38.40層の守護者
スケルトン一体一体は大した量ではないが、積み重なるとかなりの量の魔術触媒になった。
「光膚はニールも買い取ってくれなさそうだな」
「光の魔術講座する?」
俺が言うとエリークは笑った。
「いいな、君が講師をしてくれるなら俺も出たい」
「エリークが講師する」
「俺は前にやったし、もういいよ」
そういえば前はどういう流れで魔術講座になったんだろう。
聞いてみると、ルナリスの護衛に魔術師がいないからだという。
「彼の廻りには騎士しかいないようだったから」
「騎士は魔術使わない?」
「使わない。厳密に魔術師部隊と分かれている」
「便利なのに」
「融通がきかないんだ」
エリークは苦笑する。
魔術師が自分一人では荷が重いと依頼を断ったところ、それなら自分が魔術を使えるようになろう、とルナリスが言い出したのだそうだ。
まわりは止めたが、彼は言い出したら聞かなくて、翌日に講座をする流れになったと。訓練所ではじめたら野次馬が来たので、「興味のあるものは参加すればいい」とルナリスが招き入れたんだって。
そういう流れだったのか。
軽い休憩ということで、水だけ飲む。
「40層守護者、なに?」
「マドゴーレムだよ」
「ゴーレム、何取れる?」
「泥。たくさん持ってこいって言われるけど、掻き出す道具なんて持ってないし、臭いし、少し詰めて終わりかな」
「泥……」
それしか取れないというのも潔いというか、なんというか。
「泥を飛ばしてくるし、臭いから離れているといいよ」
「がんばる」
臭いのも汚れるのも嫌だが、エリークばかりに戦わせるのも忍びないと思っているのだ。
40層、守護者の間。
虹色の油膜を越えて中へ入ると、腐ったような異臭と圧迫感が押し寄せる。思ったよりずっと臭い!
マドゴーレムは泥で出来たゴーレムだが、どろどろの巨体で這って移動してくる。なんというか、腐ってやがる……と言いたくなるビジュアルだ。実際、腐敗臭がすごい。
えづきそうになるのを堪えて、エリークの戦いを見守る。使っているのは光の魔術だ。『光線』か。エリークが杖を振ると閃光が走り、光の剣を振るってるみたいに見える。
光が通った後は泥が切られ、地面にぼとぼとと落ちる。マドゴーレムが切られながらも自身の落ちた泥を掴み、振りかぶる。エリークが壁のような魔術でそれを受け止めた。おお、見たことのない魔術だ。
感心してたらこっちにも泥が投げられた。エリークのように壁は出せないので、あわてて回避しつつ『盾』を張る。
やはり防ぎきれず、左足に泥がついた。と思ったら足が固められて、その場に尻餅をつく。びしゃりと泥が跳ねる。足を捻った。汚い! 臭い! 痛い!
「目覚めよ!」
これはやむを得ないだろ、と判断して『浄化』。足の拘束を抜け出す。『浄化』すると泥が消える。
――ならマドゴーレムを『浄化』したら?
