26.21層から30層
昨日宝迷宮から出てきたし、今日は一日休んでようかと思ったけど、朝早く起きてしまった。もったいないので宝迷宮へ行くことに。
再開五日目になっても混雑している。大変動後って、一種のバブルみたいなもので、宝物は多く取れるし、情報は売れるし、冒険者としては行かなきゃ損な事態らしい。
掲示板では初日に潜ったグループが無事、10層にたどり着いたようだ。これからバイコーン戦だって。応援している。
11層以降がウルフとワーウルフの情報がギルドから解禁され、11層以降へ行く人が激減した。1層入り口がまた賑わっているらしい。ワーウルフ嫌だもんな。仕方ない。
それに10層からの帰還者が出たことで、最短ではないものの、地図情報も解禁された。これによって安全に行けるということで、様子見していた人も参加しだしたらしい。
1層入り口の混雑を尻目に、20層の転移の間へ移動。
おっと。
21層からは様相がかなり異なっていた。
これまでは洞窟の迷路だったのだが、がらりと風景が変わって、沼地を伴う密林になっている。レインツリーのような木々が鬱蒼と絡まりあい、迷路を作り上げているのだ。かなり薄暗い。
一見して熱帯雨林のような見た目なのに、少し肌寒いし、木の枝の隙間からはのっぺりとした土色が見える。洞窟より高いながらもちゃんと天井が存在するようだ。まあ室内なんだから、天井がなくても変だけどさ。宝迷宮ってふしぎ。
天井からは蒸発した水蒸気がそうさせるのか、ポツポツと雫が滴り落ちてくる。まるで小雨が降っているかのようだった。
この宝迷宮は「睡蓮の宝玉」と呼ばれるだけあって、睡蓮の花咲く沼地の階層が、大変動前から存在していたらしい。
大変動前は何層って聞いたっけな。50層? 60層? 掲示板を見ればわかると思うけど、結構奥地だった。今回は早くなったんだな。
そんな奥地の話なのになぜ「睡蓮の宝玉」という名が宝迷宮についたかといえば、睡蓮の咲く沼の中にあった宝物がすごいものだったから、らしい。
それが何なのかは詳細には伝わっていないんだけど、遺失物――今の人類には再現不可能な技術で作られた魔法具だったことは間違いない。この迷宮都市が宝迷宮を抱えて維持できるだけの、すごいお宝であったそうな。
そしてそれは、サフィルス迷宮公の家系に今も伝承器として伝わっている。だからサフィルス迷宮公は、睡蓮迷宮公とも呼ばれるのだとか、なんとか。
お宝以外では、睡蓮自体もいい薬になるんだって。見かけたら採取していこう。
それにしても昨日高い水の魔術触媒を買わなくてもよかったかもしれん。魔魚、いそう。
「目覚めよ」
まずは光膚を取り出して『灯明』、明かりの確保。
転移したその場は硬い石の地面だったが、数歩も行くと湿地で、足が沈み込みそうだった。
えーと、風と…、火だったっけ。そうそう、風角と火牙。魔術触媒を足元に振り撒いて、呪文。
「更に目覚めよ」
『浮遊』の魔術で、ふわりと足が浮かび上がる。おっと、結構不安定、だけど歩けないほどじゃない。歩くというより滑る方がよさそうか? あ、うん、よさそう。
スーッと湿地の数センチ上を滑って移動する。
呪文は「浮かべ」の方がよかったかもだが、あまり浮上しても困るので簡易句にした。あとはどのくらい持続してくれるかだな。なるべくもってほしい。幸いにして風角も火牙も在庫はしっかりある。
一応、蓮の大きな葉が続いて浮いているので、歩いて渡ることも出来そうだ。どこかで踏み抜いて落ちても困るので、俺は『浮遊』でいくけども。
滑りつつ糸を辿り進んでいくと、足元で大きな魚が跳ねた。
魔魚来た!
