37.導きの目
安寧の間へ辿り着いて、宝物をひとつ手に入れる。エリークが大きく息をついた。
「やはりアスルはすごいな」
「エリークの方がすごい。俺一人だとここまで辿り着けてない」
「俺だってそうだよ。君の先導人としての能力は計り知れない」
「ん」
まあ、たしかに。糸が見えるのは普通ではなくて、すごいことなんだろう。俺もいろいろな人に言われたし、指名依頼も受けたし、ようやくわかってきた。
ただこれって、俺のどこに由来してるのかよくわからない能力なんだよな。
俺は平凡な、中流の暮らしが出来る能力が欲しいと頼んだ。
掲示板を作ったことでそれは足りなくなって、白髪になり、宝迷宮へ送られた。
三ヶ月後魔力が満ちて、水色の髪になった。
手違いで神聖語ネイティブになった。
三年間迷宮で暮らした。
俺の目が不思議な糸を捉えている、と気がついたのは、いつだったっけ。魔力が満ちる前だった気がする。ならば、白髪の能力だったのか。
そうだとしたら、白髪の冒険者はもう少し注目を浴びているはずじゃないか?
わからない。俺以外に、先導人にあったこともないし。
ただ、由来のわからない能力は怖い。
いつか突然見えなくなったら、という不安は常にある。
この力をあてにされると、ちょっとだけ怖いのだ。
宝迷宮の安寧の間を渡り歩くことを、精霊の導きといい、それを可能にする目を導きの目という。精霊に愛された証だと、そういうらしい。
俺の導きの目の出所がはっきりすれば少しは安心できるんだけどな。
キャンプ用品を取り出して、簡易燃料に火をつけた。
エリークが面白そうに笑う。
「なに?」
「いや、本当に宝迷宮で使うんだなと思って」
「宝迷宮さむい。温かいの欲しい」
「それはたしかに」
「いま、リゾット作る」
「ありがとう、楽しみだな」
途中で大箱の携帯食糧を入れようとして止められるハプニングもあったが、街の携帯食糧を買い足すのを忘れていたのだと説明して強行した。
正直に言えば、甘い粥が嫌だっただけである。
干し肉はエリークからもらった肉で作った。なんか恐竜みたいなやつの肉だ。あと迷宮茸を干したやつの残り。
どういうわけか鮭みたいな味がして美味かった。
「すごく希少なご飯を食べてる…」
「気のせい」
強いて言えば干し肉の肉がもう手に入らないくらいだ。迷宮茸は、大きいものでなければ入手可能だし。
干し肉も塊肉をもらって作ったので、結構な量が残ってる。鮭味の干し肉、もしかして鮭とばの味がするんじゃなかろうか。
リゾットを食べ終えたら、鍋を濯いでお茶を入れる。
煎れるお茶は前は自作の野草茶だったが、今回は街で買ってきた麦茶みたいなお茶だ。繊細な温度調節が必要なく、煮立てても大丈夫なお茶、ということで選んだ。
二人でお茶を飲んで、一息つく。
「宝迷宮の中にいることを忘れそうだな」
「……いいこと?」
「いいことだよ。体を休められる」
「ならいい」
寝る前、転移者五人組はどうしただろうか、と掲示板を開けるとノアからメッセージが来ていた。
「君の導きの目は『中流の平凡な生活』に応じて与えたものです。迷宮都市暮らしで安全に中流暮らしをするには、先導人がふさわしかったので。消える能力ではないので安心してください」
……いや、なんていうか、うん……。
安心はした、たしかに安心はしたけども、プライバシー!
心を覗かないで!
世の中にはプライバシーってもんがあるんですよノアさん!!
