#3
「準備急げ!もう時間がないぞ!」
ここは八咫校のサブ格納庫、そこでは多数の陸海軍の整備士が作業をしていた。そこには黒き武士、『武士・改』に大型のブースターを多数装備し、まるでロケットの先に武士を取り付けただけようである。が、これは大日本帝国軍の最新鋭装備であり、本来ならこんなところにあってはならない物である。
「山本大臣。用意完了しました!」
「ご苦労。本装備の初の実戦投入というより想定外の実戦投入である。それがこのような形になるとは私も思っていなかった。しかし、幸いにもパイロットは超一流であり、この任務は今は亡き村田博士の御息女救出という超重要作戦である。貴様らの技術を村田博士に見せつけるチャンスだ。これより作戦『月夜』を実行する。」
山本の話が終わり、作戦が発動された。ここからは俺の仕事である。
「タナトス、出力チェック。および、新装備データ表示。」
「了。データ表示。出力問題無し。いつでもいけます。」
サイレンが鳴る。作業をしていた人々が退避を始める。
「ブースター点火、最大出力。一気に飛ぶぞ。」
「了。出力最大。」
ブースターが火を噴き、一気に機体が加速する。
「テイクオフ。」
タナトスがそう伝えるのと同時に機体が浮かび上がり、飛翔を開始する。
「ははっ!これで物資高速運搬用の試作品とかふざけてるだろ。」
俺がそう叫んでしまうほどの加速力を持っていた。やはり日本人はHENTAIである。
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坊岬沖。
とある艦の艦橋。
「ふふ。私のこの姿での初の実戦投入です。主様は気に入ってくださるでしょうか?きっと気に入ってくださるに決まっています。暗きこの紺青の海に沈んでしまった私を引き上げてくれ、直してくださった主様にはしっかりと役に立つところを見せなくては。」
ここに新たな姿となった『世界最大最強』の狂った艦が海を進む。
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「ブースター出力最低。着水準備よし。」
「切り離し用意!…今!」
「切り離し成功。着水完了。フライトシステム起動。赤城甲板に着艦します。」
ここまでノンストップで飛んできて、30分くらいで高知沖合である。ここで休憩兼装備換装のため20分ほど待つことになる。武士を降りて甲板を歩いていると、前から女性が歩いてきて俺の前で跪く。
「お久しぶりですね、主様。」
「あぁ、久しぶりだな。赤城」
この跪いているのは赤城、この空母の全てを統制するAIのマテリアルボディーである。つまり、赤城そのものである。
「換装するとお聞きしています。装備はどうするので?」
「『花嫁』に換装してくれ。」
「了解しました。あ、休憩するなら艦長室が空いていますがいかがします?」
「いや、甲板を歩いてるよ」
「完了したらお伝えしますので、ごゆるりとお過ごしください。」
久しぶりの赤城の甲板はやはり過ごしやすい。風がわかりやすいし、景色も綺麗だ。ゆったりと歩いてると前から少女と老人が歩いてきた。今回の合同演習はどこかの偉いさんの娘が来ると聞いていたので、その子と解説役兼お目付役だろう。
「あの!すみません。アレは何をしているのでしょうか?」
そう言って俺に武士の換装しているところに指をさして聞いてきた。
「あぁ、あれは装備を換装しているんだ。うちでは規格を全機体ほぼ同じにしてあるからな。どんな装備でも理論上は取り付けできる。」
「ほほぅ。ですがあれは帝国軍の『雷火』の改修機『武士』ではありませんか?」
「あいつはそれを改修した物だからな。」
「そうでしたか。私の時代にはなかった物ですからほとんど同じに見えるのですよ。ましてや、貴方のような歳の『少女』がパイロットとは。時代が変わりましたなぁ」
老人は悲しげに語る。
「そうでもないさ。戦闘機は制空権を取るのに今も必要だし、搭載できる爆薬量もギアはそこまでだからな。」
「貴方がパイロットなのですか!?」
「あぁ、そうだぞ。」
