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微睡みの上に花は咲く~大規模異世界転移、掲示板つき~  作者: 初鹿余フツカ


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番外編:魔法鞄と巡り銭

「他者視点から見たアスル」というリクエストをいただいたので、ヤーノ視点の番外編です。

 来たアアア――!!


 頭の中でアスキーアートが巡り、ポンポンと花火が上がる。気分はお祭り騒ぎだが、口から出たのは冷静な……いや、結構ばかでかい声だった。


「ありがとうございます!!」

「この度は、おめでとうございます」


 いつもクールなハルシェさんがほんのり微笑んでくれた気がする。今日はやはりツイてるな!

 なにせ俺はついに、ついに手に入れたぞ、念願の魔法鞄を!


 いやあ、長かったですな。金が貯まるのも長かったけど、モノが出てくるのも長かった。ソーシやシオンには夢見がちだとかケチだとか馬鹿にされてきたが、今に見ていろ。絶対に魔法鞄は持っておいた方がいいアイテムだぞ。

 まだ箱型ボクスだが、いずれは部屋型ルムを手に入れてやる。そうなってから羨んだって遅いんだからねッ!

 頭の中のツインテール女子にツンデレを決めてもらったところで、鑑定書にサインをして、ついでに血統登録もしてもらう。箱型ボクスへの血統登録は推奨されていないらしいが、大事な魔法鞄だ、しない選択肢はない。

 それに俺はケンやツジと違って、色持ちじゃない。血統登録していても、上書きにそう手間はかからないはずだ。


「トラデレ、と唱えてください」

「とらでれ!」

「もう一度」

「トらでれ!」

「はい、もう一度」


 ハルシェさんきびちい……。

 たっぷり十分かかってようやく登録できた。呪文で契約が出来るという高揚感はとうに消え失せて、ようやくなんとかなった達成感の方が大きかった。すり減ったぜ、中二心がよ……。早い方ですよ、て本当なんかな。

 呪文ベル魔術ロウに憧れはあるが、この調子じゃ全然厳しそうだ。次に目指すのは部屋型ルムの魔法鞄、となれば、魔術触媒カタリスに浮気している暇などないし。


 俺は少しだけ目を閉じて掲示板を開く。そしてサッと書き込んだ。


831 名無しの転移者さん

魔法鞄やったぞおーーーー!!


 俺たちの異世界転移についてきた『掲示板』は、元の世界の匿名掲示板と同じような機能を持っていて、目を閉じてアイコン――としか言いようのない何か――に触れると開く。最初は手間取ったが、いまは目を閉じると同時に操作出来るほど馴染んだものだ。

 俺たちを転移させたノアという神が、転移させる間際に「あ、掲示板つけておきましたからね」と言ったときには「なんて?」と思わず返してしまったが、今となってはなくてはならないものだ。

 便利なんだよ掲示板。遠く離れた街の噂とかも手に入るし、離れてる間もケンたちの様子がある程度わかるし。

 掲示板がなければ、俺たち五人も会うまでにかなりの時間がかかっただろう。それまでに馬鹿やって、会えなかった可能性もある。掲示板つきにしてくれたノアにはかなり感謝している。


「あ! ヤーノ、どうだった?」

「買えたぞー!」

「やったあ! これで俺たちも一端の冒険者の仲間入りだな!」

「おうとも! まあ、まだ時間停止もない箱型ボクスだけどな」


 待っていてくれた仲間のカイと肩を組んで喜び合う。そうそう、魔法鞄はこのくらい喜びを持って迎えるべきアイテムだよな。やはり俺たちは気が合う。


 転移者同士でつるむのをやめよう、と最初に言い出したのはシオンだった。慎重派で、掲示板もよく見ている。書き込みもよくしていたようだから、オッサンの件にいちばん衝撃を受けたのはヤツだったのかもしれない。

 俺たちはもちろん反対した。だってせっかく会えた転移者同士だ。解散する意味なんてないように思えた。

 でもシオンは言った。


「俺たちこのままじゃずっと永遠に来訪者ビジターだよ」


 そのときはなにいってんだこいつ、て思ったが、今ならなんとなくわかる。

 俺たちが転移者なのはどうやっても変えられないが、それでも他の面子とつるみはじめてから周囲の目はたしかに変わった。特に迷宮都市以外では、全然違う。俺はただの冒険者として、みんなと同じ余所者として迎え入れられる。そこに差なんてない。

 俺たちは世界に馴染んでいかなきゃいけない。この世界に、これからも暮らしていくんだから。

 たぶんシオンが言いたかったのは、そういうことだったんだろう。


 カイと酒場へ向かっていると、ケンがやってきて俺の肩を軽く叩いた。


「おめでとさん」

「ありがとさん」


 それだけ言って、手を振って離れていく。何か用事があって冒険者ギルドへ来て、書き込みを見て来てくれたんだろう。ケンは律儀なやつだ。俺の魔法鞄の夢を馬鹿にしなかったしな。


 酒場の席について、頬杖をついて目を閉じる。


832 名無しの転移者さん

おめでとう!! まさか本当に手にするとはなあ


833 名無しの転移者さん

ころしてでもうばいとる


834 名無しの転移者さん

やめろやめろ、嫉妬は見苦しいぞ

しかし羨ましいのは認める。俺も金貯めよう!