翌朝、朝の5時には出発。宝迷宮の朝は早い。
37層、なにか不思議なものがある、と近寄ってもらって、蜘蛛の巣を見つけた。
一見すると繊細なレース編みのようで、たしかに価値がある、と言われるのもわかる。
「触ると蜘蛛が来るから気をつけてね」
「蜘蛛倒す?」
「糸袋はいい値になるけど、他は特にないね」
「ならいい」
蜘蛛に恨みはないし、避ければ別の道から階段へ行ける。ちょっと知らない気配だったから気になっただけだ。
「虫、魔物とは違う気配がする」
「そうなのか」
「見つけにくい、かも」
「大丈夫だよ。40層までにいるのは巣を張るやつで、襲ってくるやつはいなかった」
「ん」
襲ってくる蜘蛛もいるのか。
虫の気配は、他にもたくさんの虫やスライムがいるのでわかりにくい。それが今のうちにわかっただけでも発見だったかもしれない。
蜘蛛はスルーして、地走りは二匹倒した。一匹は丸ごとチャレンジで、もう一匹はお肉用のぶつ切り予定だ。リザードのステーキ、楽しみ。
38層、スケルトンが出た。
振り上げられた曲刀を避けて、エリークが杖を打ち付ける。甲高い音がしたが、スケルトンはびくともしない。そう、こいつ見た目の割にめちゃくちゃ堅いのだ。
「エリーク、離れる!」
思わず声をかけて、光膚と火牙の魔術触媒を撒く。エリークがスケルトンを突風で突き飛ばすように離れた。
「光り燃えろ」
光の柱が立ち、スケルトンが明るく燃え上がる。苦悶に身を捩り、膝をついた。
「光、燃えろ、『聖火』か」
「ん」
「ありがとう、光属性では効きが悪かったんだ。混合の必要があったんだな」
「〈スケルトン〉、エリークが来る前にいた拠点の廻りによく出た」
「前の階層より出る地点が早まってるのか」
スケルトンの武器は湾曲した剣だった。拾い、しげしげと眺める。
「高い?」
「曲剣だとそうでもないかな。直剣の方が人気が高いそうだよ」
「残念」
「魔核は燃え終わるまで取れないか」
「ん、取れる。熱くない。でも燃え終わるの待つ。灰、光膚になる」
「闇骨じゃなく?」
「ん」
周辺を警戒しつつ燃え尽きるのを待つ。待つといっても、ほんの五分ほどで魔核を残してすべて灰になった。
エリークがほんの少しの灰を手に取り、手のひらを見つめる。ぽうっと明かりの玉がエリークの手の上に生まれた。
『灯明』だ。魔術触媒の属性を調べたのだろう。
「属性変換があるとは知らなかった」
「闇属性の魔物は『聖火』で全部焼いてみたくなる」
「過激だ」
エリークにおかしそうに笑われた。だって燃やしたら灰になるから、魔術触媒に出来て一石二鳥じゃないか。
革袋を出して、二人で灰を集めて詰める。
「光と樹の魔術触媒がこれで揃うことになるな」
「ん?」
「いや、前に言っていた、宝迷宮が魔術師を求めているという話だよ。『治癒』の魔術触媒が揃う。ちょっとぞっとしないな」
「ん……」
これから怪我が増えるぞ、という警告にも取れるし、単純に魔術師を始めるなら『治癒』からにしろ、というメッセージにも見える。
宝迷宮の考えることなんて、ただびとがいくら考えたところでわかることなんてないんだけども、ちょっと考えてしまうよな。
「火牙も必要になるから、ウルフ階層を忌諱してる場合じゃなくなる」
「ワーウルフいや」
「ヒト型は俺も嫌いだ」
40層の安寧の間へ辿り着き、小型の宝物を入手。
39層からはスケルトンソルジャーだけでなくアーチャーも出るようになりめんどくさかった。俺の『聖火』は飛ばないのだ。
エリークが代わりに『聖火』を撃ってくれたが、ちょっと悔しかった。俺も杖型の発動体欲しい。ペンダント型は咄嗟には使いづらい。欲望は尽きない。