思ったよりでかい魚だったので、意外と深い沼地であることを知る。絶対落ちたくない。
バチャバチャと集まってくるので、光膚と火牙を撒く。
「轟け」
『雷撃』が沼地の表面を走り、一瞬水面が閃光を放つ。後にはプカプカと浮かぶ魚の群れ。うわ、多い。
魔術は、発動と同じ魔力の持ち主を攻撃しない。もちろん魔力を手離さずに握っておくというテクニックが必要になる。おかげで俺は感電しないというわけ。
うちあがった魔魚たちをせっせと引き上げて、魔法鞄へ仕舞う。解体は後だ。
ある程度仕舞ったら、先を急ぐ。
少し進むと、地面が草で覆われた場所が現れた。どうやらここは沼地ではないらしい。薬苔の群生地だ。
採取していると『浮遊』が切れて足が地面についた。五センチほどだろうか、足が地面へ沈み込む。靴が! 足に水が! これだけでも結構不快なのに、沼地なんて絶対入らない。
薬苔を採取し終えたら、『浮遊』をかけ直してまた進む。
安寧の間へ繋がる糸が、頭上へ上っていく。
上?
見上げると、木の枝が複雑に絡み合ってスペースが出来ている。わかりづらいな、これは。
早速木登りして、到達。木の枝の中央に光が浮かんで、小型箱が現れた。魔法鞄へ仕舞う。
靴を脱いで乾かそう。靴下もびしょびしょで嫌になる。
落ち着いたところで、魔魚の処理をする。
魚は主に鱗とヒレが水の魔術触媒になる。どんな種類でも一緒。
しかし種類が多い。中には毒のある魚や、解体方法の異なるアンコウみたいなのもいるかもしれない。ここで処理するより持ち帰った方がいいかも。一旦、魔法鞄から出して並べてまとめて『氷結』、かちんこちんに固めたところで戻し、魔術の解除。寒かった。
靴が乾くまで休みたいところだが、それでは時間がかかりすぎる。
このまま魚ばかりがしばらくは出るんだろうか?
木上から下を覗くと、ヌーッと大きな影が湿地を渡っていった。魚ではないな。なんだろ、大蛇かな? ヌシみたいなものだろうか。
見守っていると、顔を出した。
馬。
どう見ても馬だな。ケルピーか。バイコーンよりでかい。
きょろきょろと辺りを見回している。
これは倒さないと進めなさそうだ。
『影縛』、『突風』、『雷撃』、いろいろ考えてみたが、やはり『氷結』に決めた。
『浮遊』をかけて木上から飛び下り、水面に着地と同時に水鱗を撒く。
「水たるものよ、凍りつけ」
魔術触媒から凍っていった水面が、ケルピーの体を固めたところで、『槍』で脳天を突き刺す。魔導具は籠める魔力によって強度が変わるという。俺の魔力に応えて、『槍』はしっかりと貫いてくれた。
よしよし。
いや、しかしこの巨体どうしよう。
ためしに『浮遊』をかけると、ケルピーの全身がざばりと水面へ浮かび上がった。下半身が魚というより、蛇並みに長い。これはぶつ切りになるなあ……、それ以前に持ち帰れるかこれ?
首を肘で支えて木を上ると、ふわふわとついてくる。よかった、『浮遊』がきいてれば重くない。どうにかこうにか安寧の間である木上にケルピーを引き上げた。
いやでかい。安寧の間がケルピーで埋まっちゃうくらいでかいぞ。取捨選択のお時間だ。
掲示板で改めてケルピーについて調べると、下半身より上半身の方が価値が高いらしい。特に頭。鱗のある馬ということで、貴族が買うという。ほんとか~? 売れなかったら困る。
肉はすべて馬肉の赤身。珍味なんだって。あとヒレと鱗が魔術触媒になる。
うーんん。かなり悩んだ末、胴体のお肉をまるっとあきらめて首から上、たてがみ(ヒレ)付の頭、それから下半身の鱗と背鰭付肉をぶつ切りにして持ち帰ることにした。あと魔核。これが精いっぱいだ。残りはスライム行き。
これで魔魚とケルピー、魔法鞄が三つ満杯になった。21層にしてこれでは、幸先がいいやら悪いやら。




