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其の八・その思惑

「それで、調査の方はどうなっている」

「碑文解読はほぼ済みました。語り部の協力を要請しましたが、こちらは拒否されています」

「ウィディスからの連絡は?」

「つい先程。“目標と接触、任務を遂行する”と」

「そうか……うまくやってくれればよいが……」






 アルーシァはマントに包まれ、耳だけで音を聞いていた。

 ダン! と大きな音と共に荷台が揺れた。それとほぼ同時にラダの気配が動き、何かを殴打する重い音が響く。

おびえた馬のいななき、くぐもった呼吸。金属のかちあう音、何かが吹っ飛ぶ音、乱れる足音。だが、誰も一言も発しない。


(ど、どういう事!? 何でこんな事になってるの!?)


 アルーシァにとっては長い時間だった。が、実際には数分の出来事だったのかもしれない。

最後に荷台が揺れ、何かが地面を滑る気配がした後、音は止んだ。


「……で、まだやんのか」


 低いがよく通るラダの声。


「コイツをどうにかしようってんなら俺が相手になる。俺を敵に回すと……色々と面倒臭ェぞ?」


(何、そのよく分からない脅し文句! 確かに面倒な人だけど!)


「分かったらとっとと行け。足は動くだろ」


 ざり、と砂を擦る音から一拍置いて、周辺から一斉に足音が遠のいていく。そして不意にアルーシァに被せられていたマントが取り払われ、視界が広がった。


「な……」


 目の前に広がっていたのは、無残に散らばった積み荷と、半壊しかけの馬車。そして目の前に立つラダの足。見ていないうちに、一体どれだけ凄まじいことがあったのか。

 あわててアルーシァは立ちあがり、ラダの顔を確認して悲鳴をあげた。


「きゃああああ血! 血!! ラダさん血まみれ!!」

「うるせぇよ、こりゃ返り血だ。しかしこれ、村までどうすっかな……歩くしかねえか」


 まるで蚊を叩いただけだ、とでも言うような軽い口ぶりで答えた後、ラダは血濡れの顔を晒して周囲を見回した。

 馬車をひいていた馬はどこかに逃げてしまったらしい。配達人の姿は影も形もない。アルーシァは腰が抜けたように、再びペタリと座り込んだ。

ラダは携帯していた水袋を使って布を濡らし、ゴシゴシと顔を擦った。たちまち布は赤く染まる。


「う、ありえない……こんな昼間から野盗とか……配達のおじさんどこ行っちゃったの、大丈夫なの……」

「元気に逃げてったから大丈夫だろ。それにしても強引な手で来たもんだ。そんなに欲しいのかねェ、その石っころが」

「これ……?」

「買い取り損ねたってんで、力づくに切り替えたんだろうよ。そいつを渡しさえすりゃ、命までは取ろうって感じじゃなかったが……アンタは渡したくねェんだろ、それ」


 ラダは顔を拭いながらアルーシァの胸元を指差した。


「う、それは……でも、ケガ人が出るなんてこと知ってたら」

「あいつらナメて掛かってやがったからな。薬でも噛ましてこっちを昏倒させた隙に、そいつを奪い取ろうって腹だったようだが。そんな連中には倍返しだ、倍返し」

「過剰防衛!?」


 流血沙汰になったのは主にラダのせいらしいことが判明し、アルーシァは気が遠くなった。


「何だよ、そもそも手ェ出してきたのは向こうだぞ。殺しちゃいねぇんだから問題ねえだろうが」

「えええ……何だか事態を悪化させたような気が、すごくするんですけど……」

「次来てもまた追い払えばいいだろ。それよりさっさと立て、こっから歩きだと相当時間かかんぞ」


 言われてアルーシァは立ちあがり、改めて周囲を見回した。散乱する積荷と半壊した馬車。


「これ、どうすれば……」

「置いてくしかねぇだろ、積荷全部担ぐわけにもいかねぇし。行くぞ」

「え、あ、ちょっ!」


 ラダはアルーシァの荷物を掴むと、スタスタと先に歩きだす。アルーシァはうろたえながらも、その後を追うしかなかった。

 とんだハイキングだ。ラダの歩みは山歩きになれた人間のそれだから、小走りでないと追いつけない。


「ら、ラダさん速い」

「あ?」

「歩幅、歩幅考えてください! わたしとラダさんじゃ、足の長さがちがうの! ……って、だからって抱っこしようとしなくていいですから! ちょっと速度落としてくれればいいですからっ」

「いちいちうるさい奴だな。アンタの足に合わせてちゃ、日が暮れるどころか夜が明けるんだよ。いっそ抱えて歩いた方が早い」

「なんでいっつも荷物扱いなんですかあああ」






 アルーシァとラダがハージ村に到着したのは、夜半過ぎになった頃だった。

 村の家々はしんと寝静まり、窓の明かりも消えている。


「はあ……きっと先生、すごく心配してる」

「先生? 親じゃないのか」

「親代わりでわたしを育ててくれた人なんです。わたし、孤児だから」

「へえ」


 ぽつぽつと会話を交わしながら、二人は家の前に到着した。

 アルーシァは、できるだけ音を立てないよう、そっと扉を開いた。


「……ただいまー……」

「アル!!」

「ひゃあっ!! せ、先生」


 なかなか戻ってこない娘を心配し、エイムは開いた入口に仁王立ちしていた。


「こんな夜遅くなるなんて……ど、どうしたんだその顔の傷は! 何があっ……」

「あああ、あのね先生。ちょっと色々ありすぎちゃって、話せば長い事ながら、えええと」


 どこから説明したものかと頭を悩ませるアルーシァを押しのけ、ずいとラダがエイムの前に立った。得体の知れない男に気がつき、エイムは怪訝そうな表情を浮かべる。


「……どちら様です」

「ラダだ。今日からここで世話になる」

「は?」

「何言ってるのおお!」


(もうやだこの人!!)

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