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8.NG+

「はぁ……、はぁ……っ」


 厄災を倒した。

 未来の為で、長年に渡る世界の悲願だった結末だ。

 熾烈(しれつ)を極める戦いに、何度も気持ちが折れそうになった。だがここまで共に辿り着いた仲間がいたから耐えられた。

 仲間たちのため。誰のためにも、私が折れる訳にはいかない────。

 しんと鎮まる世界はあっけなく、疲れた身体を支えてくれそうにもない。

 カツンと乾いた音が響く。よろめく身体を支えようと剣を大地に突き立てた音だ。


「……たっ、倒しました。皆さんのおかげです────。私たち、やりましたっ! やったんですよ!」


 自分の息遣いと興奮冷めやらぬ脈動、激しい戦いで消耗した身体のせいで他の音が聞こえない。爆発で耳がやられたのかもしれない。重たい身体を動かし、勝利を分かち合おうと仲間を振り返った。


「よく出来ましたね、王子」


 ぶつかるように、魔導士さんが肩に腕を回した。

 仲間たちとよくやる習慣だ。喜びを分かち合うときや内緒話をするとき、励ましてくれるときに泣きたいとき。なにかを分かち合う時にやる親愛の行為。

 だからまた分かち合うために来てくれたのだと、彼の喜びが伝わった。

 浅くなる呼吸を繰り返し、疲労で身体を支えられないのだろう。なんとか押し返すものの、魔導士の重みでふたりで倒れてしまう。


「すみません、身体に力が入らなくて……」

「……ははっ。こんな時でも締まらないですね私たち」

「ははっ、また不敬をやらかしてすみません」


 気が抜け、自分たちの状況に可笑しくなりふたりで顔を合わせて笑う。

 ボロボロに汚れている。前にみんなで泥沼に誤って落ちた時のことを思い出した。真っ黒でずぶ濡れで全身べっとり汚れた、他愛無い思い出。

 つい数秒前まで激戦を繰り広げていた場所で、寝っ転がるだなんて。

 今の自分達は何をしているのだろう。

 見える景色は星空が円を描きながらゆっくりと回っている。


 ────元居た世界から離れた時空、厄災の眠っていた異次元に仲間たちと王子はやって来た。


 魔王がいる間は空は暗く何も見えなかったのに、災いが消えたことを喜ぶようにきらめく星々が見える。

 なんて綺麗なのだろう────。

 

「王子は大事を成されました。あなたは私たちの誇りです」

「お世辞はいいんですよ。無名の魔導士さんにトゥリアンダフィリの魔法剣士さん、イオデスの射手さんに、ルラキの聖騎士さんとポルトカリーの盗賊さん……、皆さんがいたから私たちが、世界を救うことが出来たのです。皆さんは私の誇りです」


