35.魅惑のポテチ
「話題の青頭巾ちゃんは色持ちだったっすね」
青頭巾ちゃんてなんだ。俺か。
髪を洗ったところだから、さすがにフードは下ろしてきた。ご飯食べるし。
「髪サラサラだなー! シャンプーなに使ってる?」
「いやまじで知りたい、髪ギシギシになったわ」
「香油?てやつも使ってみたけどいまいちで。やはり高いやつだと違うんかな?」
初対面なのにぐいぐい来るな。
俺がちょっと引いてしまうとエリークが庇ってくれる。
「はい、酔っぱらいが絡まない。髪用の石鹸が売ってたよ。濯ぎ液もある」
「やっぱシャンプーとリンスがあったんだ!」
「今度買いに行こ!」
にぎやかだ。
それにしてもみな十八歳のはずだが、でかい。身長たっかい! エリークも高いけど、みんな同じくらい。そんなに伸びるもんなの?
それにやはり二十代前半くらいに見える。成長差分がここに!
てことは待てよ、二十代前半に見えるエリークはいくつなんだ!?
「エリーク、いくつ?」
「ん?」
「とし」
「とし? ああ、年齢? 二十二だよ」
なんだ二十二か。もとの世界とは成人までの差が大きいだけで、そんなに差があるわけじゃないのかな。
「なんで突然、年齢?」
「意外と不思議ちゃん?」
「前に、君たち来訪者が成人で現れたと説明したからじゃないかな。君もすぐ大きくなるよ」
「ん……」
「そうそう、子どもが大きくなるのなんてあっという間よー」
「待て、青頭巾ちゃん冒険者ギルドにいなかった?」
「成人してる?」
「してる」
「ち」
おそらく「ちっちゃ!」と言おうとしたと思われる転移者は周囲から一斉に口を抑えられて失言を防がれた。まあなんとなく予測は出来ちゃったんだけども。
「大器晩成、そう、ゆっくり成長するタイプもいるからダイジョブ」
「今日はおごるからいっぱい食べてねえ!」
「いや俺が出すから」
エリークに突っ込まれていた。
静かに食べるのは苦手だから部屋で食べる、ということで部屋にお邪魔する。
四人部屋を取ったらしく、部屋は広々としていた。ちなみにベッドの足りない分は、じゃんけんして負けたやつが二人で寝るのだという。「いつものベッドより倍でかいから問題ないっすけどねー」と笑っていた。
最初から「俺たち結構うるさいっすけど許してくださいね」と言われていたとおり、にぎやかな食卓になった。
とはいえ口に入れながら話したりはしないので汚くはない。そのくせ話が途切れず、常に誰かが話してるのがすごい。それだけ、仲がいいのだろう。
今はみんなが違うパーティーを組んでいるというのが、ちょっと不思議な五人組である。
高級宿にもポテチがあり、俺は久々のポテチを味わった。思ったより厚切りだったが、しっかりパリパリになっていて、歯応えがある。香辛料が効いていて、塩味もバッチリ、美味しい。
「改めて俺はケンです!」
「ツジっす!」
「ソーシです!」
「シオンっす」
「ヤーノです」
転移者五人から、改めて自己紹介を受けた。みんな大体、日本語の名字か名前みたいだな。てか、思い出せたのか。俺はもとの世界の名前はさっぱり思い出せなかったんだけど。
ケンとシオンが黒髪、ツジとソーシが茶髪、ヤーノが赤髪。
ひとくくりに黒髪といっても同じ色じゃなくて、ケンは青っぽい黒髪で、シオンは緑っぽい。茶髪もツジが淡くて、ソーシが濃い。色味がそれぞれ違う。
ケンとツジの髪色は、どこか目が惹き付けられるものがある。これが色持ちってやつなんだろうか。
「ん、アスル」
「アスルは言葉が流暢じゃない。聞き取りは問題ないが、なるべく早口は避けてやってくれ」
「おっ了解っす!」
「よその国出身?」
「わからない」
「はいこの話題触れない~」
突っ込んできたと思ったらサーッと引いていくのでちょっと面白い。
しばらくは最近の宝迷宮の話とか、世間話をしていたが、話題はやがて魔術になった。
発動体を手に入れたので魔術を使いたいが、魔名が少なくて不満、もっと知りたいという。酒を飲み始めたので、相談するというより管を巻いているのに近い。
エリークは苦笑いしつつ、聞いてやっている。
「魔術師の持つ術の数は、奥の手の数だ。容易には明かさない。それになにより事故が起きると困る」
「それはそうなんすけどー」
「魔術を使う先輩についていくと、魔名を聞けることがあるってきいたけど、魔術を使う人なんてエリークさんしか知らねえっすよぉ」
魔術師は、特にそれを専門にするものは、珍しいそうだ。俺も魔術師だけど、ダガーを装備しているのは、そう見えないようにするためでもある。
魔術師って回復職としても、攻撃職としてもオールマイティーなもんだから、狙われやすいんだって。
正面から誘われるだけならいいけど、脅されたり、拐われたりすることもあるというのだから、穏やかではない。
治安が悪いってやーね。
