ベネト・ダレッサンドリ巡査と——
ベネト・ダレッサンドリ巡査とサルヴァトーレ・ピオスコ巡査の葬儀はふたりの勤務地である〈石の棺〉市の教会で合同で行われた。市が葬儀費用を出した葬儀は老獪な司祭長に仕切られて、この十年で最も立派な葬式になった。それもそのはずで警官がふたり、一度に命を落とし、しかも、死因が頭を二度、後ろから撃たれたことなのだから、騒ぎにならないわけがなかった。司祭長は雄弁にふたりを殺害した犯人が地獄で焼かれることを聴衆たちに約束したが、ほとんどの人はそれが空約束になると思っていた。
それから三日間、うわさ話や曖昧な話、探るような話にあけっぴろげな話が井戸端会議から地方の新聞に至るまで繰り広げられ、お守り描きのルベーネは警察に憲兵隊にと何度も聴取を受けた。新聞記者たちも彼を放っておかず、死体を見つける直前、彼が聖アマーツィオのお姿をラバの背中に描いていた話が掲載された。
モレッロ警部は警察署の取調室で手当たり次第に引っぱられた前科者たちの相手をしていた。ふたりに逮捕されたものとそうでないものに分けての取り調べで、モレッロ警部の担当はふたりとは関係のない前科者だった。
「あたしが警官を撃つなんて絶対にしませんよ。とんでもない! おふくろに誓って、やってませんってば!」
そのときの相手は、たまたま警部が逮捕したことのあるメゼッロという元空き巣だった。出所後、メゼッロはタレコミ屋のようなことをするようになり、警部はときどき思いついたようにこのメゼッロから、何かネタはないかとたずねてみるのだった。
「じゃあ、ふたりの警官の頭を後ろから撃つような命知らずのことで何かきいていることはないか? ふたりに挙げられた連中の取り調べは隣の部屋でやっている。お前が話すのはふたりに挙げられそうだったやつだ」
「よそものの仕業じゃないですかね?」
「どうしてそう思う?」
「どうしてって、そりゃあ、古王国人がやるにしちゃ、あまりにも大胆じゃないですか。警官を一度にふたりも殺すなんて。きっと本土の共和国人の仕業ですよ。なんたって、連中は教会を軽視してますからね。倫理ってもんが飛んじまってます」
「お前が毎日教会に通うタイプだとは知らなかったよ。懺悔もするのか?」
「いや、まあ、あたしは別に、教会に行きまくるってことはないですし、懺悔は警察のみなさんにし尽くしましたよ。もう、カラッケツ。やってもいないことまで懺悔させられました」
「とりあえず、まず、お前がすべきなのは実はお前が真犯人で、よそものに罪をなすりつけようとしているという説に傾きつつあるおれを納得させることだな」
「ちょっと、やめてくださいよ、警部さん! あたしはムショを出てからはまっとうに暮らしてるんですよ。実際、あたしは良き市民じゃないですか」
「通報と引き換えに小金をせしめる良き市民か。まあ、いい。何かあったら、おれに一報入れろよ」
「はい。もちろんです。ただ、その、最近、ちょいと入用でして。なに、オンナがね、まあ、ちょっと持たしてやりたいと思って」
警部は財布から赤色の紙幣を二枚抜いて、机に置いた。紙幣は手品みたいにメゼッロのポケットに消えた。
メゼッロが帰ると、警部は手帳に書き並べた前科者のリストのうち、メゼッロに線を引き、『最低でも払った分はこき使う』と書き加えた。リストはあと八人もいた。実際はもっと多いはずだ。荷台の代わりに牢屋をつけたトラックが町じゅうを走って、前科者やこれから前科者になりそうな連中をさらっているのだ。しかし、そういう連中はみな泥棒やスリといったケチな犯罪者たちで、人を殺したことのあるものはおらず、ひとり傷害で捕まったやつがいたが、それは逃げる間男に包丁を投げつけ、浅い傷をつけただけのいわゆる寝取られ男だった。
取り調べ室を出て、自分の机を見ると、そばのベンチに憲兵将校の制服を着た若い男が制帽を小脇に抱えるように持って、座っていた。憲兵将校は警部を見ると立ち上がり、手を差し出して、告げた。
「初めてお会いしますね。第三憲兵隊中尉のカラヴァッジョです」
「モレッロです。第三憲兵隊というと王都の方ですか?」
「ええ」
田舎町の警察と都会の憲兵のあいだに横たわる溝は深い。赤ん坊を投げ込めば、底にぶつかるころには八十のじいさんになっていることだろう。警部は他人行儀な口調が出ないよう用心しながら、握手に応じた。中尉は子どもっぽくはにかんだ。
「突然、押しかけるようにしてあらわれたことをお許しください。ですが、時間がもったいなくて」
「はあ。それで何の御用でしょう?」
「今度の事件について、お話ししたいことがあります。二年前、酷似した事件があったのです。大蔵省の女性職員が射殺された事件を覚えておいでですか?」