 大変だった。

 だけど無事に旅が、目的が完遂出来たのは、紛れもなく支えてくれたみんなのお陰だった。

 ここまで来れたことが誇らしい。

 優秀な仲間たちが誇らしい。

 今日という日が、誇らしい────。


「ははっ、トゥリアンとルラキは泣いて喜びますよ。イオデスも王子の偉業を自慢するでしょうし、ポルトの姐さんもバカみたいな銅像をあちこちに建ててくれるでしょうね」

「あははっ、そんなこと言ってましたね。でも銅像か──。みんなといつまでも肩を並べられるなら、建ててもらうのも悪く無いかもしれませんね」


 重い身体を引き離し、魔導士さんが皆の名を呼んだ。春風のような暖かく柔らかい声が、嬉しい気持ちにさせる。

 お互い見合うと、ボロボロの姿にまた笑ってしまう。

 ここまで長い道のりだったから。


「だから王子、お先にお帰り下さい。何年も故郷を離れていたんです。王様もみんなも、王子に会いたがっているでしょうから」

「………………皆さんは?」


 身体を起こし魔導士の後ろの景色を見ると、戦いの余波で痛ましい景色が広がる。

 仲間たちは自分たちと同じように倒れているようだった。

 自分たちと同じで、立つだけの力が残っていないのかもしれない。

 たぶんきっと、そうだろう。


「少し休んだらみんなで一緒に帰りますから。ご心配なく」

「だったら一緒に」

「アヴリオン様」


 名を呼ばれると身体が硬直する。

 目を合わせず、ゆっくり立つ魔導士さんに違和感があった。


「……帰るなら一緒の方がいいでしょう? 一人で先に帰れなんて言うのは、効率が悪いです」

「大人は休んでからじゃないと、身体が動かないことがあるんです。これだから歳は取りたくないものですね」

「あなたは不老の魔法をかけているじゃないですか」

「不老の魔法を会得しているからって、疲れない訳じゃないんです。ルラキの……いや、リムニもアクティも身だしなみを気にする人だし、ヒマロスの旦那はカッコつけだし。ロティオンは私と同じ、ジジイ過ぎて回復に時間がかかる。それにこんなボロボロじゃあね」


 ここまで共にやって来た仲間たちの名のひとつひとつに、いろんな思いが募る。

 出会った頃の記憶に、道中過ごした時間。ここで激闘を繰り広げるまでに至った熱のひとつひとつが、名前を通じてこの身体に伝わるようだった。

 大事な仲間の名をひとつひとつを大事そうに挙げ、連ねていく話の行方が王子には分からなかった。


「紳士淑女の皆さんは身だしなみを整えたいでしょうから、我々に少し時間を下さい」

「そんなの……、準備が整うまで待てますよ。私が皆さんを急かしたことなんて、一度だってないじゃないですか」

「────お誕生日おめでとうございます、アヴリオン王子」


 忘れていたことを祝われると、力が抜けてしまった。

 昨日の夜まで覚えていた。勝ったら皆で祝おうと約束していたことだった。


 ────だけど、他のみんなは? 


 彼が先んじて予定を狂わすなんてこと、今までなかったことだ。

 魔導士さんは杖を振り上げた。────風が身体に絡みつくと、空の星々まで回転を速め時空が歪んでいく。


「今まで頑張った分も────、我々の分まで(・・・・・・)どうかお幸せになって下さいね、アヴリオン様」


 眠るまでの間、枕元で物語を聞かせてくれた母のように、優しい声と愛しむ眼差しが注がれた。

 だが、そんな記憶とは全く別のことを、彼がしようとしているのは理解した。

 他の仲間たちがどうして来ないのか、嫌な想像に背筋が凍る。


「やめろ────ッ! 君たちも一緒に帰還してくれ!」


 手を伸ばし制止するも、無名の魔導士は言うことを聞かず、眩い輝きに全身が押し出される。




 無用で最悪な祝福の言葉を押し付けられた。

 そんな言葉よりも、もっと別のものが欲しかったことくらい、彼も分かっていたはずだ。

 ────────最後に呼ばれた名と、祝福の言葉が耳の奥で反響する。




 名を…………、教えなければよかった。




 仲間だからと信頼していたのに、こんな風に使われるなんて。

 ひとり転移しながら、王子は後悔に苛まれた。




 *****




「──────っ、殿下」


 心配される声にはっと目を開けた。


「おはようございます。もしかして夢見が悪うございましたか?」

「……ここは?」


 真っ白な光にたまらず目を瞑る。────聞き覚えのある声だ。けれども仲間の声では無い。

 落胆しそうになるも、もしかしたら誰かいるかもしれないと手を伸ばした。

 衣擦れの音が身体にまとわりつく。


「ご安心くださいませ。ここには陛下も妃殿下もいらっしゃいます」


 何度か(またた)きをすると、次第に光に目が慣れていく。

 

「わたしの部屋か……?」

「えぇ、そうですよ。ふふっ、まだ殿下は寝ぼけておいででしょうか」


 柔らかく笑うのは、幼少の頃から世話になっている乳母とメイドたち。────どうして彼女らに世話をされているのか、分からなかった。


「それに呼び方も『わたし』だなんて。殿下はご自身の呼び方をお変えになられたのですね。ご立派になってしまわれて寂しくなってしまいます」

「なにを……?」


 乳母は、とっくの昔に王城を離れたはずだ。ここに存在(いる)はずなどない。

 他のメイドたちも、記憶に比べ皆若く見える。何故と疑問符を浮かべていると、側へと彼女らが寄ってくる。────ベッドに座っているはずなのに、何故か並ぶ彼女たちを見上げた。

 自分を見れば手のひらは小さく、見覚えのある寝衣を着ていた。

 ぐるりと見回すと、……世界が大きくなっている?