「『闇形』、教えてあげたら?」
「俺は当面は『治癒』だけでいいと思ってるよ」
「教えてもらえるならなんでも教えてもらいたいっすけど!」
「教えるのを絞りたいその心は!?」
「魔術触媒を管理するのと覚えるのが大変だからだよ。治療をしたいときに闇骨を使ったり、魔術触媒は合っていても魔名を間違えて無駄にしたりする」
「ああ、そういう」
「……俺らバカだと思われてる?」
「咄嗟の判断が命取りになるって話だよ。『治癒』しか覚えていなければ、間違うことはない。『治癒』を覚えてから先へ進めばいい」
エリークの考えにも納得する。ひとつしか覚えてなければ、間違いようがない。それはたしかだ。
そういう話なら、俺も下手に口を挟まないでおこう。俺も『治癒』には助けられた身だしな。
「気遣いはわかるけど、ぶっちゃけヒーラーよりアタッカーになりてえっ!」
「わっかるー!」
「めちゃくちゃ魔法つかいてえ~~!」
「魔力の持ち腐れ!」
「マギだけじゃ物足りないんだよォー!」
転移者たちは叫んでジョッキを飲み干した。あ、つぶれた。
うーん。気持ちはすごいわかる。
俺も魔術を知ったときには大興奮した方だし、魔術触媒もせっせと作って出来たときには遊びまくった。
魔法イエーーー!!てなったもんだ。今となっては若干黒歴史でもある。せっかく作った魔術触媒でもったいないことしたな……。
「魔術師被れが遅く来ると大変だ」
「魔術師かぶれ?」
「魔術に憧れるのは、どんな子どもも一度は通る道だ」
あーね。
黒歴史だ。
「エリークもあった?」
「んー、あったかな。あったからいま、魔術師になってる」
「俺もあった」
「アスルが? 意外だな」
「ないしょ」
へへっと笑うと、エリークも微笑んでくれる。
テーブルで酔い潰れた五人をそのままにしておくのは、さすがに忍びない。起こしてベッドへ移動してもらう。
いちばん移動の遅かった二人が同じベッドだ。
ケンとヤーノが同じベッドになったが、全然気にしないようにすやすや寝始めた。
「初心者が使う冒険者の宿なんて雑魚寝がほとんどだからね。慣れてればベッドが同じくらい気にしないよ」
「ん」
そんなもんか。
というか初心者が使う宿屋って雑魚寝なんだ。知らなかった。一時は俺のランクに合う宿に移動しようかと考えていたけど、そういうのも考えないといけないのか。最低限、個室は欲しいよな。
今日はポテチで腹いっぱいになってしまったので、さすがにエリークに困った顔をされた。不甲斐ない。
「あっさり感じるけど、わりと胃にもたれるからね。俺も注意してあげればよかった」
「んん、集中しすぎた」
栄養をまんべんなく摂るために、いろいろなものを食べようと思っているのだが、つい一品に集中しがちな俺だ。今回はそれがポテチだった。気をつけねば。
エリークが受付になにか頼むと、部屋にお茶の準備がされていた。中国茶みたいな茶器で、エリークが煎れてくれる。
「なに?」
「胃もたれに効くお茶。寝る前に飲むと朝、スッキリする」
「飲む」
味は苦いけど後味がスーッとする。薬と思って飲んだ。実際薬なんだろうし。せっかくエリークが煎れてくれたし。
エリークは姿勢がいい。だらけているときもたしかにあるけど、大抵はぴんと背筋が伸びている。
こんな姿勢のいい孤児っている? 絶対エリークの嘘だと思っている。
でも嘘は必要だ。俺だって暴かれたくない嘘をついている。今更俺も来訪者だなんて、言いにくいし信じてもらえそうにないもんな。
※ ※ ※
【魔術覚え書き】
300 1
アウルムに到着してしばらくが経った。
師匠に言われて、宝迷宮にも冒険者と潜った。
迷路は精神を削られるし、宿泊は命がけだし、宝物は簡単には手に入らない。
魔術触媒の残量を常に計算しながら、怪我を放置するのも気が引けるし、疲れる。
宝迷宮に潜るやつはみんなあたまがわるい
301 名無しの転移者さん
いつの間にか到着してしばらく経ってて笑う
身バレ防止徹底してるな
302 名無しの転移者さん
あたまがwww わるいwww
シンプルに悪口すぎる
303 1
ごめん疲れてた
304 名無しの転移者さん
謝った……だと……?
305 名無しの転移者さん
マジ疲れすぎだろ。しっかり寝ろよ
306 名無しの転移者さん
まあ宝迷宮、慣れないときついもんな
ゆっくり休みなよ
310 1
うるさいよ
迷宮都市の魔術触媒屋は、種類も等級も豊富で、店員も知識があってすごくいいのだが、素材を持ってこいとうるさいのが玉に瑕だ。冒険者の後についていくだけの回復師にそこまでの権限があるわけないだろ
ただでさえ『治癒』代取るのに文句言われるのに
311 名無しの転移者さん
いやあるよ!!
魔術触媒代以外に素材取得くらい普通に主張しなされ
魔術師が欲しがる部位なんて大して金にならないんだからさ