「あまりにもお綺麗なので私以外の演習の見学者かと。貴方も演習に参加されるのですか?」
「いや、任務があるからな、もう行くよ。」
「そうなのですか。もう少しお話をしたかったのですが。」
少女は悲しそうな顔をする。それとは別に老紳士は目を見開く、何か聞いていたようだ。
「いや…まさか…いえ、ご武運を。」
「ああ、ありがとう。」
「主、換装終了いたしました。いつでも問題ありません。」
「了解。」
脱いでいたヘルメットを被り直す。そして、手袋を外し少女に近づいて少ししゃがみ、頭を撫でる。
「また会える、それまで元気でな。」
換装した機体に乗り込む。
「カタパルト、圧力問題無し。いつでも行けます。」
「了解。テイクオフ」
そういうのと同時に射出され、ブースターを点火し空を舞う。
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特殊戦闘装備『花嫁』
多重構造の追加装甲の見た目がウエディングドレスに似ていたことからこの名前がついた、腰部後方に取り付けられた流線形の『大型エンジェルリアクター』と『反重力発生装置』が一体となった装備が特徴的である。多数のブースターとスラスターにより、空中戦闘に特化した装備である。
武装は両手に『ロングレンジ・スラスター・ライフル』を装備しており、これは中・遠距離用レールガン『ロングレンジライフル』の後部にスラスターを取り付け、空中での機動戦闘において推進力を得るのと、小回りが効きやすくするための改造をされた装備である。また、スラスター前部を開くことにより『大型クロー』として射出もできる。
肩部と腰部には『折りたたみ式スラスター・レールキャノン』を装備、これもロングレンジ・スラスター・ライフルのレールキヤノン版である。他には各部にミサイルが多数搭載されているのと、胸部に『35mm機関砲』が2門内蔵されている。
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フィリピン海ダバオ沖合
大日本帝国海軍フィリピン派遣第二艦隊、艦隊司令官『永谷 邦男』中将はため息をついていた。
「私がこの艦隊の司令官の間にこのようなことになろうとは。」
「ため息はいけませんぞ、司令官殿。今回は我々のみで撃沈せよ、という命令ではなく、陸軍の航空隊と共に敵の足止めをし時間稼ぎをせよという命令なのですから。それも山本大臣直々とあっては大変名誉なことですぞ。」
自身の副官である、『長岡 真也』少将は自信満々である。
「しかしだね、本艦隊は旗艦『金城型』高速戦艦、一番艦『金城』と二番艦『白城』以下、空母2、軽空母2、軽巡9、駆逐12からなる、スピードを活かした少数艦隊なのだよ。これで嫌がらせをしろと言われるなら問題ないが、足止めとなると流石に厳しいぞ。」
「いえ、通信では安全圏からの嫌がらせ程度の足止めで問題ないと言われております。それに相手の巡航速度は本艦隊の巡航速度とほぼ変わりないと偵察機隊から報告が上がっています。この条件なら問題ないでしょう。」
「ふむ、それならば我が艦の45口径45式39センチ砲の精度の良さがでるな。」
「45式39センチ砲は最大射程42km、有効射程28kmを誇る国内有数の長射程砲ですからな。」
そんな会話をしていると偵察機から報告が上がってきた。内容は本艦隊より太平洋側に100キロほど離れた場所に敵機が停止しているらしいのだ。
「よし、始めるとしよう。陸軍基地に連絡、我敵機二攻撃セリ。座標も送れよ。全艦に通達、艦隊戦闘用意!」
「了解、艦隊戦闘用意!」
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「攻撃機隊、あと15分で到着します。」
「到着に合わせて空母からも発艦させよ一気に足を止めるぞ。」
「報告!敵機、急速に速度を上げこちらに向かっています。」
艦橋に緊張が走る。
「これでは攻撃機隊を待つことはできなさそうですな。」