「さぁ、お着替えをなさいましょう殿下。朝食の準備が出来ております」


 乳母の言葉に状況が飲み込めない。

 もしかして、子どもの頃の夢でも見ているのだろうか。




 *****




 世話をされている内に理解したことがある。


 ────これは夢じゃない。


 醒める気配のない続く日常がそう告げた。

 それに、まだ魔王の脅威があるというじゃないか。


「もう一度、わたしが世界を救わねばならないということですね」


 力不足で叶わなかった勝利の凱旋(ハッピーエンド)を、やり直せる機会を与えられたのだ。

 これ以上幸せなことは、嬉しいことはあるだろうか。


「今度は誰も犠牲には致しません────」


 魔王討伐前夜に勝利と未来を話し合った仲間たちの顔を思い出しながら、王子はひとり決意した。




 *****




 前回と同じ日に王子は出発した。

 同じ道を辿り、覚えている限りの経験を知識に変え、全てを(かて)にした。

 万全の備えをして仲間と共に、魔王の元へと向かう。




 だけどどうしてか、誰も救えない。




 *****




 もしかしたら時間が足りないのかもしれない。

 何度目かの挑戦で気付いた。

 時期をずらして出発すれば、仲間にできたのは無名の魔導士ただ一人。

 長い黒髪に不健康そうな青白い肌、外で身体を動かさないであろうひ弱そうな身体をした彼は、いつ会ってもなにひとつ変わらない。

 眠さが隠しきれないあくびをしながら、彼は言う。


「いいのですか王子。他にも仲間にしたい人がいるんでしょう?」

「──問題ありません」


 魔法剣士はやり残したことがあり、射手は幼い家族を養っている。聖騎士は騎士にすら成っておらず、盗賊は領地を(また)ぐほどの内紛で、目的の彼女を探すことすら出来なかった。


