11.はじめての街
【おいでよおらが街!】
001 名無しの転移者さん
このスレはみんなで自分の街を紹介していき、いずれは旅のガイドブックにしようというスレです。
掲示板だからこそ書ける、現地民だからこそ書ける、耳寄りの情報をお待ちしております!
245 名無しの転移者さん
迷宮都市ロータス
西方諸国がひとつフロリティオ王国の北東部に位置する。宝迷宮『睡蓮の宝玉』を都市内に有する。領主はサフィルス迷宮公(睡蓮迷宮公)。
強固な壁に覆われた迷宮都市のひとつ。
他の迷宮都市と違い、迷宮氾濫が極端に少ないことで知られている。記録では約百年起きていない。驚異的な数字。
しかし相反するように迷宮変動の頻度が高く、宝迷宮『睡蓮の宝玉』の驚異度は七と高い。挑む冒険者は気をゆるめず、よくよく注意されたし。
名物はやはり宝迷宮から産出する宝物に、良質なジャカロプ毛皮をはじめとした魔物素材、薬類。魔導具を修理・製作する工房が多いのも特徴。
さまざまな魔物肉が味わえる屋台は必見。また転移者によってポテチが伝来しているため、どこの宿でも出来立てポテチが味わえる。さまざまな魔獣脂で揚げられたポテトは宿ごとに異なる味わいがあり、絶品。
西方諸国に伝来した料理は大抵食べられるが、米はない。
北から貴族街、宝迷宮、冒険者ギルド支部、冒険者街、商店街、工房街、住宅街、貴族街と並ぶよくある配置。
ポッサム印の巡回馬車が巡っており、交通の便がいいのが嬉しい。もちろんサスペンション完備でお尻にも優しい。お財布には厳しい。
迷宮都市全般に言えることだが、物価が非常に高く、ここで暮らしていくことはオススメできない。特に冬季はやばい。
訪れる時期は春がオススメ!
※ ※ ※
翌日、俺は朝日を浴びた。
おお、暗くなり明けていく世界、はじめまして……。
しげしげと窓の外を見つめる。宿の毛布にくるまったまま、明けていく空を眺めた。
空は一時も同じ姿ではなく変化し続けて、青い夜明けから新しい朝を連れてきた。
朝食にも泣きはしなかったものの、しみじみと感動した。クロックムッシュー。世界には掲示板で見ていた通り、転移者の知識チートが席巻しているらしい。
手軽に懐かしいものが食べられて、ありがたい。
冒険者ギルドへ向かう。
昨日、見損ねた街は白色で、石造りの建物が多かった。だいたい三階立てくらいだろうか、屋根の色は統一されていて、外国の古い観光地のようで心が踊る。
道幅は広く、石が敷き詰められたように整備されていた。鈴の音が聞こえたと思ったら蹄の音が聞こえてきて、大きな二頭立ての馬車が走っていく。巡回馬車だ。これが掲示板で見たやつ!
初めての街にきょろきょろする俺は、フード完備だ。食事の時も、宿の部屋の外に出るときはずっとフードだった。エリークがそうしろというから。水色の髪、どうも珍しいっぽい。
でも、街でも緑とかピンクとか青とか、アニメ髪自体はよく見る。転移者でも少なくない数がアニメ髪だ。
掲示板で髪の色についても改めて調べ直したけど、髪の色で目立つのは、いちばんは白髪だそうだ。
実は俺は、転移当初は白髪だった。
ノアは白髪のことを「平均以下の魔力の現れ」と言ったけれど、実のところ、魔力ほぼゼロに近くないと白髪にはならないらしい。それゆえ白髪は、色無しとも呼ばれる。そして白髪で生まれた子どもは、捨てられることもよくあるんだそうだ。蔑まれる色だという。
ノアが宝迷宮に落としてまで俺の髪に色を注ごうとしたはずだ。
そう考えると、俺は宝迷宮に落とされてよかった、といえるのかもしれない。いや、結果オーライってだけなんだけどさ。街に来れた今だから言えるけど、て話。
ちなみに二番目に目立つのは、色持ちって言われる髪。魔力が著しく多いもののことで、魔力の色が出てるから、一目見て色持ちってわかるんだって。目が引き寄せられる、とかいう。
俺ってもしかしてそれなんだろうか? 自分では全然わからない。というか街を見ていても、惹きつけられる髪の色なんていないんだけど。
強いて言えばエリークの金髪はやたらキラキラしてる気がするが、天然の金髪なんて見たの彼が初めてだし、やはりよくわからない。
