最終話
アトミックスズメバチと交戦に入ったアトミックシャーク、そのはるか上空から無数のB-52爆撃機が今か今かと待ち構えていた。
「ラプター、イーグル、第一陣後続まで到着したとのことです」
「爆弾投下! 戦闘機の出番なんぞないと教えてやれ!」
総数70機のB-52の大編隊、『死の鳥』と謳われる所以を披露することになった。爆弾を格納していた扉が開くとほぼ同時、一つ一つが200kgを優に超える爆弾を大量に投下していった。
「投下完了! 戻るぞ!」
「化け物め、くたばりやがれ」
B-52の眼下ではアトミックスズメバチとアトミックシャークがいまだに戦い続けている。人間がいたはずのそこはもはや無人の荒野と化している。もはや絨毯爆撃を咎める者など存在しない。
「3……2……1……着弾!」
轟音と共に大地が爆弾によって抉り返される。当然当たっていないものもあるが、まずは成功といえる。
「ゴガァアアアアアアアアッ!!」
姿の見えない敵に向け、アトミックシャークが吠えた。周囲にいたアトミックスズメバチは爆弾を受けて悉くが死ぬか重傷を負って地面に落ちていた。
「情けない。ハチしか始末出来んとは。後続共! 出番だ!」
最初の爆撃で仕留めきれなかったことがわかると、すぐさま次が来る。
上空からB-1ランサーを筆頭に、地上付近では生き残ったアトミックスズメバチを退治しつつ誘導爆弾を積んだ戦闘機が迫る。
「景気よくぶちまけろ! 大統領から『今日はいくらでも撃っていい』って言われたんだ! 構わず撃ち尽くせ!」
戦闘機が狙うのはアトミックシャークの巨体を支える足。超高速で飛びながら彼らは爆弾を足に向かって射出する。
「ガァアアアアッ!」
口を開いたアトミックシャークが核光線を放とうとしたが、間に合わない。爆弾を射出した後、戦闘機は一気に加速し逃げていた。
アトミックシャークは未だかつて味わったことのない規模の攻撃を全身に浴びたことで初めてそこで逃走の意志を見せる。地面を掘り、どこか離れた場所に行こうとしたのだ。
だがそんな隙を与えるほど、人間は甘くはない。
「地下に逃げるぞ! バンカーバスター!」
アトミックシャークが地面に潜って暫く、上空から3発の特殊な爆弾が降ってきた。
本来地下の施設を破壊する目的で作られたそれは地面を抉り、まだ逃げられていなかったアトミックシャークに直撃した。
「ゴ……アアアアアアッ!」
たまらず地面から顔を出したアトミックシャーク、今度はその顔面に砲弾の雨が降ってきた。
「俺達の榴弾で素敵なお顔に刺青を彫ってやれ! 『バカ』ってな!」
地上で待ち構えていたⅯ109自走砲532両、Ⅿ777榴弾砲400門による砲撃の嵐に、地面から出てきたばかりのアトミックシャークに直撃、ここでようやく弱ったような声が漏れた。アトミックシャークの顔面は抉れ、たまらず倒れ伏すことになる。
「次弾装填……いやまて」
続けて攻撃しようとした地上部隊が一時止まる。
「ガァアアアアアアアアッ!」
怒りに任せて咆哮したアトミックシャーク、その身体の周りに何か光る壁のようなものが形成されていく。
「バリアを張った模様! ミサイルが通る前に落とされてます!」
報告に構わず撃とうとした地上部隊を制止したのは、海兵隊だった。
「バリアがなんだ。口径の違いを思い知らせてやる。全砲門! 発射!」
海の上に浮かぶ巨大な要塞のような船、戦艦ミズーリ。アトミックシャークに負けぬ巨大なその船の上に搭載された9門の巨大な砲は全てがアトミックシャークへと狙いをつけていた。
凄まじい轟音と吐き出された煙を置き去りにして、巨大な砲弾がアトミックシャークへと迫る。
ミサイルはこれで防げた。もう安全だと油断するアトミックシャーク。
だが張られたバリアは40.6cm砲の砲弾を阻むことは出来なかった。
「ゴガアアッ!?」
易々と貫通した砲弾はアトミックシャークの胴を抉った。
「バリアが剥がれたぞ! 海兵のくせにやるじゃないか!」
バリアが剥がれほうほうの体で逃げようとするアトミックシャークに更に砲弾やミサイル、爆弾が撃ち込まれる。
「ガ……ガァ……」
止むことのない爆発の雨、まず足が千切れた、核光線を撃とうとしたが3本あった頭が真ん中だけを残して砕け散った、尾はとうの昔に焼けて消えた。
結果アトミックシャークは逃げることも反撃することも出来ず徐々に小さくなっていく。
「死んじまえ! このクソッタレの化け物が!」
「人間の世界から消え失せろ!」
「地獄に落ちろ!」
軍の無線はアトミックシャークへの罵倒であふれた。
駄目押しとばかりに後から来たB-52爆撃機が爆弾を落としていく。ナパーム、バンカーバスター、サーモバリック、クラスター、倉庫に残っていた弾薬を全て使う勢いで投下する。
「ひとかけらも残すな! 全部焼き尽くすんだ!」
「見ろよ。花火だ。あの化け物サメの最後だぜ」
「綺麗だな」
アトミックシャークから離れた場所でヨセフ達を乗せたジープが停まっていた。遠く離れた場所からでもわかるほどの轟音と砂煙をヨセフ達は見ていた。
やがてそれが治まると不気味なほどの静寂に包まれる。
「……終わったな」
「ヨセフ……?」
隣の座席で寝ていたレンダが目を覚ました。
「やぁレンダ。お目覚めかい?」
「助けてくれたのね。ありがとう」
「おおい、こんなとこでやめろよお前ら」
ヨセフとレンダはハリー達に見守られながら熱い口づけを交わした。やれやれと肩をすくめる軍人とハリー。
だがその場にいた者は誰も知らない。レンダの腹に人ではない何かが胎動していることを……