「……彼らには辿(たど)るべき人生があります。わたしの勝手で、掴み取れた未来を奪ってしまうのは本望ではありません」

「さいですか」


 名持ちになる前の何者でもなかった仲間たちには、それぞれが歩んでいる時間がある。

 それに手を加えることは、とてもじゃないが出来なかった。


「だから期待していますよ、無名の魔導士さん」

「えぇ……? 無名の私に、あまり大きすぎる期待を見出さないで下さい」


 杖にもたれ困惑する魔導士さんに、ある心が芽生えた。


 ────あなたはあの日、最後までわたしの側にいたのです。


「魔導士さんだけが頼りですとも」

「うへぁ……? 王子、それって本気で言ってます……? ……………………ご冗談でしょう?」


 わたしに勝手な祝福と、ひどい未来を押し付けたのです。

 これくらいの期待を魔導士さんにかけるのは、おあいこというものでしょう。

 それに二人なら、誰かを置いて帰る必要もない。


 今度は上手く行きそうな気がした。




 ******




 二人で魔王の前にやってきたものの、わたしを転移させるための魔力だけ残して、魔導士さんは帰らなかった。

 足りない分だけの準備は出来ていただけに、あと一歩。

 これで終わりかと思った刹那、ベッドから世界が始まる。


 もう一度、王子はループを繰り返した。




 *******




 もしかしたら、この世界が誰かしらの犠牲を望んでいるのかもしれない。

 魔導士を連れていかなくても、転移する手段を得たのに今度は自分が死んだ。

 ただ、その中である力を得た。世界に干渉する力だ。────死んだからもうダメかと思ったのに、同じ場所から世界は始まった、


 もう一度、今度こそ上手くやってみせる。




********




 ひとりで魔王討伐までできる(すべ)を得たのに、今度は魔導士が早めに王子の元へ現れるようになった。

 理由を問いただせば、ウトピアの大魔導士様の指示によるもの。

 どうやら世界に干渉できることを、彼女たちは察知したらしい。

 ────だからといって彼らに何か出来る訳ではないらしく、何度会っても変わらぬ魔導士さんが困っていた。


「王子が大変なので側についていろと、師に言われて参りました……」

「特にわたしは困っていませんので、魔導士さんもお気にならさず」

「……どこの誰であれ、子どもをひとり放置出来ません。こんなのじゃ頼りないと思いますが、お供いたします」


 彼はこういう人だ。

 勇気も自信もないけれど、決断だけは下せる人。

 しかも年長者という自覚があるから、今の自分を見て憐れみを抱いてしまう。

 ────最初に出会った頃よりも、見目が若ければ(なお)のこと。


「それでは、よろしくお願いします」


 今度こそ世界の針を進め、誰もが幸せになれる未来をこの手で掴もうと決意する。

 また何も知らない魔導士と、全てを知る王子は握手を交わした。




********




「これって、何かご存知ですか?」


 星型のサングラスを魔導士さんが指差した。

 ピンクと水色のグラデーションの入った、見るからに陽気になれるサングラスだ。


「これは……。可愛らしいサングラスですね」


 昔、仲間たちととある街で見つけて、揃いに買ったものに似ている。────浜辺でこれをかけて過ごすのが大人だと、ポルトカリーの盗賊さんに言われてかけた記憶が蘇る。

 聖騎士さんはこのアイテムを軟弱と受け入れられず、頑なにかけてくれなかったことを思い出し、ふっと楽しかった記憶が口角を上げる。

 彼女以外のメンバーが星型のサングラスをかければ、束の間使命を忘れ、肩書きもなく一緒に騒いだ特別な夜。

 あの晩のパーティはずっと忘れない。


 だけどもあの日のことは、自分以外誰も覚えていない。

 誰かとあの夜のように騒ぐことも、もうない。

 そんな、大したことのない品だ。


 何度も側にいる魔導士さんとはたくさんの時間を過ごしたけれど、苦々しい横顔に覚えていないのは明らかだった。


「……以前、おばばが王都の議会から帰ってきた時に、こんなものをつけてまして。もしかして王都の流行りなんですか?」 

「そうなんですか? ……すみません、流行には(うと)くて」

「一体どこで何をしているんだあの人……。こんな場所でも見たのでもしかしてと、思っただけなんです。忘れてください」

「分かりました」


 忘れたくても忘れられないことが増えていく。

 そんなことを彼は知らないだけに、王子はなにもない笑顔でやり過ごした。




**************




 また自分のベッドに戻り、いつものように世話してくれる乳母たちに尋ねてみた。


「あの……、星型のサングラスって、皆さんはご存知ですか?」

「あら。殿下も見てしまったのですか? 議会の後、懇親会で皆様がおかけになっているところを」

「とても楽しそうですよね〜」

「あれはイデアルの大魔導士様の発案で、王都中に流行っているんですよ。堅苦しい話合いの後は懇親も必要とのことで、参加したい者がかけるとか」

「ヒールを履いて踊らなくていいし、私服で参加出来るので、私たちもよく紛れ込んでいます。リズムに合わせて踊っても良いし、歌っても良いので大人になったら王子もぜひご参加下さい!」


 乳母だけでなく、メイドたちが口々に明るい口調になっていく。


「殿下もいつか、盛大に打ち上げなさる際はご活用なさってはいかがでしょうか」

「きっと楽しいですよ」


 彼女たちの楽しげな姿と、戻らぬ過去が重なった。


「────いつか、そんな機会があったらぜひ」


 その打ち上げには、一体誰が来てくれるだろう。

 楽しい宴を夢見る彼女らの顔を見ていると、再度機会が訪れればいいと王子は思えた。




**********************




「あの……、やはり野菜は皮を取り除いた方が美味しいかと……」

「捨てるゴミを増やすくらいなら、丸ごと入れてしまった方が楽だし処理の手間が減ります。いつ何時何があるか分からないのです。休むための時間を増やす方がずっといい」


 いい加減口に合わないことを訴えるも、食事を作ってくれる魔導士さんは取り合ってくれない。


「それに王子は食事を取ることを舐めています。塩もかけず食材を焼いて終わりだなんて、そんな食事は楽しくないでしょう? 腹を満たすだけでいいと思うと、だんだん食事を取らなくなってしまいますから」

