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其の十六・秘められたもの

 頭の中を突き抜けたそれは、一度感じた事のあるアルーシァの気配だ。いつ消えるか分からないそれを手繰り、居所の特定をするため、ロウは目を閉じて集中する。


「うん……この魔圧、お嬢さんのだ。方角は確かに東なんだけど、感じ取れるのが微かで……結構遠いな」

「東のどこだ」


 硬い声でラダが問うと、ロウは目を開けて小さく笑んだ。


「さすがに今すぐ限定は無理だけど、これで場所特定は簡単になった。各街の魔道ギルドに連絡入れよう。あのでかい魔力を垂れ流されたら、近所の魔道士連中はぶっ倒れかねないからすぐ分かるよ」


 じゃあ行こうかとロウが促し、二人は早足で移動を始めた。

 ロウの後ろでラダはぽつりと呟く。


「……石を奪われたか」

「多分ね」


 ほとんど独り言のようなそれに、歩きながらロウが答えた。


「急がないと何が起こるかわからないな。お嬢さん、制御とか全然できてないんだろう?」

「そもそも己に魔力がある事すら知らない筈だ」

「うわー、急がないと大事になりそう。そもそも何なのあの魔圧……あのクラスの魔力所有者、今まで見たことないよ。化物級だね」

「何らかの理由でその事を表沙汰にしたくない母親が、あの石を娘に与えたのだろう。強力な封石のようだから」

「なるほど母心、ね。……まあとにかく今は急ごうか。一刻も早く保護しないと…………あれ?」


 急ぎ足だったロウがふいに立ち止まる。ラダは数歩先に進み、怪訝な顔をして振り返った。


「何だ」

「魔圧が消えた。どういうことだろ……気絶でもしたのかな」

「おい!!」

「可能性を言っただけだって。また封石を着けたのかもしれないし、憶測なんだからここでブチ切れないでよ。とにかく早く確認しよう」






 アルーシァらしき魔力の発生源が突き止められたのは、ロウが魔道ギルドに連絡をつけてしばらくした後だった。連絡を受けたロウは、ヒュウと軽く口笛を鳴らす。


「さすが早いなあ、魔道ギルドは優秀だねー」

「どこだ」

「アベイト。ベニエスって商人の屋敷に居るみたいだよ」

「状況は」

「一応無事っぽい。屋敷に監視は付けさせたから、僕らが現地に到着するまでに何かあった場合はフォローできる。迎え寄越すように言ってあるけど」

「少しでも早く着く方がいい、こちらも移動する。道中で拾わせろ」

「そうくるだろうと思って、街道で捕まえろって言ってあるよ。さ、行こうか」


 人目につかないように街道の傍に控えさせてあった馬にそれぞれ飛び乗り、手綱を握る。ロウは改めてラダを眺め、面白そうに口角を上げた。


「ところでお前、いつまでその格好なの。ずっとその設定貫くつもり?」


 ロウの方は、田舎者まるだしの野良着から、仕立てのいい都会的な衣服に着替えていたが、ラダは相変わらず山の民の姿のままだ。


「……これは動きやすいからだ。現地に着いたら着替える」


 ラダは憮然とそれだけ言うと、馬腹を蹴ってさっさと走り出した。またも置いていかれたロウがあわててその後を追う。


「お嬢さんにバレた時が見もの……っておい、置いてくな! こら待てよー!」


 二つの馬影は速度を上げ、街道に消えた。






「……赤い……」


 アルーシァは呆然と、姿見に映る自分の顔を見つめる。鏡の向こうからこちらを見返す瞳は、いつもの青い色ではなく、深紅に染まっていた。

 やはりナディーンの言ったことは本当だったのか。アルーシァは恐る恐る、鏡に映る己の目元に手をあてる。


「どうして……わたし」


 じっと鏡に見入っていたその時、ふいに屋敷があわただしくなり、数人が小走りで移動する足音が聞こえてきた。


「至急先生をお呼びして! 誰か水を!」


 慌てた使用人らしき声まで聞こえてきて、アルーシァは鏡から目を逸らした。どうやら何か騒ぎが起こったらしい。聞いている限り、アルーシァがここに連れてこられたこととは無関係そうだったが、じっとしていられなくてドアに歩み寄る。


「出ちゃだめって言われてたけど……見るぐらいなら、大丈夫よね」


 どちらにせよアルーシァの足は、ほどけない紐でベッドと繋がれているので、部屋の外に出せるのは顔ぐらいだ。

 そっと扉を開き、頭を廊下に出す。斜め前に、優美な曲線を描いた階段の手すりが見える。どうやらアルーシァが居る場所は屋敷の二階の部屋のようだった。

 きょろきょろと左右を見る。品の良いガラスで出来たランプが灯された廊下には、深緑の絨毯が敷き詰められている。自分が居る部屋は廊下の一番端にある部屋だった。そして、あわただしく人が出入りしている部屋は、反対側の端の部屋だ。


「……何があったんだろう」

「あんた何やってんの!」

 

 階段から鋭い声が飛んできて、思わずアルーシァはびくりと肩を揺らした。階下から上がってきたナディーンがこちらを凝視し、引きつった表情で固まっていた。が、次の瞬間我に返ったらしく、すさまじい速さで駆け寄ると、ぐいぐいと部屋の中にアルーシァの頭を押し込んだ。


「その目! 石はどうしたのよ! まさかそれのせいで坊ちゃん……ああもうとにかく早く引っ込みなさい!」

「い、痛い」

「んもう、出るなって言ったでしょう」

「でも何だか外が騒がしくて、見るだけならって」


 アルーシァを部屋の中へと引きずり込んだナディーンは、ため息をつきながら部屋を見渡した。姿見の側に置かれた赤い石を見つけると、問答無用でアルーシァの首にかけ直した。


「はーやれやれ……、あたしちょっと様子見てくるから、あなたはここにじっとしてて。その石は絶対外さないでね、いいわね?」

「え」

「説明は後でしてあげるわよ! いい、じっとしてるのよ!」


 ナディーンはろくに説明もせず、部屋を飛び出して行ってしまった。残されたアルーシァは何が何だかさっぱり分からない。ただ、赤い石を外してみた事が良くない事を引き起こしたようで、徐々に不安になってくる。外の様子がどうなったのか気になって、じっと耳をそばだててもみたが、騒ぎは収まったようで何も聞こえてこなかった。


 ナディーンが戻ってきたのは小一時間ほど経ってからだった。


「お待たせ。大人しくしてるー?」

「な、ナディーンさん」


 ベッドに腰掛けていたアルーシァは思わず腰を浮かせ、ナディーンの隣にもう一人、見知らぬ男が立っていることに気づいて口を閉じた。

 男は壮年の身なりの良い紳士だった。人当たりの良さそうな笑みをその面にのせ、アルーシァにその手を差し出した。


「はじめまして、レディ。君が先程のとんでもない魔力の震源地かな?」

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