16.魔術触媒屋
買取金額がすごいことになった、らしい。
冒険者証に入っちゃったし、そもそもの物価がわからないので金額を言われても全然ピンと来ない。
それにこれから冒険者の魔術師として生きるから、出ていく金額も多そうだし、油断できない。街で暮らすと危険はないけど、お金はたくさんかかるんだろうし。今後は自給自足とはいかない。
にわかに慌ただしくなっちゃった鑑定所を後にして、解体所へ戻ってきた。魔物素材の精算だ。
「いやあああ、エリークさん帰ってきた!」
「終わってない、終わってないよお!」
こちらもまだにぎやかだ。
「終わってる分だけでいいよ。魔術触媒屋にいくから」
「じゃあ処理した分から、出していきますねー!」
エリークは鱗だけとか、爪だけとか、袋に入れられた部位ごとにいろいろ受け取っていく。
魔術触媒屋にいきなり持ち込むよりは、こうして解体所で解体してから持ち込むと面倒がないそうだ。
「部位解体受け取りは割増料金ですよっ!」
「特に骨とかだとお高いです!」
なるほど。
骨は闇の魔術触媒になるものが多い。俺は闇骨はあまり使わないから、それほどいらないかなあ。
マーモット改めラピスキウルスはまだ捌けてなかった。でもやつに魔術触媒はないし、いつでも構わない。今のところ、お金はあるみたいだし。
「いよっ、太っ腹!」
「余裕のあるお金持ち大好き!」
「君らね……」
エリークが呆れていたが、にぎやかで楽しいから構わない。それにあれマーモットだし、あんまり、希少性がわからないんだよな。
なんなら干し肉がポッケにまだあるよ。なんか騒がれそうだから言わないけど。
解体所を後にして、念願の魔術触媒屋へ! ……の前に腹ごしらえ。
もう昼も過ぎて、まもなく日が傾き始めるくらい。解体所とか鑑定所でも時間かかったし、模擬戦に登録と結構、時間がかかった。
気になっていたリザードの串焼きを買ってもらった。
屋台街ではまず平たいパンを買って、別の屋台で好きな具材を選んで、皿にしたり、挟んで食べたりするんだって。
リザードの串焼きは美味しかった。なお姿焼きではない。普通のお肉だ。
淡白な白身と思いきや意外と脂が乗っていて、外はカリッと中はジュワっと肉汁があふれでる。後味がさっぱりしていて、柑橘系のソースとよく合っている。これまで食べたことのない味と食感。
「美味いか?」
「うまい!」
マーモットより全然美味しいし、トカゲも狩っておけばよかった。今度見かけたら狩ってみよう。……いや、ここで買えばいいのか。自給自足思考がなかなか抜けない。
パンは堅くてなかなか食べづらかったが、小麦の味だ。美味しい。でもすごいでかい。顔くらいある。
エリークは無理しないでもいいと言ったが、頑張って食べた。
「次からは半分にする……」
「そうした方がいろいろ食べられていいかもね」
エリークには頭をポンポンされた。くっ。
屋台はいろいろあったので、たしかにもっと種類を食べてみたい。俺、思ったより少食なのかもしれん。そのつもりでいよう。
エリークはリザードの串焼きだけでは足りなかったようで、いろいろ食べていた。所作が整っているのか、立ち食いしていても、大口開けていても粗野に見えない。意外と早食いなのに不思議だ。
腹ごしらえを終えたら、今度こそ魔術触媒屋。ちょっと通りをわけいった先、こじんまりとした店構えで、知らなかったら通りすぎてしまいそうだ。
「エリーク!? 帰ってきたのか!」
「金蔓が帰ってきたよ」
「ばか、心配したぞ。憎まれ口を叩きやがって」
扉を開けたら、カウンターにいた青年が目を丸くして飛び出してきて、エリークを抱き締めた。といっても青年の方が小さいので抱きついたって感じだったけど。
エリークも背中をぽんぽんと叩いて、仲良しの様子。
「おっと? 珍しいな、ツレか?」
「新しいお客さんだよ。魔術師」
「この小さいのがか?」
ちいさいちいさい言われるけど仕方ないだろ!
身長はすぐには伸びないの!
