳴った。

恐る恐る顔を上げた春雄の目に飛び込んできたのは、垂直に跳ね上がる緑色のチャートだった。

底値からの大暴騰。

佳乃が押したタイミングは、ミクロ単位で正確な「底」だったのだ。


《利益確定:+8,000,000円》


「…………は?」


春雄は口を開けたまま固まった。

キッチンから蓮が顔を出し、柊もゲームの手を止めて画面を覗き込む。


「……嘘でしょ? このタイミングでエントリー?」


「すげぇ。神回避じゃん。」


家族がどよめく中、佳乃は興味なさそうにあくびをした。


「……かんたん。」


そう呟いて、自分の絵本の方へよちよちと戻っていく。

春雄は震える手で娘の背中を拝んだ。


「……天才や。うちに、とんでもない天才がおるでぇぇ!!」


これが、後に国家さえも欺くことになる天才ハッカー、蓮水佳乃の「最初の取引」だった。

温かく、騒がしく、愛に満ちたこの場所が、彼女のすべての原点だった。


――


第1章・完


第1章【あと書き】

お読みいただきありがとうございます!


春雄パパ、想像以上にうるさかったですね(笑)。

でも、この賑やかで温かい家族こそが、クールな佳乃の根底にある「愛」を育んだのだと思います。


4歳にしてチャートの歪みを「色」として捉え、800万を稼ぎ出す佳乃。

口癖の「……かんたん」は、この頃から健在でした。


もし「面白かった」「佳乃が可愛い!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、いいね!をいただけると執筆の励みになります。

本編『ECHO』の方も、引き続きよろしくお願いいたします!


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