39.血統認証
「冒険者ギルドに卸すということで構いませんか?」
「ん」
購入方法は競売方式ではなく抽選方式で、抽選に当たったものから順に即金で購入できるかどうかを問われるんだそうだ。一日以内に返答が必要になり、即金で払えない場合は次の抽選者へ権利が移る。そのため、魔法鞄が欲しい人たちは即金で払えるよう、常に買えるだけの金を用意しているんだって。
先日一緒に食事をした転移者五人組の中でも、ヤーノはそのタイプで、金を用意して待っているらしい。他の四人は貯金はしているけど、魔法鞄を即金で買うほどには貯めてないそうだ。
同じ転移者のよしみでヤーノに当たればいいな。
「改めまして、おめでとうございます。部屋型からの魔法鞄には、血統認証をおすすめしていますがいかがいたしますか?」
「血統認証?」
「説明させていただきますね」
血統認証とは魔法鞄を完全に自分の物にするための手続きだという。
これを行ってしまうと、売却したり手離したりするのに必要以上に手間がかかるようになるため、箱型では推奨していない。
血統認証をすると、取り出しがアナログ方式ではなく、手に取ると鞄の中身がわかり、引き寄せる方式になるらしい。さすがにアイテム一覧のようなものは出ないが、手を突っ込まずに出せる分、慣れると楽なんだって。取り出し方に癖があるので、練習が必要とのこと。
「部屋型はそのままですと取り出せないものが出てきてしまいますので、その意味でも血統認証をおすすめしています」
他にも血統認証してしまえば本人にしか使えなくなるため、防犯上もおすすめなのだとか。
「やる」
「では準備いたしますね」
用意されたのは細い針だった。
俺の手をハルシェが取る。
「少し痛みますけど、魔法鞄の登録には必要なことですので」
「ん」
指先に針が刺されて、浮かんだ血の玉をブローチの宝石部分につけるように言われる。
「そのまま、『トラデレ』と唱えてください」
「明け渡せ」
一瞬だけブローチが鈍い光を放ち、すぐに消える。感覚としては俺の血がブローチに行き渡った、という不思議な確信がある。
「さすが呪文使いの魔術師ですね。登録が早い」
普通ならもう何度か唱えることが必要で、中には登録に一晩かかる人もいるというのだから驚きだ。発音がネイティブでよかった。
滅多にないことだけど、血統認証したアイテムを手離したい場合には、譲る相手に上書きしてもらう必要があるらしい。
「相手がすぐそばにいるのであれば、譲渡契約を結んでいただければスムーズに移行します。けれど相手がすぐ見つかるとは限りませんので」
「ん、気をつける」
特に俺のような色持ちの血統認証を上書きするのは大変らしい。まあ、部屋型の魔法鞄なんて絶対手離さないから推奨されたんだけどね。
他の、たとえば魔導具なんかでも血統認証は出来るけど、後の事を考えると売れなくなるからやらない方がいいよ、という話だった。
「魔導具も本当は血統認証した方がいいけどね」
エリークはそう肩をすくめる。ハルシェが首をかしげた。
「そうでしょうか?」
「奪われて相手が使ったら困るだろう?」
「そう……、そうですね。迷宮都市ではあまりないことなので失念しておりました」
盗賊退治とか、人間相手の依頼を受けることも冒険者はある。そういった依頼を想定した場合、奪われることにも備えておくのが大事だとエリークは言う。
そういう考え方もあるんだな。色々だ。
その他の血統認証については所有者の俺に任せる、ということで話はまとまった。
残りの宝物はほぼ魔導具。発動体はなかった。
「発動体推しは終わったのかな」
「魔導具も四等、三等と質がよくなりましたね」
特に今求めている魔導具はないので、すべて売却。
今回は魔術触媒も肉もなかったが、儲けはかなりのものだった。エリークは「アスルのお陰だ」と笑うが、俺ではあれだけの獲物を持ち帰れなかったし、綺麗に倒すことも出来なかった。
「でも、一人でも三日で踏破出来るだろ?」
「んん、四日欲しい」
「そう?」
「アイスウルフが厄介」
「たしかに君とウルフは相性が悪いかもね」
俺はほぼ後衛型なので、襲いかかってくる魔物とは相性が悪いのだ。
ジャカロプのように突進したらしばらく攻撃出来ないような、隙のある魔物は楽に倒せる。けれど連続攻撃を仕掛けてくるようなのは、攻撃のタイミングがシビアだ。出来れば先手したいが、呪文の魔術は飛ばない。
「発動体だと減衰する」
「呪文よりは、発動体を通す分、魔力の変換効率が下がるとは聞くね」
「どうにもならない?」
「籠める魔力を増やすか、魔術触媒の量を調節するかかな。俺は発動体しか使ってこなかったから、減衰はあまり感じたことがない」
「ん」
籠める魔力を増やす、か。
呪文は慣れもあるのか、魔術触媒を握った段階でこのくらいという量がわかるのだが、発動体はその目安とズレがあって気持ち悪い。
それにペンダントは咄嗟に使いにくいので、改造したい。腕に巻くような形に出来ないかな。
「改造か。それなら魔導具工房へ行ってみようか」
「行く!」
宝迷宮から戻ってきたのが昼過ぎで、今はもう夕方近い。後日連れていってもらう約束をして、今日のところは花の春風亭へ帰った。
『浄化』しちゃったので風呂はなし。ちょっと残念。
翌日、まずは魔術触媒屋で補充をして、光膚を売った。
ジャカロプの毛皮があるから光膚は買ってもらえないかもと思っていたが、意外に光膚は不足しているという。
「ジャカロプは元々、毛皮が高えだろ。こっちまで回ってこねえ。下手こいた毛皮でいいから持ってくりゃいいものを、冒険者はほんと頭が回らねえよな」
「ニール」
お口悪いですよ。
「何が素材かはわからんが、これまた綺麗に焼いてあるな。まあ等級は混ざってるが、構わん。買ってやるよ」
光膚と樹灰は『治癒』の魔術触媒としてセットだ。樹灰がなければ、水と風と火を混合する必要があるが、光膚がなければ始まらない。樹灰と違い必須魔術触媒だが、他所から手にいれる当てもある。
その辺を加味した結果、一袋金貨14枚で売れた。二袋持ってきたので金貨28枚。ちなみに取れたのは三袋分。一袋はエリークと二人でわけた。
「今回は他の素材はねえのか?」
「ああ」
「ちったぁ自給自足してもらわねえと、冒険者の魔術師を二人も養えるほどでけえ店じゃねえぞ?」
「わかってるよ」
エリークが素材を集めてくるのは、自分が集めてこないと魔術触媒が手に入らないから、というのが大きい。
俺もそうだが、魔術触媒は基本的に自給自足だ。普通の、魔術師ではない冒険者は、魔術触媒の素材など二の次、三の次なのだ。売れる素材として一応知識はあるが、持ってくるかというと話は別だ。より高い部位から優先される。
魔術触媒は高いが、その素材はそう高くない、という矛盾もある。加工するための手順が複雑でめんどくさいからだ。細かく削ったり、灰になるまで魔術で焼いたり、煮出したり、煎じたり、細々と手間がかかる。量が多ければなおのこと。
だから魔術師は、魔術触媒屋に素材を持ち込む。そして足りない分だけ購入する。
魔術触媒屋のメインの客層は、冒険者ではなく貴族だという。
ニール、こんなに口が悪いのに貴族の相手が出来るんだな。ちょっと感心する。