835 名無しの転移者さん

魔法鞄いいよな。おめでとう


 お。珍しい書き込みだ。

 匿名だけあってどれが誰の書き込みかは、わかるときとわからないときがある。この街で転移者として会ったことのあるのは俺らだけだが、他にも転移者が隠れているらしいことも知ってる。

 たとえば魔導具マギ・ロウの職人として入ったやつにも来訪者ビジターがいたって噂は聞いた。でも職人連中と俺ら冒険者が会う機会なんて滅多にないしな。

 職人の中でも誘拐事件とかいろいろあったって聞く。たまにロータススレの書き込みがちょっと多かったり、俺ら五人の誰でもないっぽいレスを見ると、元気にしてるんだな、なんて思う。

 無事に暮らしているなら、別に会えなくても構わない。でもなんかあったときには、手を貸してやりたい。今はまだ人のこと構えるほど余裕ないけど、いずれはな。そのための装備購入だったりするわけよ。俺もいろいろ考えてんの。


「ヤーノ、またお祈りしてんの?」

「シッ、邪魔しちゃダメだよ」


 いつの間にかやってきていた仲間のシシーがからかってくるのを、カイがたしなめる。俺が掲示板を見ているときの目を閉じる仕草は、時々にやけてしまう口元を隠しているせいもあって、祈りのポーズだと思われている。

 掲示板を見たあとに、街の噂やなんかを知ってたりするせいもあるんだろう。あんまりやらない方がいいとは思うんだが、わかってて危ない橋を渡らせる方が俺には出来ない。そういうのを繰り返しているうちに、俺は祈って助言を得ていると思われるようになってしまった。

 掲示板のことを話すわけにもいかないし仕方ない。人力だから万能ではないし、あまりあてにならない祈り、くらいでちょうどいいのかもしれない。


「今日は何を祈ってたの」

「魔法鞄ありがとうって」

「ああ、なるほどね」


 酒が来たので乾杯していると、酒場の入り口に見覚えのある青いフードが現れた。

 お、エリークさんとこの連れの。俺にとってはちょっと苦い思い出のある青頭巾ちゃんだ。まあ呪文ベル使いの魔術師ロアーと名乗りを受けていたのに、油断した俺が悪いのはわかってるんだけど。

 酒場の匂いが苦手って話だったのに、何しに来たんだろ。エリークさんか?

 探してみるが、金髪の背の高い男の姿はない。あの人は色持ちだから、一発で見つかるんだけどな。


 何気なく眺めていると、俺を見てパッと目を輝かせた。あれ、探してるの、俺?

 酒場の中まで入ってこようとしていたので、あわてて入り口へ向かう。いや、別に来させればいい話なんだけど、なんというか青頭巾ちゃん小さいから。酒場に入れちゃいけない気になるんだよな。未成年じゃないっていうけど未だに信じられない。


「俺に用だった?」

「ん!」


 大きくうなずく。青頭巾ちゃん――うん、はい、名前覚えてないごめん――は、言語に不自由というだけあって、動作が大きい。それが余計に幼く見える原因なんだろう。

 ほんの少しフードからこぼれた髪が、鮮やかな水色をしているのが目を引く。アニメカラーだなあ……。現実にはない色だとつい思ってしまうが、こちらでは青でもピンクでも普通にいる。珍しいのは金でも茶でも黒でも、色持ちの方だ。


「ん」

「うん?」


 握った右手を差し出されて、条件反射で手を出すと、手の中に落ちてきたのは銅貨が一枚。え、ちょ、なに。


「じゃ」

「いやいやいや、なに!?」


 聞いたけどてってと走って一階へ降りていってしまった。いや、なに!? 天然ちゃん奇行やめてほしいんですけど!


 仕方なく酒場の仲間の元へ戻る。


「どうした?」

「なんか知り合いから銅貨もらった……」

「あー、巡り銭か」

「俺らもやっとくか」


 シシーとカイが勝手に納得して、財布から銅貨を出して俺に差し出す。えっ、なに?


「どういうこと?」

「ヤーノは知らないか。この辺じゃ大きな幸運に恵まれた人とか、でかい買い物した人に銅貨を渡すんだよ」

「金は天下の回りものっていうじゃん? ヤーノの幸運が俺らにも巡ってきますように~みたいなやつ」

「そういうことか」


 納得して、もらった三枚の銅貨を握る。この金は貯めといたりしないで、出来ればその日のうちに使うのがいいらしい。この場の支払いにでも使おう。

 青頭巾ちゃん、奇行扱いしてすまなかったな、と振り返ってふと気づく。


 あれ、なんで俺が魔法鞄買ったこと、青頭巾ちゃんが知ってるんだ?

 いや青頭巾ちゃんギルド内でも可愛がられているし、ハルシェさんから聞いたりしたんかな。守秘義務……いやハルシェさんはその辺厳しそうだ。

 もしかして、まだ見ぬ転移者に知り合いがいるとか?

 いや、青頭巾ちゃん俺らが来たよりもはるかに後にロータスに来てるし……、いやわからんな?


 奇行の謎は解けたけどさらに謎が増えた。どういうことなんだ青頭巾ちゃん……。

 知りたいけど聞きにいくのもなんか怖い。

 不思議ちゃん奇行自重して!!

巡り銭というものがある、とエリークから聞いて早速やろうとやってきたアスルでした。仲間意識を持っているが、認識はされていない。


完結に際して評価、ブクマ、リアクション、感想、レビュー、誤字報告などありがとうございます!

番外編のリクエストをいただいていたので、ふたつ書きました。

ひとつはこのヤーノ視点番外編、もうひとつはアスル視点の年越し話です。そちらは大晦日のお昼に更新しますので、またよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
はたから見たら女の子に見えるのかな それともちっこいから子供って扱いでちゃん呼びしてるんかね
掲示板の仕様というかノアからの説明はアスルについて全く触れてないんか
続き書いてほしー!! キャラが立ってるので読んでてすごく楽しい! ぜひとも続編をー!お願い〜!
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