15.鑑定所にて
冒険者登録を終えたら、今度こそ鑑定所だ。
解体所みたいに広くはなくて、むしろ狭い。受付カウンターがある個室といったところ。
鑑定所を使うためには受付で宝物があることを告げて、先に鑑定所の利用札をもらわねばならないらしい。解体所とは違うんだな。
細かいルールを教えてもらいつつ、いざ鑑定へ。
「こんにちは。はじめまして、鑑定員のハルシェが担当させていただきます」
担当してくれる鑑定員さんは赤毛の落ち着いた若い女性。灰色の瞳が理知的な美人だ。思わず背筋がスッと伸びる。
まずは、ワイバーンのところで手に入れた小さな宝箱から。
「いきなり装飾箱五つとは飛ばしてきますね」
「これは守護者の間の褒賞だな」
「期待出来そうですね」
ハルシェが、小箱を手にとってくるくる回し、小さな針のような道具で箱の隙間を探していく。
ピッキングだ! すごい、こうやって開けるのか。
数分弄っていると、パキンと音がして箱が開いた。中から出てきたのは赤いブローチ。
ハルシェは恭しい手付きでブローチを掲げると、重さや表面の模様などをくまなく調べはじめた。
「おめでとうございます。こちらは魔法鞄ですね」
「大きさは?」
「詳しくは測ってみないとわかりませんが、そうですね……、この等級ならば箱型でしょう。時間停止はなし、特殊機能もなさそうです」
「どうする?」
「うん?」
「いるか、売るか」
「んーー、いる」
「ひとまず確保で」
「かしこまりました」
その後も同じようにして、箱を開けては鑑定されていく。全部目の前でやってくれるのは、やはり詐欺防止とかなんだろうな。時間はかかるが、安心感はある。
箱の中身は、ブローチの魔法鞄がふたつに、天然の魔導具が三つだった。マギの方は詳細に鑑定してみないとはっきりしたことはいえないが、火を操るものがひとつと、風を操るものがふたつだろうとのこと。
天然の、というのは元々、魔導具は宝迷宮の宝物からしか出ないものだったが、これを研究・改良して開発されたのが現在流通している魔導具だからである。
天然物はときどきすごい能力をもったものが発掘される一方、ショボいものが出ることもよくあるらしい。天然だからすごいってわけじゃないみたい。
ちなみに魔法鞄は宝迷宮の宝物からしか手に入らない。
掲示板情報からも知っていたけど、改めてハルシェからも説明してもらった。俺が冒険者になったばかりということで、いろいろ教えてくれる。ありがたい。
エリークも時折補足してくれて、掲示板より詳しく知ることが出来た。
やはり生きた情報というか、一次情報って大事だな。
俺はふたつ出た魔法鞄を両方もらうことになった。これで魔法鞄は四つだが、あって困るものじゃない。エリークは倉庫型か時間停止付以外はいらないんだって。富豪め。
魔導具は二人ともいらないということで、こちらは売却。
もったいない? いや、魔導具って扱いが意外と難しいのだ。あと指輪なのでつけられる数に限りがある。俺は右と左にひとつずつ、『槍』と『盾』で手一杯。うまい人は両手に四つずつ、足にもつけて使い分けられるらしい。頭こんがらがりそう。
エリークに言われた通り、宝箱の箱は箱で価値があった。結構高い。解錠料がかかってもお釣りがたくさん来る。
さて、お次は俺が安寧の間で開けた、腕輪。
「これは珍しいですね、発動体だと思われます」
「発動体か」
「買われますか?」
エリークはかなり難しい顔をしていたが、結局、あきらめたように購入を決めていた。
「迷ってた?」
「……いらないと言ったのに結局、もらうことになってしまった」
「いいのに!」
そんなことで悩んでいたのか。気にしないのに!
