「サリエリさん。どうしたのですか?」――
「サリエリさん。どうしたのですか?」
「ぺゼリーニさん。ピストルをありがとうございます。結局、使いませんでした」
「だいぶすぐれないようですね。はやく帰られたほうが——」
「いえ。むしろ、いまこそ仕事がしたいんです」
午後六時十五分。書物庫。コニーは腕時計を外してカウンターの引き出しにしまった。
自転車を漕いで、サント・ヴェッキオの書類を手当たり次第に集めようとした。ところが、サント・ヴェッキオの書類を選んだはずが、そこに彼の名はなかった。そのかわりに〈叔父〉という言葉が固有名詞のように使われた書類ばかりが集まった。
どれも一見正当だがきわどい取引の数々でそこに利益を得た政治家や実業家の名前が連なっている。
サント・ヴェッキオが電話で言っていた、やつら。
金が失われ、サント・ヴェッキオの命を脅かし始めた、やつら。
これが〈叔父〉だ。コニーには確信があった。
カラヴァッジョ中尉に失望されたままでいたくない。そして、挽回の鍵が〈叔父〉だ。書物庫で培わされた事務員の本能がそう叫んでいる。
明日にはサント・ヴェッキオよりも重大な犯罪者の情報を用意できる。
そうすれば、中尉はわたしをまた認めてくれる。
きっと、――きっとそうだ。
コンツェッタ・サリエリ女史の死体は失踪から二日後、郊外の墓地の裏で見つかった。