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古王国の話 ~とあるカラビニエーレ~  作者: 実茂 譲
ダレッサンドリ=ピオスコ事件
18/50

ブドウはもうじき熟していく。――

 ブドウはもうじき熟していく。

 聖フランツィウス教会の司祭は畑のブドウの葉を触った。片手には霧吹きがあり、ときどき葉を優しく、愛でて、水を吹いた。そのあたりのブドウは五年前に植えた苗で、ようやく、ワインから粗野なコクが弱まり、酸っぱくなりはじめていた。

 空には太陽が高く、そのうち秋を思わせる渡り鳥が南へ飛ぶのが見られるだろう。古王国島には雪が降らない。渡り鳥のなかには島で冬を越す種類もいる。司祭は鳥には詳しくないので、図鑑を見なければ鳥を判別できなかった。

 教会のなかに戻り、聖像の前で十字を切ってひざまずき、祈りの文句を唱えた。そのとき、司祭は新聞の切れ端を見つけた。

「おやおや」

 その新聞からは大文字のGと小文字のiが切り取られている。

 司祭は聖像を見上げた。ここでこの紙が見つかったことは偶然ではない。神は何か唱えようとしているのだ。

 だが、司祭には何もきこえない。

 聖像の前に立っている蝋燭をつけると、新聞の切れ端に火をつけた。手を離すと、燃える新聞は床に落ちる前に灰になり、バラバラに散っていった。

 表の扉が半分開いていた。そこから庭とブドウ棚が見えた。

 ピエトロが()()()()()()()()()()()が入っているらしい細い箱をベルトで肩にかけて、ブドウ棚の門をくぐってやってくる。

 司祭に向かって、朗らかに笑いながら。


                   【終わり】

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