その後はエリークが拾ってきた宝物、ということで小箱がふたつ。これは後で解錠してくれればいいということで後回し。
最後に俺の溜め込んできた宝物だ。
いや、期待されてもそんなに持ってないんですけどね……。魔法鞄だって限りがあるし、宝迷宮の中では食べ物の方がはるかに価値があったから。
それでもいつかは外に出るときを夢見て、小さめの、嵩張らないアイテムを選んで溜め込んできた。主に指輪とブローチ、ペンダントだ。袋に入る個数までと決めていた。じゃらじゃらとひっくり返すと30個ほどあった。
「……ここまで豪快な方も珍しいですね」
感心されてしまった。
俺も宝飾品を袋に無造作に詰めるのはどうなのって思ったこともあるんだよ。でも袋にいれないとどっかいっちゃうからさ。
「すべて解錠済なんですね」
「箱、ほしかった?」
「いえ、なくても構いませんよ」
「一般的には解錠そのものが難しいんだ」
なるほど。
……俺が解錠出来るのって、もしかして神聖語が読めるからか。だって宝箱に「解放を与えよ」とか書いてあるんだもんよ。
調べてもらったところほぼすべて魔導具で、ふたつ、指輪に魔法鞄、ペンダントに発動体があったらしい。
うーん、指輪が魔法鞄は盲点だった。魔法鞄ってペンダントかブローチ、または鞄型しかないって掲示板で見ていたから。
容量自体は箱型で、俺のベルトポーチと同じくボストンバッグほどのサイズらしいけど、これがあるとわかっていたら、もう少しいろいろ持ち帰れたのにな。
残念だった、と考えていると、ハルシェとエリークは難しい顔。
「この指輪は確保で」
「ですよねーー!」
ハルシェは悔しそうに机に倒れた。
「オークションの目玉になりそうでしたのに」
「こんな危ないもの、表に出したくないだろ」
危ないらしい。
魔法鞄って手で触れてないと中身が出せないんだけど、指輪型は手で常に触れてるからいつでもアイテムが出せるってことか。
「魔術触媒出し放題」
「魔術師には垂涎のアイテムですよね!」
「アスルが使うか?」
「ううん、俺はいらない」
指輪はふたつで精一杯なんだってば。
そういえばエリークはと見ると、両手にふたつずつだった。ここからひとつ増えても大丈夫なのか……、すごいな。
魔導具はすべて売ることにして、ペンダントの発動体だけ残す。
発動体の使い方はエリークに教わろう。
「以上でしょうか? 武器などはありませんか?」
「武器は嵩張る」
「ですよね!」
武器の宝物が持ち込まれることは滅多にないらしい。魔法鞄だって容量は決まっているから、そうなるよな。魔物だって詰め込まないといけないわけだし。
「やはり夢の大型箱にはなかなか出会えませんね……」
「あれを持ち込めるのはよほど余裕のある魔法鞄を持つものだけだろ」
「うん? 中身でいいならある」
「えっ!?」
大型箱、中身は携帯食糧で溢れてるんで、たまに見つけると嬉しかったんだけど、ここでも需要があるんだろうか。
需要、あった。
携帯食糧、包み紙に入っている燕麦(らしきもの)の塊、と俺は思っていたのだけれど、これ、万病に効く栄養剤――万能薬のようなものらしい。
ええ……、俺、これで生きてきたんだけども。
「……スープに入れてたよな?」
「入れてた」
エリークは街でよくある携帯食糧と思い込んでいたらしく、頭を抱えている。いや、だってそんなん知らなかったし!
食糧は大事だから、ペンダントの魔法鞄にいっぱいに詰めてあるよ。いつ大型箱に遇えるかわからなかったし、いつまで宝迷宮にいるかもわからなかったし。
毎食半分ずつ、一日一個ずつ食べていて、エリークが来てからは一人一個食べてた。
詰め込んである食糧を捨てるなんてとんでもないから、そのままそっくり持って帰ってきている。ちょっともったいないことしたかもってさっきまで思ってたんだが。
携帯食糧あらため万能薬、めちゃくちゃ需要があるらしい。
でも買い取れる量にも限りがある、ということでお試しに十個お預けすることになった。
「俺が持って帰って来たことにしておいてくれ……」
「了解です」
「あの、これあんまり美味しくない」
「……味は問題にならないから大丈夫です」
そうなのか。
そうか、薬みたいなもんか……。
「参考までにどのように食べるのか伺っても?」
「干し肉とキノコで出汁を取った汁に半分溶かして、どろどろにして食べる」
「リゾットみたいなもんだな」
「あなたも食べたんですかエリーク!?」
「作ってもらった分は美味かったよ」
「肉とキノコ大事」
やはり出汁を効かせるのとないのとでは雲泥の差よ。
それにしても、俺が三年間太陽に当たらなくても、宝迷宮の貧弱な食生活でも、多少引きこもりして動いてなくても大丈夫だったのって、もしかしなくてもこの携帯食糧のおかげか。
いや、宝箱の開け方に気づいてよかった。魔術に興味持っていて、呪文に出会っててよかった。危うく衰弱死するところだったじゃんか。ノアさんや……!!
うん……、いや、うん。
今こうして健康に街に下りてこられているんだから、まあ、いいか……。




