コンツェッタ・サリエリの棺は——
コンツェッタ・サリエリの棺は彼女の親戚たちに担がれて、公共墓地へと運ばれた。両親らしい初老の夫妻が打ちのめされたように震え、お互いを支えながら、教会の階段を下りていた。
サリエリ女史は後ろ手に縛られ、頭に二発撃ちこまれていた。一発目を撃った後、犯人は倒れている彼女の頭にもう一発撃ちこんだ。それは殺人というよりは処刑だった。
サリエリ女史は失踪する前日、夜を徹して、書物庫で働いていた。彼女は勤務時間の変更を人事課に告げ、そして、翌日の午前九時、家に帰ろうと、チェントリオーネ広場に出た。そこで彼女はバスの代わりに大きな黒い自動車に乗った。チェントリオーネ広場にいたのは全員が善良な市民だったから、自分は何も見ていない、知らないと言い張った。それでもレモンを売っていた少年がカラヴァッジョ中尉に話した。コンツェッタ・サリエリは自動車に喜んで乗っていったと。
その自動車が殺人者の自動車だ。
まもなく、少年の両親が出てきて、少年は何も見ていないと証言を覆した。
だが、推理するには十分だった。
彼女が夜を徹して書類を探したのは自分のせいだ。
きっと、サント・ヴェッキオの書類を全部探し出そうとしたに違いない。
「おれのせいだ」
もっと彼女の安全について考えるべきだった。
すべては秘密裏に行われていると思っていたが、それは思い上がりだった。
やつらは知っていた。
そして、彼女をさらった大型の黒い自動車。
憲兵の官用自動車で、そういうセダンがある。
そんな自動車に彼女が喜んで乗る理由。
憲兵の軍服を着た男がこう言ったのだ——カラヴァッジョ中尉がお待ちです。
「全て、おれのせいだ」
涙がこぼれた。中尉は大型の、憲兵用の自動車に乗り、大蔵省へと車を走らせた。
消防車が来ていた。野次馬と整理の警官が門の前に集まっていた。
中尉は身分証を警官に見せて、なかに入った。
書物庫が燃えた跡だった。
全ては炭となり棚は崩れ、書類は水浸しとなり、彼女が用意したであろう書類も灰となった。
消防士は迷惑そうな顔をしていた。
「あなたは放火の捜査官ですか?」
「いや」
「じゃあ、出て行ってください」
「これは放火か?」
「それをこれから調べるんですよ」
「この部屋の主が射殺されたことを知っているか?」
「射殺?」
「いや、なんでもない」
「そんなふうに言われたら、気になるじゃないですか」
「関係はないだろう。この部屋は——ただの書物庫だ」
全部、おれのせいだ。
おれが彼女を殺したんだ。
大蔵省は火事があっても、ひとりの若い娘が射殺されても、自分たちの仕事から離れない。
インクを吸って肥え太った万年筆が紙を引っかく音に囲まれながら、中尉は誓った。
絶対に挙げる。
絶対に全てを明らかにしてやる。
それが償いになるとは思えない。
だが、それ以外にできることがない。
たとえ、後ろから頭を二発撃たれることになっても、全ての悪を引きずり出してやる。
ある役人が大蔵省から出るとき、守衛の詰め所には若い男がいた。
「ぺゼリーニはどうしたんだ?」
「ぺゼリーニさんならやめましたよ」
「やめた?」
「なんか、田舎に持っていた土地がすごい値段で売れたから仕事をやめて南のほうに移住するって」
「それはいつのことだ?」
「昨日ですよ」
「南のどこに?」
「分かりませんよ。だって、そんなこと、どうだっていいことでしょう?」
【終わり】