「諸君、君主制の危機だ。沙国の運命と——
「諸君、君主制の危機だ。沙国の運命と我が国の運命は同一のものだ。我が国は義勇軍を送り出す。伝統と正義と信仰と君主制。血を流しても守るべき、大切なものだ」
サムブラウンベルトで銃を吊るした男が演説台から叫んだ。太った地主が感極まった様子で演説台に無理やり上がると、マイクを男から丁寧に譲り受けて叫んだ。
「愛国心のある若者ならこの戦争に喜んで志願するはずだ。志願しないなら非国民だ。非国民にわしの土地を耕させるわけにはいかん。わしは男子のある家が最低ひとりでも義勇軍に入れない一家はわしの土地から追い出すことをここに誓うぞ!」
観衆のなかに混じった地主たちもそれに倣い、叫んだ。
「馬鹿どもが」カナメッロ大尉はその集会を眺めながら、こぼした。「働き手を軍にくれてやったら、誰がやつらの土地を耕すんだ」
カナメッロ大尉はひどく疲れていた。プリモ・スカンツィは見つからない。パッパラルド司祭や退役大佐の地主たちはなぜ女性関係から殺人事件を洗わないと干渉してくる。ひとつ、気休めがあるとしたら、ピッコロミニ調査官が犯人をドン・ニコロのガヴェロットだと言ったときのパッパラルドの顔だった。
あのときはあれだけ嫌だった異端調査官の到着もいまではこの事件の起きたなかで一番マシな出来事だったと思う。狂ったこの町では狂ったものだけが正気なのだ。そして、正気を装う狂人たちは今日も集まって、戦争に熱中する。このなかで実際に戦争に行くものはひとりもいない。あながち、やつらも狂ってはいないのかもしれない。打算で動ける狂人はいないというのが前提だが。
壁を見ると、双面の天使の札の上に戦争債の購入を訴えるポスターが貼られていた。着物に〈君主制〉と書かれた沙国の女性に共和国ゴリラがこん棒で襲いかかろうとしていて、そのあいだに銀の鎧をまとった古王国の騎士が割って入り、剣を掲げて、美女を救おうとしている絵だ。最近の仕事はこれを剝がそうとする布教団の信徒を引っぱることだ。もう、部下たちもプリモ・スカンツィの線は消えていると思っている。そろそろ捨てるべきなのかもしれないが、未練があった。
広場の外れの展望台から崖の下の、市外へつながる道を見下ろした。大尉はポスターを剥がしたことについて町を出るなら、検察にはまわさないと取引を持ちかけた。その結果、布教団は長い列となって、〈岩の君主〉を外へと出て行った。そのなかにピッコロミニ元調査官がいた。ボロボロになったフロックコートを肩に乗せたその顔は生真面目さと幸福が同居して、たるみと引き締めが入札談合したみたいに五分五分の割合で顔の部分ごとにあらわれていた。
結局、テントは手に入らなかったそうだ。
【終わり】




