ブドウはもうじき熟していく。――
ブドウはもうじき熟していく。
聖フランツィウス教会の司祭は畑のブドウの葉を触った。片手には霧吹きがあり、ときどき葉を優しく、愛でて、水を吹いた。そのあたりのブドウは五年前に植えた苗で、ようやく、ワインから粗野なコクが弱まり、酸っぱくなりはじめていた。
空には太陽が高く、そのうち秋を思わせる渡り鳥が南へ飛ぶのが見られるだろう。古王国島には雪が降らない。渡り鳥のなかには島で冬を越す種類もいる。司祭は鳥には詳しくないので、図鑑を見なければ鳥を判別できなかった。
教会のなかに戻り、聖像の前で十字を切ってひざまずき、祈りの文句を唱えた。そのとき、司祭は新聞の切れ端を見つけた。
「おやおや」
その新聞からは大文字のGと小文字のiが切り取られている。
司祭は聖像を見上げた。ここでこの紙が見つかったことは偶然ではない。神は何か唱えようとしているのだ。
だが、司祭には何もきこえない。
聖像の前に立っている蝋燭をつけると、新聞の切れ端に火をつけた。手を離すと、燃える新聞は床に落ちる前に灰になり、バラバラに散っていった。
表の扉が半分開いていた。そこから庭とブドウ棚が見えた。
ピエトロが大きな楽器のようなものが入っているらしい細い箱をベルトで肩にかけて、ブドウ棚の門をくぐってやってくる。
司祭に向かって、朗らかに笑いながら。
【終わり】




