18.大変動
解体所でマーモット、じゃなくてラピスキウルスの売却代金を受け取った。
「かなり色をつけたので、次回ももし見つけたら持ち込んでもらえると嬉しいですぅ!」
「うちで卸してもらえるのがいちばん無駄がありませんので!」
どゆこと?と首をかしげていたらエリークが解説してくれた。
「店舗に直接持ち込むと、その店で使わない部分は捨てられたりするらしい」
「転売するところもありますけど、転売はまだマシですね! 貴重な素材でもお構いなしに捨てちゃう店とかも多いので!」
なるほど、それは解体所としては許しがたい蛮行なのだろう。理解した。
「あ、あとなるべくきれいに持ち込んでもらえると嬉しいです。ぶつ切りは、ぶつ切りは最終手段で」
「保護者に似ちゃダメですよ!」
「そんなこと言うと持ち込まないよ?」
いやあっと悲鳴をあげつつもニナは楽しそうだし、エリークも笑っている。文句を言いつつも、いい関係なんだろう。
エリークも売却代金を受け取っていた。俺より3倍以上高かった。でも3倍くらいなんだよな。……ラピスキウルス高すぎない? 怖いわ。
「あとこれ、受付に持っていってくださいねえ」
番号札を渡された。
「それを持っていくと持ち込んだ魔物の等級に応じて実績になるんだよ」
「ん」
次は鑑定所で、昨日エリークが後回しにした分の鑑定結果。やはり倉庫型の魔法鞄のような大物は出なかったので、売却。
俺もいるか聞かれたけど、いらなかったので。
「また宝物が見つかったらご利用ください」
「ん、ありがとう」
ここでも番号札を受け取った。宝物の売却でも得点になるのか。宝物を得られるかって時の運のような気もするけど。いや、運も実力のうちってやつか。
エリークが受付に昨日の書類を渡すのを見守りつつ、俺も受付に並ぶ。ギルドマスターが対応するようなVIPの人と違って、下々は受付を利用するにも並ぶ必要があるらしい。
ちなみにギルドの中では、俺は今日もフード小僧である。意外とフード被ってる人は多いので、そこまで目立たない。
列に並んでいると、結構噂話が聞けたりする。
エリークは銀上級冒険者で、もうすぐ金になると言われているらしい。金級冒険者はやはり希少で、エリークのような接近戦もする魔術師は更に珍しい、とか。
迷宮都市で魔術師は珍しくないが、ロータスでは珍しい。ロータスには迷宮氾濫がないからだ。エリークのように優秀な魔術師がロータスを定住地に選んでいるのは何か理由があるらしい、とか。
背が高く金の色持ち、そして杖を携えた魔術師のエリークは噂の的だ。嘘かほんとかわからないことがいろいろ囁かれている。
有名税ってやつなのかね。
他には、この街の銀級といえば、最近噂のビジターがそろそろ銀級に上がるとか、まだ上がれないとか。
迷宮変動が中層から下層に降りてきているらしく、そろそろ迷宮が閉鎖されて大変動が起きるだろう……というような話が聞けた。
掲示板でも街限定の話って結構あるんだけど、最新ニュースや個人の話というのはなかなか入ってこない。こういうところで聞けるのは助かる。
有意義な話が聞けたところで、順番も来た。
「こんにちは、アスルさん。番号札をお預かりします。こちらへ冒険者証をかざしてください」
「ん」
首にかけた冒険者証を外して、昨日とはまた違う魔道具に押し当てると、冒険者証の色が変わる。
「実績が蓄積されました。本日より銅中級に昇格です」
「早い」
「早いですが、さすがにラピスキウルスの討伐と、宝物二十個以上の持ち込みを銅下級にしておくわけにはいきませんので」
本来は銀級レベルだが、そこまで上げるには在籍期間が足りないので、ここでしばらく昇格はストップだという。
いや、止まるのは全然構わないんだけど。
これ、変に目立ってしまうのでは? いや、初回から飛び級で登録してるので今更か?