『浄化』ならエリークごと巻き込んだって構わない。多めの魔術触媒を投げてばらまく。
「アスル!?」
「清めよ!」
ばらまいた魔術触媒が俺の呪文によって光り輝き、清浄をもたらす。
マドゴーレムがのけぞって後退し、ふるえるような素振りを見せた。
「怯えている? アスル、もう一度頼めるか?」
「ん」
下がってきたエリークに変わって前へ出て、魔術触媒を思い切りぶん投げる。魔術が飛ばないなら、魔術触媒を飛ばせばいいじゃない。
「清めよ!」
星をばらまいたように小さな光があちこちで炸裂し、マッドゴーレムが軋むような呻き声をあげる。泥が溶け消えていき、後には痩せ細った骸骨が残った。
いびつで、いくつもの獣が組み合わされたような形をしている。
「合成獣……?」
マドゴーレムじゃなくて、キマイラの失敗作だったんだろうか。
退こうとする骸骨キマイラから、魔核をエリークが切り取る。ガラガラと音を立てて骨が崩れた。
それを見守って、エリークが俺の方へやってくる。
「足は?」
「ちょっと捻っただけ」
エリークの杖が俺の左足首に近づき、温かな光がともる。『治癒』だ。痛みが消える。
「ありがと」
「『浄化』助かったよ。まさかキマイラゾンビとは思っていなかった」
「マドゴーレムじゃなかった?」
「元々、守護者にマドゴーレムはいたんだ。もう少し後の階層だったけどね。だからそうだとばかり思い込んでいた」
エリークいわく、キマイラにしては弱いのだという。
「ゾンビだから?」
「腐敗しているにしても、魔法を使ってくるものなんだが」
エリークは首をかしげている。
魔物のなかには、魔術触媒も呪文もなしに魔法を使ってくるものもいる。魔物にしか使えないという力。キマイラはそのタイプらしい。
「下の階層だから、弱体化しているのかも」
「そうかもしれない」
今となっては泥だったのか腐肉だったのかわからないどろどろは『浄化』できれいになったので、残っているのは骨だけだ。
エリークの魔法鞄にはもう余裕がないそうだが、俺のにはまだ入る。せっせと拾っては詰め込んでいき、全部収まった。
「入った!」
「セスたちが喜ぶよ」
「楽しみ」
転移陣を踏んで、街へ帰った。守護者の間の宝物も小型箱だった。
解体所は歓喜の渦に包まれた。
「エリークさん、やれば出来るんじゃないですか!」
「やったあ、すごい完全体! さいこぉ!」
「捗りますよぉ~~!」
「今回だけ特別ね」
「そんなあー!」
セスの嘆きをよそに全部出し終える。出す数が少ないので、エリークの方は早かった。意外と大変だったのが俺だ。骨の数が多い。
「あれ? スケルトンにしては骨がおかしくないです?」
「ああ。守護者がマドゴーレムじゃなくてキマイラゾンビだったらしくて」
「キマイラゾンビ!」
「の骨!」
「もしかして全部あるんです!?」
「んん、たぶん全部拾ってきた、と思う」
「やったあ~~」
骨格標本が作れる!と解体所が大騒ぎだ。
エリークは苦笑している。
「元々いびつで変なキマイラだったから、きれいな骨格じゃないよ」
「それはそれで味があるからいいんですよ! むしろそういうのが好事家には好かれるんです!」
「そういうもの?」
「そういうもの!」
そういうものらしい。
せっせと魔法鞄を漁っては取りだし、ようやくすべての骨を出し終えた。たぶん出し残しはない。意外と細かい骨が多くて大変だった。
「いやあ~今回は豊作でしたね!」
「次回もよろしくお願いしますっ!」
「やだよ」
一刀両断のエリークに、え~!の大合唱が起きてて面白かった。
番号札を受け取ったら、次は鑑定所へ。
拾ってきた宝物は十二個。今回も全部小型箱だった。
「たくさん拾ってきましたね」
「ん」
鑑定所員のハルシェにピッキングしてもらい、中身を鑑定してもらったところ、ブローチ型の魔法鞄がひとつ出た。
「あら。この等級ですと、部屋型の可能性が高いですね」
おお、ついに!
魔法鞄は、二メートル立方以上かつ立方体ではないものから部屋型と呼ばれるようになる。天井の高さが二メートル固定で、広さが変わっていくようになるのだ。
なお天井の高さが二メートルを超えてくると、倉庫型と呼ばれるようになる。
詳細は調べてみないとわからないが、天井二メートル、四メートル四方はありそうだとのこと。
おおおお、広い!
エリークは以前から言っている通り、倉庫型しかもういらないというので、この魔法鞄は俺がもらうことになった。嬉しい。これで荷物に困らなくなるぞ。
代わりに獲物を取り出して空になっている箱型の魔法鞄をひとつ、売りに出すことにする。ベルトポーチだ。
「手放されるんですか?」
「ん、幸運のお裾分け」
俺が言うと、エリークとハルシェが笑った。
冒険者ギルドの鑑定所で売りに出された魔法鞄は、ギルドで販売され、冒険者に優先的に取得権が発生する。代わりに、魔導具屋に売るよりも安くなる。