「……魔導士さんも研究していたら同じことをするでしょう?」

「研究中はひとりですし、どうしても食事が後回しになってしまうのは認めます。だけど誰かと食事を摂るのであれば話は別です」


 自分のことは棚にあげ、言い聞かせるように彼は言う。


「食事でも時間でも会話でも、何かを分かち合うことは有意義な時間です。今は王子の不満を分かち合いましょう」


 ────彼はいつもそうだ。

 ずっと変わらない性格に、何度分けて与えても何も残らない。


「……暖かい風呂に入りたいですね」

「風呂は面倒なので却下です」

「髪を伸ばしすぎだからじゃないですか。わたしみたく短くしたら、面倒は少なくなりますよ」

「髪にも魔力が宿るので、安易に切るべきじゃないんです。切ったら髪に宿る魔力も減りますし、……こればかりは安易に決断できません」


 面倒で厄介で、聞き分けのない年長者に苦笑する。

 たとえどこにも残らなくたって、この時間のことは忘れないだろう。


「なら髪から魔力を切り分けることが出来れば、伸ばさなくて済みそうですね」

「魔力を切り分けるか……。それはいい考えですね────!」


 何十年も昔に少年だった彼の目に輝きが灯ると、オルゴールのようにくるくると止まらぬ熱意を奏で始めた。

 楽しそうな彼へ、長い時間と短い付き合いの中で出来た親しみがどんどん大きくなる。

 もしどこか別の形で出会っていたら、救世の王子とそのお供ではなく、対等な友人でいれたのではないだろうか。

 そんな空想に浸り、ひとり楽しそうな彼の話しに適当な相槌を打ちながら、束の間の休息は終わりに近付く。




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 あと少し。

 目的まで僅かに手が届かず、また世界を巡る。

 魔導士さんが()りずについてくる時もあれば、追い返すことに成功することもあった。

 魔王も簡単に倒せるようになったのに、世界を救えとリセットから始まるループにも慣れたもの。


 あまりにも簡単に倒せるようになってしまっただけに、何か物足りない。


「……実はおばばから、王子を暗殺せよと命じられました……」


 何回目の再会か、数えるのも飽きてしまった頃、帰ろうとした魔導士さんがそう言った。


「──そういうこともありましょう」


 世界の幸せを願っただけだけど、気付けば刺激を求め何度も時を繰り返しているじゃないか。それに何度も同じような時を繰り返すのは異常だ────。

 全てが夢であれば良かったけど、王子(わたし)にとっての現実だから仕方ない。

 だけど、……どうしても全てを(こぼ)したくない。


 大きくなることのない手に宿る力の強大さを思えば、わたしがおかしくな(バグ)ってしまったのだと嫌でも気付く。

 

「わたしを殺し(とめ)ますか?」

「…………」


 お人よしの魔導士さんは何も言わなかった。

 

「わたしは天命に従いましょう。誰かが止めに来るまで、わたしは待っていますから」


 いくつもの"終わり(ENDING)"を経験したけど、"目覚め(RESTAET)"に何度も阻まれる。


「まだ走り続けることができる以上、わたしは世界を救いに行きます。誰かが止めてくれるまでどこまでも」


 "周回する世界(ENDLESS)"がわたしに与えられた現実であるなら、最後まで役目を果たしましょう。

 そう戸惑う魔導士さんに、わたしは笑いかけた。









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 ******




 最初の望みはたったひとつ。

 みんなで一緒に帰りたかった。


 けれども今はそれは形を変えた願いとなる。

 どうか、この世界の皆が幸せでありますように。


 生ある限り何度でも世界を救う。

 それが王子が足を止めない理由。

Tips:NG+とは

『強くてニューゲーム』の略。クリア時点でのステータス等が引き継がれ、最初から始めることを指す。

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