まあ幸いにして、フードを被っていても暑くない。長袖で暑さも寒さも感じない気候だ。掲示板の日付表示によると八月の終わり。ロータスの街は、夏でもそれほど暑くならないという。
転移者が知ってる街の一覧を作ってくれてるので、ここが世界地図的にどの辺りなのかもなんとなくわかる。西方諸国の北部にあるようだ。
西方諸国というのは、この世界の西側全体を指す言葉だ。国が乱立していてややこしく、貨幣が共通で使えるのでこう呼ばれている。
戦争もたまにあるらしいんだが、だいたい戦争してる間に魔物も攻めてきてよくわからないうちに共同戦線を組んで一緒に魔物を倒して和平交渉みたいなのが定番だそうな。魔物が人類共通の敵。
宿屋が立ち並ぶ、冒険者街を北へ向かって歩く。北に宝迷宮と冒険者ギルドがあるらしい。更に北へ行くと、貴族街。
宝迷宮の裏手に貴族街があるなんて面白いが、迷宮都市はだいたい同じ造りをしていると掲示板でも読んだ。
要は貴族は魔物に立ち向かう市民の盾となりますよ、というアピールだが、実際は老朽化した建物が建っているだけで、中身は人のいないゴーストタウンだそうだ。そのくせ貴族しか立ち入れないという。
店先の開けた店舗が軒を連ね、屋台が立ち並ぶ通りになってくると、わくわくしてくる。
足を止めるほどではないけど目線が流れると、エリークが「あれはリザードの串焼き」とか「あれは魔術触媒屋の看板。後で行こう」とかひとつひとつ教えてくれる。ありがたい。そして魔術触媒屋はぜひ行きたい。
リザードの串焼きってトカゲってこと? 俺もさすがにトカゲは食ったことない。マーモットを食うのだって、わりと決死の覚悟だった。
ふらふらしつつも冒険者ギルドへ到着。
意外と大きい建物で、天井が高い。石造りの壁には絨毯のような織物が掛けてある。タペストリーってやつかな。こういうのは寒い土地に多いらしい。
ロータスの街は西方諸国でも北にあったはずだし、きっとこれから寒くなるんだろう。冬の備えが必要になる。
エリークがギルドへ入ると、中にいた冒険者たちがざわついた。エリークは気にしてないみたいだ。たぶんそういう反応に慣れてるのだろう。やはり有名人。
「先に荷を軽くしたい」
「ん」
受付より先に解体所へ回りたい、と言うので、俺はついていく。
エリークの魔法鞄には、道中の魔物とかワイバーンとか山ほど詰まってるはずなので、査定とか時間かかるだろうし、話す時間に解体とか済ませてもらって魔術触媒を受け取る、とかいろいろあるんだろう。
「エリークさんだ!」
「うそ、ほんとだ! 生きてたんだ!」
「ひと月ぶり? やったあ、賭けに勝った!」
「面と向かって失礼だな、相変わらず!」
解体所の職員に生存を驚かれて、エリークは笑顔で話している。
「やだぁ、みんな心配してたんですよ!」
「セスとニナがいつも通りで、帰ってきた感じがするよ」
セスが黒髪で眼鏡の男性、ニナが茶髪の三つ編みの女性らしい。他にも三人ほど、解体を手伝っている人がやんやと話している。にぎやかだ。
俺は解体所内を見回した。
大きなかごの中に魔物の死体が番号札をつけられて放り込まれていて、かなり雑多だ。換気がよくされているようで、血臭はそれほどでもない。まったくしないってこともないけど。
放り込まれている魔物はウサギや、羊のようなものだったり、猪、牛、それからヒト型っぽいのも何匹か。わりとグロテスク。
あ、トカゲ。これがリザードなのかな。俺が知る宝迷宮のトカゲよりでかい。串焼き屋台があるくらいだから、うまい肉だったのかもしれない。ちょっと気になる……。
眺めている内に歓声が上がった。
エリークが魔法鞄から獲物を出したらしい。あれやこれや大きな魔物ばっかりだったもんな。
「ひいい、もったいない!!」
「なんでぶつ切りにしちゃうんですか!?」
歓声というより悲鳴だった。
「魔術触媒にしないといけないんだからしかたないだろ」
「それにしたって、……あああ! ブラックワイバーン! の輪切りぃ……!!」
ごめん、それをやったのは俺です。
だって魔法鞄の隙間に詰めるっていうから。




