13.迷宮の落とし子
「色持ちか」
「迷宮の落とし子だ」
「なっ!?」
男が驚く。
迷宮の落とし子って、なに?
つんつんとエリークの袖を引くと、教えてくれる。
「君のように、幼い頃に宝迷宮へ捨てられる子どものことだよ」
「ん。よくある?」
「いや、滅多にない。あってはならないことだ」
ギルマスが厳しい声で言う。
まあそれはそう。だって小さな子どもを宝迷宮に放置するのは、殺人だ。未必の故意。
「何歳くらいで宝迷宮へ入ったか、覚えているか?」
男が口調を和らげて俺に問いかける。
三年前だけど、平凡に生きたいなら三年前っていうのは言わない方がいいってノアが言ってたんだよなあ。
「わからない」
「そうか……」
男の眉間の皺が深くなる。痛ましげだ。ざ、罪悪感。
「たしか七年ほど前、孤児を拐って迷宮へ放置する事件が頻発しただろう。もしかしたらその被害者かもしれん」
男はつまらないものを思い出したと言いたげに舌打ちした。エリークも難しそうな顔をしている。
迷宮の落とし子は、主に魔力の少ない、特に色無しの子どもがなるそうだ。宝迷宮には濃い魔力が漂っているので、呼吸するだけでも魔力が満ちていくらしい。それを狙って、子どもを置き去りにする。
子どもに魔力が満ちて帰ってくればよし。帰ってこなくても、魔力の少ない子どもは必要ないからよし。そういう、古い価値観の文化だという。
色無しは孤児が多いというのは掲示板でも見たけど、迷宮都市だとそういうこともあるんだな。
ロータスではその七年前の事件を機に、未成年者の宝迷宮入りは制限されるようになったそうだ。さもありなん。
つまり自動的に、俺はその事件の被害者である可能性が高まった。……まあ、三年も七年も多少は誤差だろ、てことで……。
「俺、色持ち?」
「ああ」
「魔力の色、水色?」
「君の属性は純度が高い光と水の属性だろう、珍しい」
おそらく本来持つ色を超えて属性の色が出ている、と言われて、さすがに絶句した。
の、ノア………!!!
目立たない俺はどうなったんです!?
「エリークも色持ちだぞ」
横からギルマスがいい、俺はエリークを見上げた。
「金色?」
「そう」
「俺も金がよかった」
がっかりすれば、エリークに笑われる。
「もしかしたら戸籍があるかもしれないが、本人が縁切りを望んでいる。新しく冒険者として登録したいそうだ」
「わかった、仮登録で用意しよう」
「本人は成人してると言ってる」
ギルマスとエリークの視線が俺に向き、真顔で戻った。ちょっと!?
「魔道具で確認しよう」
「ああ、頼む。登録が可能な場合は俺が推薦人になる。銅級を受けさせてほしい」
「銅級だと?」
「80層で年単位で生活していた魔術師だぞ。先導人としての資質もある」
「銅級……。この容姿で冒険者をやるなら、そのくらいの箔は必要か」
ふむ。銅級っていうのは冒険者のランクのことだな。
たしか葉から始まり、草、木、石、鉄、と上がっていくと聞いた。銅級は鉄の上。つまり四ランク飛び級ということになる。
目立つやん。
「初心者からやる」
「初心者はラピスキウルスを狩らないんだ、アスル」
あれはマーモットだし!
狩るのもそんなに難しくなかった。いや、たしかに呪文で魔術が使えるようになるまでは全然歯が立たなかったけども……!
そうそう、魔術が使えるようになるまでは、お肉食べられなかったんだよなあ。初めて狩ったお肉の美味しかったこと。なつかしい。
とにかく肉、て思ってたから相手がネズミでも気にしてなくて、解体出来なくてめちゃくちゃ悔しい思いをしたんだっけ。ヘソの下のところにある石を取らないと解体出来ないんだよ。気がつくまでにかなり時間がかかった。
「そういえば解体所が騒がしかったな。持ち込んだのはエリークだけじゃなかったのか」
「俺はもうちょっと綺麗に持ち込めって怒られていただけだよ」
「いつものことじゃないか」
「倉庫型でもない限り、そんな綺麗に持ち込めないってば……、あ」
「ん?」
エリークがはたと思い出したように俺を見た。ん、なに?
「後で鑑定所にも寄るよ。宝物がある」
「おお、貯まってそうだな」
「うろうろ彷徨ってただけでそんなに宝物に当たるわけないだろ。俺のじゃない、アスルのだよ」
「いっぱいあるよ。売れる?」
「ああ」
現金収入やった!