「そうだな。空母に伝令、戦闘機全機発艦。それに合わせ艦隊急速転身、距離をとりつつ砲雷撃戦を行う。」
「了解。急速転身、砲雷撃戦用意!」
後方からは敵オブジェクト級ギアが迫ってきている。
「敵機との距離40kmを切ります。」
「金城型戦艦2隻で交互撃ち方。砲撃用意!…撃ち方始め!」
金城が撃ち始めるのと同時に後方で爆発音が聞こえた。砲撃の音ではない、白城とは反対方向だ。
「報告、敵の攻撃により軽巡2が中破、駆逐3空母2が小破、空母は滑走路に命中し航空機運用能力がやられました!」
「なっ!何が起こった。」
「わかりません!それよりも撤退を!」
「最大船速!撤退する。」
再び爆発が起こり、今度は船が揺れる。
「今度はどうした!」
「本艦が被弾、一番砲がやられました!それと、今の攻撃で判明しましたが、敵は高高度に砲弾を発射し、それが空中で炸裂、内部の鉄球が放出され我が艦隊に降り注いでいるものと思われます。」
「それならばなぜ発射炎が捉えられん。」
「わかりません!」
「白城被弾!二番砲と三番砲が沈黙したそうです!」
「くそ!これでは時間稼ぎすらできず沈められるぞ!」
その時
ブロロロロロ
多数のレシプロ機の風切り音が聞こえてくる。
「上空に航空機多数!全て帝国軍機です!」
「援軍か!せっかくきてもらったのに申し訳無いが、撤退の援護を要請しろ!」
「了解!」
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「隊長!永谷艦隊が!」
「くそっ!なんてことだ。敗走状態じゃないか」
航空機隊隊長『春原 林之助』はがらにもなく焦っていた。艦隊副司令官の長岡とは長い付き合いで、艦隊の練度の高さは春原も知っており、時間稼ぎ程度であれば問題なくこなすと予想していたため、この状況は予想外である。
「隊長!艦隊から伝令!我、敵の攻撃により一方的に損害を被っている、この海域を離脱するため援護をされたし。とのことです。」
「敵のどんな攻撃なのかわからないのか?」
「不明のようです。全く発射炎すら捉えられないとのことです。」
春原は少し考える。
「了解した、と返信をしろ。それと、雷撃機隊を先行させ、噴進弾搭載の攻撃機は長距離から狙うようにさせろ!」
「了!」
敵の攻撃がわからないのに、これくらいしかできない自分を不甲斐なく思いながらそう命令する。
「隊長!敵オブジェクト級ギア動き始めたとのことです!」
「ちっ!雷撃機隊はどうなってる!」
「13機が魚雷を発射、1機が対空砲で落とされました!」
ドゴォォォォン
派手な水飛沫が上がりそんな音が響き渡る。魚雷が命中したようだ。
「敵に魚雷2本命中、なっ!敵機なおも増速しつつ、長岡艦隊に向かっています!」
「くそっ!」
「噴進弾搭載機、攻撃を開始しました。」
空に大量の白い尾が引かれる。発射されたミサイルはほとんど迎撃または、はずれて5発ほどしか命中しなかった。しかし、それでもミサイルは副砲や対空砲などを破壊するには十二分な力があった。それでも敵機は止まらない。そして、攻撃機隊には攻撃の選択肢がなくなった。
本来、この攻撃隊は手が空いて部隊であり、味方航空母艦との連携を重視していたため、そこまでの数を用意していない。
「くそっ!艦隊に伝令!我、攻撃機の残弾無し、一度航空基地に帰投する。」
「了解」
苦虫を噛み潰したように言う。
双方、主砲の射程に入ったようで、砲撃戦が始まる。が、砲撃戦の主を担う戦艦の主砲は金城が一機、白城が二機潰されている。敵主砲は30センチほどだと思われるものが九機十八問搭載されている。副砲も多数搭載されており、ハリネズミのようである。
善戦はしているがだんだんと永谷艦隊がボロボロになっていく。
その時、全周波数で無線が流れ出す。無論、今の時代無線傍受をしない軍はいないため、その無線に耳を傾け、発信源を探るために逆探知を始める。しかし、そこから聞こえるのは抜刀隊であった。その曲を聞いた瞬間その場にいた日本帝国軍人は即座に理解した援軍だと。
