表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘つきの夜に僕は恋をした  作者: かれら
昼の光に、夜の記憶
9/30

【Side Story2】気づかない優しさ

柚葉回想

昼休み、教室の中はいつものように賑やかだった。

 柚葉は陽太たちと雑談しながら、適当にパンをかじっていた。


 「ねえ透、お前って好きな子とかいないの?」


 陽太が興味本位で尋ねると、透は少しだけ眉を寄せて、そっけなく答えた。


 「いない」


 即答。


 「あー、だろうなー。なんかお前ってそういうの鈍そうだし」


 陽太が笑いながらそう言うと、柚葉もつられて笑った。

 確かに、透はそういう話題には全然乗ってこない。淡々としていて、感情が表に出ることも少ない。


 でも、それは本当に「鈍い」からなんだろうか。


 ふと、柚葉はこの間のことを思い出した。

 あの放課後、ひとりで階段に座り込んでいたとき、何も言わずに透がハンカチを置いていったこと。


 「……」


 あの時、柚葉は透に「ありがとう」と言わなかった。

 いや、言えなかった。


 何も考えずに受け取るのが恥ずかしかったし、そもそも彼がそんなことをするとは思わなかった。


 透は、たぶん本人は意識していない。

 でも、その「気づかない優しさ」みたいなものが、柚葉の中にずっと残っていた。


 「なあ柚葉、お前は好きなやついるの?」


 陽太の言葉に、思わず咳き込む。


 「は!? いや、いないし!!」


 「え~、なんか怪しい」


 「怪しくない!!」


 ごまかすように大声を出して、柚葉は強引に話題を変えた。


 透は、何も言わずに聞いていた。



---


 その日の帰り道、柚葉は下駄箱で靴を履き替えながら、ふと隣を見る。


 透が、無言で誰かの上履きを拾い上げていた。


 誰かが落としたらしいそれを、彼は何のためらいもなく靴箱に戻した。

 落とした本人が気づくこともなく、透がそれを拾ったことを知る人もいない。


 「……何なの、あの人」


 独り言のように呟いて、柚葉は透の背中をじっと見つめた。


 「……鈍いんじゃなくて、気づかないフリしてるだけなのかも」


 風が冷たくなり始めた秋の帰り道。

 その背中が、どうしようもなく気になった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