「控えめに頼む」
「アスルの魔法鞄がそこまで大きくないことを祈るんだな」
「エリークほど大きくない」
「こいつは規格外だよ」
やっぱりそうだったか。エリークを見ると笑っていた。金持ちめ。
依頼の詳細についてはまとめて報告書を出すということになって、部屋を出た。
鑑定所とやらに行くのかと思ったが、先に俺の冒険者登録を済ませるらしい。なお部屋を出る前にまたフードを被せられた。ちょっとめんどくさいけど、目立たないためなら仕方あるまい。
ギルマスがついてきて、受付嬢に登録できたら訓練所へつれてくるよう告げる。
今度は訓練所、いろいろな場所があるな、冒険者ギルド。
きれいな受付のお姉さんが俺を椅子へ促す。早速座ると、水晶玉のような道具が出てきた。
これか、数多の転移者を疑心暗鬼に陥れた魔道具は。
どこだかのラノベでこういう、最初に触らせられるアイテムに不当な契約が盛り込まれているものがあったらしく、掲示板でも絶対に触るな派がいたんだよな。しかし触らないと冒険者活動出来ないし、結局は何事もないっていうんでその派閥は落ち着いた。
まあ、警戒しすぎても仕方ないのだ。結局、俺たちは大半が冒険者として生きていくしかないわけだし。
「それではまず、こちらのコモに手を当ててください」
言われた通りに手のひらをくっつけると、ポッと水晶に明かりが灯った。
「あら。成人してらっしゃいますね」
そんな目を丸くせんでも。
してるんですよ。掲示板の日付表示で三年経ったことは確認していたし、ノアが俺の体は十二歳で下ろしたと言っていたのだから、三年経った今は十五歳に確実になっている。なぜか全然信用されなかったけど!
「ではこちらの書類に記入をお願いします。代筆は必要ですか?」
俺は書類を覗き込んだ。うん……、読める。読めるけど書けるかなこれ。まあ、やってみるか。
「大丈夫」
「では、どうぞ」
ペンは羽根ペンで、ちょっと掴むのが心許ない。こんなに書きにくいもんなんだな。しかも慣れない文字なわけで。俺にとって西方語は外国語だ。その法則は書く方でも当てはまるらしく、読めるけど書けない。めっちゃ書きづらーい、字がきたなーい!!
名前と年齢、得意なこと、推薦人以外に書く欄がないのに異様に時間がかかった。待たせてしまい申し訳ない。代筆をお願いした方がよかったかもしれない。
推薦人の欄は空欄でも構わないと受付嬢は言ったが、エリークが俺からペンを受け取ってサラサラと名前を書いてしまった。
「はい、たしかに受け取りました。ギルドマスターから伺ってますので、訓練所の方へ移動してください。ご武運をお祈りしております」
「うん、ありがとう」
登録のお礼をいうと、にこりと微笑んでくれた。美人さん。
しかし武運を祈られるってどういうことなの。
※ ※ ※
【だれか、助けてください】
001 名無しの転移者さん
助けてください、おねがいします。
わたしは拐われてしまいました。
誘拐犯は、色持ちという魔力の多い平民を探していたみたいです。
今は、お屋敷に閉じ込められて、骨と皮の老人から魔力を絞られています。
ここがどこかもわかりません。
なんのヒントもなく助け出せないのはわかっています。
でもどうか、誰か助けてほしいのです。
自分ひとりではもう、抜け出せる道が見えません。
002 名無しの転移者さん
何て言っていいかわからんけど、とりあえず元気出せ。
そしてやっぱりこれだけじゃわからんからなんかもうちょっと探ってくれると助かる
003 名無しの転移者さん
色持ちって魔力でバババーンと撃退出来たりしないんか
004 名無しの転移者さん
>>003
しない。単純に魔力が多いだけ。
魔導具持ってるか、魔術使えるならいいスペックなんだろうけど、この二つのどちらもないならただ目立つだけの宝の持ち腐れ。
005 名無しの転移者さん
イッチは特にほしい能力が思いつかなかったタイプか。
わたしってことは女の子?
006 イッチ
ええと、名前変更はこれでいいんでしょうか。
>>002さん
ありがとうございます。何かわかることがないか探ってみます
>>003さん
>>004さんのおっしゃる通り、何も出来ない目立つだけの髪です。
>>005さん
そうです。能力といっても特に何も思いつきませんでした。こんなことなら強さを願っておけばよかったです。
性別は女です。
007 名無しの転移者さん
お、おう。イッチちゃん素直だね。
イッチちゃんがわからんだけで日常にもヒントがあるかもしれんし、些細なことでも書いてくれると助かる
008 名無しの転移者さん
変態がいる……




