27.沼地の守護者
24層まで来た。
だんだん『浮遊』で滑るのに慣れてきた。出てくるのは魔魚ばかり。トビウオみたいにすごい飛ぶやつが途中から出てきた。これについては集団で襲ってくるのでもはや『盾』で防いで正面を突っ切るしかなく、えらい目に遭った。ケープの衝撃耐性が役に立ってしまった。
逃げ続けて疲れたし、腰から下は魚にどつかれて負傷したので『治癒』をかけた。今日のところはここで見つけた樹上の安寧の間で就寝。少しでも靴を乾かしたい。
翌朝も潜っていく。
26層から現れたのが鳥。これがまた厄介。
一羽は手に入れたくて、降りてきたところを『槍』で貫いて倒したけど、これ以上は無理。滑空して魔魚を取っていくのだが、それを追ってカバのような魔物が出てくるのだ。こわい。
カバはもう見なかったことにした。持ち帰れないし、叩かなければ温厚みたいだったので。
鳥は羽根が光の魔術触媒になる。あと売れるのは嘴に、鉤爪。鉤爪を改めて見たらもう鳥と戦う気は失せた。鉤爪こわい。
綺麗だったので丸ごと持って帰ることにして、魔魚の入ってる魔法鞄へ詰める。うーん、隙間がない。守護者が大物でないことを祈ろう。
28層。
睡蓮を見つけた。さすがに宝物はなかったが、花が咲いていたので少し刈り取る。刈り取っていたらケルピーに遭ったのでびっくりした。交戦しそうになったが、じっとしていたらまた潜って消えていった。
たぶん、目が見えないのだろう。その代わり耳が激しく動いていたので、音に反応するのかも。俺は『浮遊』している分、助かった。
二頭目のケルピーはいらないので、追いかけずにスルー。
採った睡蓮は、隙間もないので三本ほど。携帯食糧の魔法鞄へ。
蓮畑を越えたところの安寧の間で、就寝。
今日は無傷だったけど、やはり宝迷宮に潜っていると神経を使う。掲示板で沼地の守護者は何だったのか検索してみたが、情報がなかった。
『睡蓮の宝玉』ってそもそも物価の高い迷宮都市だし、変動が多いから事故が多いしで、転移者に人気がないのだ。そんなもんだから、掲示板にも情報が少ない。
これについては冒険者ギルドで情報をとってこなかった俺のミスだろう。次から気をつけよう。
現れる敵のラインナップからして、まあヒト型じゃないだろう。なんとかなるかぁ。
30層。
守護者の間もどうやら沼地らしい。守護者の門が水面に浮かんでいて違和感がすごい。
途中で『浮遊』が切れないようにだけ気をつけねば。落ちたら死ぬ。魔術触媒の残量は十分なので、マージンを取ってかけ直すようにしたい。
守護者の間に入ったが、特になにもいない。周囲は相変わらず木に囲まれた沼地で、水面は凪いでいる。
水中だろうか? 水のなかに入らないと反応しない? 軽く指先で水面を弾いてみるが、反応無し。
なんだろう。まさか守護者が不在とか。いやそんなばかな。大変動から一週間と経たずに変異するということもないだろう。
この沼地のどこかにいるのだ。でもここにあるものなんて木しか。
視界の端で何か動いた、と思った瞬間、大量の剃刀のような刃が降り注いできた。
『盾』を翳したが一瞬遅く、前腕を負傷。血が滴る。その血を狙うように今度は足元から槍のように何かが突き上がった。
後ろへ跳んでかわせば、それは鞭のようにしなって追撃してくる。腕を掴まれて、吊り上げられた。
枝。
片腕を掴まれた俺へ、更に枝が迫ってくる。
「切り落とせ!」
風角を撒いて『切断』。
そのまま水の上に落ちる。沼地の水、冷たい! 最悪だ。そこまで水深が深くなかったことだけが救いだろう。風角と火牙を投げて『浮遊』。ちくしょうめ。
あらかじめ見えていたのに、先入観が邪魔をして気づけなかった。
30層の守護者は、木だ。
血を狙ってくるようなので『治癒』で腕を癒す。この程度の傷で使うのはもったいないが、仕方ない。
相手の正体さえ分かれば、話は早い。木ならば、燃やすだけだ。
周囲は水で、火は威力が弱まるが、そんなもの魔力があればなんとでもできる。自然現象ではなく、魔術なのだから。
「目覚めよ」
再び降り注ぐカミソリのような葉を火牙を撒いて燃やす。
左手でペンダントを取り、握りしめる。
呪文はよくも悪くも全体攻撃、魔術触媒の撒かれた行方に左右される。魔術に指向性を与え、現象を飛ばすならば、発動体が必要になる。
つまりファイアーボールしたいなら発動体がいるのだ。近づかずに燃やしたい。
右手に火牙を握り、両手を前へつきだす。魔力を発動体へ流した。使い方はエリークに教わった。魔力は息を吐くように、前へ!
