表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/50

「とんでもねえですよ、大尉さん。わしら——

「とんでもねえですよ、大尉さん。わしら、あいつらが何やってやがんだか分からなかったんで。変なもんをブリキの缶であぶってるのが見えて、わしら、こりゃあ、ろくなことにならねえぞと思ったんで。隣村でヤク中が子どもにとんでもねえイタズラしたって話をきいてやした。それで、都会から子どもさらいがきやがった、らりった馬鹿野郎どもが来たんだと思って、わしと従兄弟のフィリッポ、それに製粉工場(せいふんこうば)の下手に住んでるトンマーゾ・カコラッリアに声をかけて、猟銃をとって変態野郎どもの潜んでる、ぶっつぶれ納屋に行ったんでさ。そうしたら、――いいでござんすか、大尉さん。これが大切なことですぜ——なんと、やつらのほうからぶっ放したんです。わしらを狙って。こいつは神に誓って、それに、ほら、新しい神さま、最高理性でしたっけ、それにも誓います。大統領にも誓います。やつらからぶっ放してきたんです。こんなにでっかい弾でした。でかい銃を持っていたんです。あそこはわしらの地所だから、わしらがあそこに行くことはなーんも法を破ってねえのに、あの畜生どもは撃ってきやがったんです。そうしたら、旦那、誰だって撃ち返すでしょう? わしのかかあはこのあいだひとりひりだしたばかりだし、トンマーゾにはもうじき嫁にいく娘がいる。わしらには死ななきゃならねえ理由はねえ。だから、こっちも弾をぶち込んだわけです。シキンキョリで撃っただろう? シキンキョリってんはなんですか、大尉さん。……はあ、鼻がつまめるくらい近いところ。ええ、一発ぶち込みました。でも、そいつはわしの鼻にかみつこうとしたんでさ。そのことは従兄弟のフィリッポと製粉工場の下手に住んでるトンマーゾ・カコラッリアが証人でがす。確かにわしらはふたりの顔を吹っ飛ばしましたが、こいつは万が一仕留め損なって、変態どもに背中を撃たれちゃあオシマイで、だから、二度とわしらの納屋で悪さできないよう、脳天を吹っ飛ばしたわけでさ。――え、なんで、心臓を撃たなかったかって? そりゃあ、心臓は体のなかにあるから、胴に一発ぶっ放しても、それが心臓に当たってるかわかりやせん。ひょっとしたら鹿弾は、全部胃袋に入っちまったかもしれません。でも、頭なら分かりやすい。肩から上が全部なくなっちまった人間が生き返れる道理やありやせん。だから、わしと従兄弟のフィリッポ、それに製粉工場の下手に住んでるトンマーゾ・カコラッリアがあのヤク中どもをばらしたことはなんも責められることじゃあねえです。ひでえ話ですよ。わしらみたいな正直な百姓がこんなふうに憲兵の旦那方にあれこれ話せと責められるなんて、本当にひでえ話です。それもこれも世のなかのせいです。あの〈翡翠ジャーダ〉ってもんが流行ってから、こんなことばかりでさ。都会を追い出されたのか、それとも田舎でだったらクソを煮るのに誰のおゆるしもいらねえと思ったのか分からねえトンチキどもが、夜な夜なヤクを煮るんです。で、あのヤクは光るから島の端から見ても分かるんでさ。こっちはそんなもんが村に入ってくるのはやなことなんで、そいつを止めに行ったら、撃たれるんですぜ。こんなクソひでえことはありませんよ、大尉さん。それにやつらは気味が悪いんで。だって、あの〈翡翠〉ってのをやると、血の道が青く光るんですぜ。ええ、こいつは掛け値なしの、本当の話ですよ、大尉さん!」

 マジックミラーの向こうでは顔を髭だらけにした農夫が供述していた。

「我々の摘発とやつらの抗争が〈翡翠〉の使用を難しくしているようです」少佐が言った。「この抗争ではどちらも雑魚は狙いません。大きく〈翡翠〉が動けば、そこに的がいることが知れる。だから、〈翡翠〉の密売屋は商品を抱え込んで地下にもぐっているわけです」

 右側のマジックミラーに目をやると、そこには〈片目〉が座っていた。怒りも蔑みもなく、ただ、仮面のように無表情だった。刈り込んだ髪は白くなっているが、腕は丸太のように太く、肩はこの国でよく見かける崖を思い出させた。町ひとつを丸ごと乗せた峻厳な崖だ。

 カラヴァッジョが取調室に入ると、〈片目〉は初めて表情らしいものを出したが、それはおそらく〈叔父〉にしか分からない、特別な感情だった。そして、カラヴァッジョはその感情が分かった。それは敵対者へのどうしようもない愛着だった。

「時代は変わったんだ、カラブレーゼ。もう〈叔父〉に往年の力はない。あんたのような人間がこれからおれがする提案にうなずくとは思えない。だが、一応しておく。全てを白状すれば、身の安全は保証する」

〈片目〉がにやりと笑った。

「お前みたいな人間がわしの提案を受けるとは思わないが、一応言っておく。〈叔父〉にならんか?  うなずけば、世界を保証しよう。ん?」

「以前、同じことをきいてきた男がいた」

「アンジェロ・アッリーゴだろ」

「そうだ」

「あいつは〈ギャング〉に加担していやがる。その点は馬鹿野郎だが、でも、ドン・ニコロの血を引いてるのは間違いない。〈ギャング〉なんてアンジェロがいなけりゃ、ただのチンピラだ」

「〈叔父〉も同じ水準に落ちている。殺されたら、殺し返して、それが皆殺しになるまで続く」

「やられたら、やり返せ。これはこのジャングルみたいな社会を生き残る第一条だ。やられて、やり返さなかったら、死ぬまでやられるだけだ。もし、お前らの誰かが殺られたら、お前らはそいつを徹底的に狩る。この理屈は分かるだろ?」

「我々は法は破らない」

「破ろうが破るまいが人殺しは人殺しだ。問題は殺すか殺さないかじゃなくて、どの決まりの側につくかだ」

「このままいけば、あんたは十年の懲役だ。刑務所のなかで死ぬことになるぞ」

「見えない牢屋で死ぬよりはマシだ」

「どういう意味だ?」

「〈叔父〉になって、空を見上げろ。そうしたら、見えるはずだぜ、これまで自分を閉じ込めていた牢屋が崩れていくのがな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