「別の店へ行こうか」
「わーった、悪かったよ、でも魔術触媒は未成年には売れねえんだ、しかたねえだろ!」
「アスル、冒険者証」
「ん」
冒険者証を見せると、やはり驚いた顔をしていたが納得したらしい。
「新しい魔術師はいつでも歓迎だよ。光から闇までなんでも取り揃えてる、ご贔屓に」
店内にはところ狭しとガラス瓶が並べられていて、中には粉だったり、丸い玉だったりがつまっている。それぞれに名札と値札がついていて、見ていて飽きない。
並べてみたことがなかったので知らなかったけど、意外と色とりどりなんだな、魔術触媒って。
「魔術ごとでも、魔術触媒単位でも販売してもらえるよ」
「便利」
それって、使ったことのない魔術でも魔術触媒がわかるってことか。すごいな、面白い!
エリークが解体所でもらった袋を青年に渡して、交渉している。部位をもらってきて終わりじゃなくて、加工するにも金がかかるのか。魔術って金食い虫だ。
そういえば、拠点じゃないから俺の竈もなくなってしまったし、灰を作るのも難しくなるんだよな。魔術触媒の自作も出来なくなる。
「樹灰と土蹄が欲しい」
「あいよ、等級は?」
「等級?」
「粒が細かいほど上質な魔術触媒になる。一等から五等まであるぞ」
見せてもらうと、俺が使ってたのはだいたい三等に当たるようだった。なるほど、細かくなると遠くまで飛ぶし、魔術の行き渡る範囲が広くなるのか。
「なら火牙と水鱗も欲しい。全部五等でいい」
『浄化』はほぼ自分にしか掛けないから、そんなに飛ばさなくても構わない。つまり五等で問題ないはずだ。
「……『浄化』か。なにと戦う気だ?」
「ニール、魔術師の詮索はするな」
「へいへーい」
青年はニールというらしい。
ニールは手際よく肩に掛けた手拭いでマスクすると、魔術触媒を大瓶からさらい、小さな瓶に詰めてくれた。
「瓶は返却すれば返金がある。そのまま使うなら割引がある。入れ物を持ってくれば割引するが、蓋の閉まらない入れ物はダメだ。魔法鞄にそのまま詰めるのも不可、わかったか?」
「ん」
「魔術触媒は湿気に弱い。三ヶ月以上放置すると劣化が始まる。なるべく新鮮なのを買って使ってくれよな。ってことでお会計、金貨4枚な!」
話しながら瓶に次々と魔術触媒を詰めていき、蓋をしてカウンターに並べる。
お会計は冒険者証をしたまま、支払う意思を持って会計機に指先で触れると出来るらしい。屋台ではエリークが支払ってくれたので、俺の初買い物だ。
会計機の上に乗った鈴がちりりんと鳴って、お会計が済んだ。
ヒュウ、とニールが口笛を吹く。
「さすが魔術師は金持ちだこと」
「魔術触媒を持ち込んだら売れる?」
「うちが買い取るのは素材までだな。魔術触媒になっちまってるものは基本、買い取ってねえ。等級がややこしくなるんでな」
「わかった」
うーん、自作触媒から使っていくしかないな。等級の合わない魔術触媒は、混ぜて使いづらそうだ。これからはこの街仕様に慣れていかねばならない。
※ ※ ※
【だれか、助けてください】
054 イッチ
今日も魔力を絞られています。
わたしの仕事は、骨と皮の老人の、胸についた宝石に魔力を捧げることです。
老人はぴくりとも動かず、目も開きません。肌はカサカサで、髪は白髪で、目は落ち窪んでいます。
宝石に触れるとほのかになま暖かく、気持ち悪いです。もう死んでいるような有り様なのに、まだ魔力を必要としていて、わたしから搾取するのです。
魔力を無理やり搾り取られると、ひどい頭痛と吐き気がします。本当に吐いてしまったこともあります。つらいです。
だれか、たすけてください。
060 名無しの転移者さん
おはようイッチちゃん
魔力の回復はとにかく食べて寝るしかない。よく食べてよく寝るのがいちばんだ。
あんまり追い詰められないようにな。
それから全レスはしなくていいぞ。
061 名無しの転移者さん
老人が白髪ってことで、色無しなのは間違いないとして
胸についた宝石っていうのが謎だ。ネックレスとかじゃなく?
074 イッチ
皆さんありがとうございます。
お言葉に甘えて全レスはやめようと思います。
>>061さん
アクセサリーの類いではなく、肌に直接埋め込まれているような感じです




