40.新しい装備を作る
補充を終えたら、お待ちかねの魔導具工房だ。
魔導具屋と違って、持ち込みで天然の魔導具を加工してくれるという。
もちろん飛び込みの客は受け入れてもらえないのだが、エリークは伝があるそうだ。
「まあエリーク、ひさしぶりね」
きっと気難しそうな職人のおやっさんが出てくる、という予想に反して、出てきたのはきれいなお姉さんだった。
栗色のゆたかな髪をした美人で、肉感的な肢体をツナギに閉じ込めている。ぎっしりした胸元に思わず目が吸い寄せられる。
「ひさしぶり。発動体の加工をお願いしたい」
「発動体の? うちはアクセサリーしか扱ってないけど」
「この子の発動体だよ」
エリークに背を叩かれて、女性を見上げる。……そう、見上げる。くそ、みんな背が高い!
「おねがい、します」
「あらかわいい」
俺を見下ろした女性が思わずというように声に出し、次の瞬間には俺は彼女にぬいぐるみのように抱き締められていた。あっ、胸元が、ちょ、思ったより固いんだけど!? 筋肉、筋肉なんですか!?
フードがずれて、女性と至近距離で目があった。おお、美人のドアップ。そして緑の目。目元が誰かに似てる。誰だっけ。
「やだ本当にかわいいっ! エリーク、どこで拐ってきたの!?」
「人聞きが悪いな! ちょっと、アスルもがいてるでしょ、離してあげて」
「あらあら。まあ仕事の話なら中に入って。ちょっと散らかっててホコリっぽいけど、ごめんなさいね」
「いきなり来たんだ、構わないよ」
俺は女性にヘッドロックのように頭から肩を抱えられたまま、中へ引きずり込まれる。ひええ。エリーク、エリーク助けて。もがいてるのに全然取れないんだけど!
エリークは苦笑している。おのれ!
幸いにして俺はソファーの上に下ろされ、頭を撫でられて解放された。な、なんだったんだ。
「お茶淹れてくるから待ってて」
「お構いなく、姉さん」
姉さん!?
思わずエリークの顔を見て、目元が似ていることに気がつく。男女の違いもあるし、そっくりというわけじゃない。ただ目の色と、目蓋の形がよく似ている。
「姉さん」
「そう。正確にいうと従姉なんだけどね」
「エリーク、孤児?」
「うん。成人前にいろいろあって両親が判明してね。そこから血縁がわかったんだ」
いろいろあって、の内容が気にならなくもないが、そういうこともあるのか。
「身内だけど、腕はいいんだ。そこは保証するよ」
「ん」
しばらくしてお茶を携えてやってきたお姉さん、エイミと自己紹介をしあい、早速、ペンダント型の発動体を改造したいと相談する。
「あら、ペンダントなのね。これなら加工しやすいから任せてちょうだい」
手首周りと手の甲の長さを計られる。
ペンダントを預けると、石と鎖の長さを計って大きくうなずいた。
「手甲飾にするわね」
手の甲を覆うタイプのアクセサリーらしい。ペンダントの石が手の甲にくるように、指輪と腕に巻く鎖で接続する。
「魔術を抜いた指輪があるからちょうどよかったわ」
エイミはアクセサリー専門の魔導具職人で、さまざまな魔導具の加工を得意としているらしい。
天然の魔導具から魔術を抜いて研究し、人工の魔道具へ転用することなども行っているそうだ。
「このところ落ち着いてきたけど、三年前のブームはすごかったのよ。魔導具界に新風が吹き荒れてね」
「来訪者が魔導具の方にも現れたらしいね」
「そう。……残念なこともあったけどね」
転移者のことだ。
実のところ、特許とか、不労所得を得ようと職人側にアプローチして近づいていった転移者も少なくはない。しかしそのほとんどが、不慮の事故とか、誘拐などに巻き込まれた。所詮身内も後ろ楯も、力もない成人したての子どもに過ぎなかった転移者は、権力の犠牲になった。