何より色持ちな時点で、目立たないというのはもう無理なのか。
銅中級に昇格すると、宝迷宮の行ける階層が50層になるという。銅下級以下は30層まで。銅上級から制限ないんだって。
「これは行ってもいい、という話であって、行ってこいという話ではありませんから、くれぐれも勘違いなさらないようにしてくださいね!」
念を押された。よくある勘違いなんだろうな。
「このところ迷宮変動が確認されています。特に現在は、中層40層から先は銀級以上しか現在立ち入りが許可されておりません」
「わかった」
「立て続けに昇格された方は特に生き急いでしまう傾向が強いといいますか。とにかく、安全確認を怠らず、命あっての物種ですからね。十分にお気をつけください!」
「ん、はい」
しっかりぎっちり太い釘を刺されて、受付を後にした。心配してくれるって、優しい。
それにしても、冒険者になってしまったんだな。
ずっと街でだらだらしてるわけにもいかないから、いずれは宝迷宮に潜らないといけない。その前に、ワイバーンに再び遭ってしまったときのために、対策を立てておきたい。といってもこればかりは、実際遭ってみないことには。難しい問題だ。
まずは浅い層の守護者にでも挑んでみようか。
「大変動?」
「そう。いつ起こってもおかしくないからしばらく迷宮は閉鎖される」
「残念」
せっかく行く計画を練っていたのに。
「宝迷宮に行く気だった?」
「冒険者になったから」
「冒険者は大半遊んでいるものだよ」
アスルは真面目だな、とエリークが笑う。
「エリークも?」
「俺も。明日は服でも買いにいこうか」
「服、欲しい」
今の服は三年間三着を着回してきたので、かなり擦りきれていてやばいのだ。新しいの欲しい。
「日用品も買いにいこう」
「髪の石鹸買う」
「そうだね」
話しながら屋台飯で夕食をとる。
パンを半分にして、キルバードの肉を食べた。キルバードはケバブのような塊の肉をぐるぐる炙っていて、回りから削ぎ落としてソースをかけてくれる。香辛料のきいたまろやかなソースが絡んで、とても美味い。
今日はエリークの定宿、花の春風亭に泊まる。女将さんに話しておいてくれたらしく、部屋が二人部屋に変更されていた。
「宿代払う」
「ん?」
「部屋、変えてもらってしまった」
「俺がやりたくてやったことだから、気にしなくても」
「気にする!」
「宝迷宮はしばらく閉鎖してしまうし、日用品を揃えないといけないし、服も買う必要がある。何かと入り用だろ? 今は甘えておきなさい」
ぽんぽんと肩を叩かれると、それもそうか、とも思ってしまう。いやいや、騙されてはいけない。いつかちゃんと恩返ししてやるんだからな!
※ ※ ※
【魔術覚え書き】
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魔術触媒の現地調達について
魔術師に魔術触媒は欠かせないものだが、どうしても不足する場面は出てくる。
魔物の素材から魔術触媒を現地調達する術を覚えておくことは、魔術師の生命線となる。
必ず覚えておくこと。
魔術触媒の素材となる部位は、未処理でもより多くの魔力を流すことにより魔術触媒として使用可能になる。
試してみるならばウルフの牙がわかりやすい。牙のままでも『火炎』を使うことが出来るだろう。何度か挑戦し、感覚を覚えておくと緊急時に役に立つ。
他、魔力を代償とした魔術の炎で魔物の素材を燃焼させ、その灰を得ることも魔術触媒の代用となる。
樹灰、闇骨であれば灰そのままの使用も可能である。その他の素材については簡易作成となるので、魔術触媒としての等級は大幅に落ちる。魔力の変換効率が下がることを前提に使用すること。
最終手段ではあるが、己の血を魔術触媒とする方法もある。闇、光の代用となるので記憶しておくこと。
己の血でのみ適う魔術も存在する。また、髪の毛を魔術触媒とする魔術もある。
これについては後日説明する。