音もなく生まれた炎が勢いよく吹き出し、目の前に迫った木の枝を焼いた。樹上の葉へ燃え広がる。木が苦悶するように幹を捻り、枝を振り回す。剃刀のような葉が降ってくる。
三度も同じ手は食わない。火牙を撒いて、葉を振り払う。
「燃えろ」
あとはもう、適宜『浮遊』をかけ直しつつ、木が燃え尽きるのを離れて見守るだけだ。途中で生焼けの枝を『切断』して魔法鞄へ仕舞ったりもしたが、やったことといえばそのくらい。
ついでに動きが鈍くなってからは火に当たって体を乾かしたりした。最後の最後で沼地に浸かるとはついてない。
暴れながら燃えていた木がやがて力を失い、炎が燻りはじめる。転移陣が光り、宝物が現れた。小型箱。コンパクトなことはいいことだ。
燃え尽きるのを待って、灰をたっぷり回収した。植物系の魔物、特にトレントの灰は樹の魔術触媒になる。このまま使えるので、丸儲けだ。この細かさなら等級も高いんじゃなかろうか。
最後に燃え残った魔核も回収。
あらかじめ分かっていれば、トレントなどただの的だったのにな。やはり情報って宝だ。改めてそう思う。
しかしトレントが灰になってくれたので、革袋に入れて隙間に詰めることが出来た。荷物がしっかり収まって万々歳だ。
転移陣を踏んで、いざ帰還。
夕暮れ前だったので、花の春風亭へ急いで帰った。荷下ろしは明日だ! 今日で宝迷宮再開から一週間。
とにかく風呂に入りたい!!
※ ※ ※
【だれか、助けてください】
205 イッチ
今日も魔力を絞られています。
老人は相変わらず、目も覚ましません。
今日はわたしの生活について書こうと思います。
朝、起きると無口な女の人が朝食を持ってきてくれます。いつも冷たい食事ですが、美味しいです。
先日はクロワッサンが出てきて美味しかったです。
朝食が終わると、老人へ魔力を注ぎます。
私が倒れるギリギリまで注ぐと、解放されます。
その後、お昼寝をします。
お昼寝から目覚めるとまたご飯です。軽食で、ごく少ない量をいただきますが、この食事は温かいです。いつもちょっとほっとします。
食事を終えたら、もう一度、老人へ魔力を注ぎます。
今度は倒れるギリギリではなく、気持ち悪くなった辺りで止めてもらえます。
魔力を注ぎ終えたら、また眠ります。
三日に一度は、この二回目の魔力を注いだあと、女の人が二人来て、私をお風呂へいれてくれます。
お風呂は華奢な足がついた、陶器で出来たバスタブで、海外のお風呂みたいで素敵です。シャワーはないけれど、女性ふたりが温かいお湯をかけて、いつも洗ってくれます。最初は恥ずかしかったけど、もう慣れました。
頭も洗ってくれて、いい香りのするオイルで櫛をかけてくれます。このときばかりは、とても気持ちいいです。
……実際に書いてみると、寝て食べてばかりで、わたしったら、思ったよりいい生活をしていますね。
でも、ここには自由がありません。窓もありません。
ここがどこなのか、老人が誰なのか、誰も教えてくれません。
誰もわたしに話しかけてくれません。
とてもさみしいです。
206 名無しの転移者さん
イッチちゃん乙
毎日二回も魔力を絞られてることにも驚いたけど、予想より上位の貴族に囚われてそうで驚いた。
三日に一度の風呂って相当じゃない?
208 名無しの転移者さん
俺はメイドさん(?)が二人ついてることに驚いたよ。
魔力を絞るためとはいえ、かなり手をかけてる気がする。
209 名無しの転移者さん
朝食にクロワッサンが出てくるってことは西方諸国だよな。
少なくとも東部列島ではないし、帝国でもないはず
更に言うならたぶん西方諸国でも北の方だと思う。それか、かなり金持ちの貴族家か。
215 名無しの転移者さん
思ったんだけど、その胸にある宝石って伝承器なんじゃないか?
継承者が決まってなくて老人の延命をしないといけないとか、そういう話なのかも
216 名無しの転移者さん
伝承器を持ってる貴族家ってことで、更に絞れてくるかもしれないな。