生き延びたものもいる一方、消えていったものたちも少なくない。それを掲示板で知った転移者たちは、特許や不労所得には手を出さなくなった。あるいは、権力の後ろ楯を求めて自らを売った。
そういう流れがあって、ポテチはこの街の至るところで売られている。転移者が、ケンたちが特に見返りなくレシピを手放したからだ。爆発的に広がった。
エイミは工具を使って手際よくペンダントを解体し、組み立てた。俺の手を取ると手の甲に石を垂らし、鎖を二、三個外して長さを整える。
「はい、できた」
「はやい!」
「素材の余裕があるアクセサリーならこんなもんよ。窮屈じゃない?」
「大丈夫」
「気に入った?」
「ん」
「かわいい!!」
普通に返事をしただけなのに、歓声をあげて抱きつかれた。なんなんだ。
「姉さんに頼んでよかったよ。金貨でいい?」
「多いわよ、ばか」
「でも指輪もあるだろ」
「魔術の抜けた指輪なんてゴミよ、ゴミ。炉で溶かそうにも溶けないんだからね。大した手間じゃなかったし、大銅貨でもいいくらいよ。……あー、はいはい、そうね、銀貨二枚でいいわ」
「仕事を安売りしない姉さんはえらいね」
危うくエリークに奢られそうになったが、払う手を握りしめて止めて、俺が払う。俺の頼み事なんだから、当然だろ。
「かわいい!!」
また抱き締められた。もうどうにでもして。
店を出るときには、エイミにひたすら頭を撫でられたあと、丁寧に髪をすかれ、ケープの中に髪をしまい、フードをしっかりと被せられた。
「近頃は落ち着いているけど、色持ちはやはり危ないわ。言うまでもないと思うけど、気をつけてあげるのよ」
「わかってるよ」
また治安が悪いって話?
やーだね。
「色持ち、狙われる?」
「んー……うん」
エイミの工房を後にしてしばらく。
エリークは少し迷ったあと、苦笑してうなずいた。
「さっきも言ってたろ、来訪者の躍進。突然現れた謎の知識を持つものたち。ケンたちもだけど、彼らは色持ちが多かったんだ」
その未知の知識を巡って、行方不明者が相次いだ。そしてそれは、三年経った今も続いている。それだけ転移者には価値があった。価値のある知識を持つものが、多かった。
逆に、求める側に与して、転移者を拐かそうとした転移者がいたことも、知っている。ノアによって処されたけど。それでも出来ることなんて掲示板からの追放くらいで、本当の意味で処すことの出来ないのが悔しいとノアは言っていた。やることは適当だが、潔癖なのだ。
「それで色持ちが狙われるようになった?」
「特に成人前後の色持ちがね」
ケンたちの声が大きいのも、五人で仲間を組まずにそれぞれにわかれているのも、三年のあいだにいろいろあったからなんだろう。
俺が宝迷宮でたったひとり三年を暮らしたように、転移者たちも街という見知らぬ場所で、味方なく三年を暮らした。俺が苦しんだように、彼らにも苦しみがあった。
今も掲示板で助けを求め続けているものもいる。そのほとんどは、貴族とか、金持ちの商人に捕まって監禁されているらしい。どうにか助けてやりたいが、どの街にいるかもわからない、誰のもとにいるかもわからないのでは、助けにいきようがない。わかったとしても、助けることが出来るかどうか。
無力なのだ。
なんとなく落ち込んだ俺を励ますように、エリークがぽんと背中を叩く。
いや、まあ俺が抱え込むことじゃないのはもちろん、わかってるんだけどさ。
その日は屋台飯って気分でもなくて、久々に花の春風亭の夕食をとった。
カウディアーのミートローフはこってりしたブラウンソースのかかった赤身肉が絶品だった。黒パンをスグリのジャムで食べるのも慣れてきた。癖になる味。
ホットワインを少しだけもらった。果物とスパイスの香りが湯気になって漂うと、幸せになる飲み物だった。