無線から警報が流れ始める。それは独特な音であり、この音を聞いたことのある者は少なかった。しかし、ここにいるのが日本の兵士である限り、彼らは『知っていた』いや、『知らない』ということはあり得なかった。
これは、日本帝国海軍が世界に誇った、『世界最大最強の戦艦』の砲撃の合図であると。
警報音の中、女性の声が聞こえてくる。
「諸君よく耐えてくれた。後は、この『大和』が引き受けよう。」
発信源の方角を向く、そこには、数年前に坊岬沖で沈んだはずであった黒鉄の城、世界最大最強を誇った『戦艦大和』があった。
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ガーデン社戦闘部隊 通称『国境無き軍隊』
日本支部秘匿兵器
『超大和級大戦艦型オブジェクト級ギア 一番艦 大和』
太平洋戦争終結後すぐにガーデンによって引き上げられ、改修された。その際に主砲から装甲、動力まで全て変更され、見た目程度しか面影はなく、船体も少し大型化されている。
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大和艦橋では少女が不敵な笑みを浮かべていた。この艦橋…否、この大きすぎる戦艦の乗員は、この少女1人である。
「ふふ、主砲、撃ち方始め」
その言葉と共に怒号が響き渡り、砲弾が放たれ敵の左側面装甲を過貫通して通り過ぎる。
「あらら、相手が柔らかすぎましたね。主様が主砲を『51センチ電磁砲』に交換されましたが、やはりオーバースペックですね。HE弾装填…撃て!」
今度は敵左舷装甲を貫通し、爆破する。突如として、敵船の左側の船体が離れていく。普通ならば驚くだろうが、事前に知っており、さほど驚きは無い。
敵船は、メインの大型艦一隻を6隻のサブ艦で囲むように連結し、一隻の船のように運用できるようにしているのである。
「んー、人質がいると聞きましたが私ではどうにもできませんから、主様はまだでしょうか。」
そんなことを呟いていると通信が入った。
「すまない大和、少し遅れた。」
「いえいえ、主様が来られるまで足止めするのが私の役目ですから。」
「そうか、私はこのまま敵機に突っ込む。」
「承知しました、援護いたします。」
「助かるよ」
少しして通信は切れた。その時にはもう大和に搭載されたレーダーと光学望遠鏡により花嫁を捉えていた。
「さて、私の仕事ぶりを見ていただかなくてはいけませんね。ミサイル発射管、1番から3番まで撹乱弾頭ミサイル装填、4番から6番まで通常弾頭ミサイル装填。一斉射。」
船の後部、3番砲の後ろに取り付けられたミサイル発射管から6発のミサイルが発射される。うち3発は敵艦の進路風上で爆発、チャフをばら撒く、残り3発は海面スレスレを飛翔し近づいていく。
それに気づいた敵は対空砲などを駆使し、撃ち落とそうとするが音速を超える高性能ミサイルに当たるはずもなく、チャフ・フレアをばら撒くがそれに阻害されたそぶりも見せずミサイルは突っ込む。
それもそのはずで、ガーデン社戦闘部隊のミサイルは、赤外線イメージ誘導方式をとっている。
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「『大和』撹乱を開始しました。」
タナトスから報告が上がる。それを聞いて『私』は黒い笑みを浮かべながら言う。
「了解。さぁ、始めようか。」
そう言うのと共に機体はさらなる加速を開始する。機体各部が軋み、耳を塞ぎたくなる音が聞こえてくる。
「各部関節など、加速に耐えられていない模様。『フィールド』展開を推奨します。」
「ちっ、しょうがないか。フィールドを展開のちアフターバーナー全開。一気に突入してお姫様を取り返すぞ。」
「了、フィールド展開。アフターバーナー全開、機体加速します。」
機体全体を半透明な膜が覆い、そして、加速を開始する。ぐんぐんと敵機に向かっていく。
「敵、最大射程距離に入りました。」
「了解。」
目の前に表示されたレティクルが敵主砲に合う。それと同時にトリガーを引き、それと同時に両手に持ったロングレンジ・スラスター・ライフルから弾が発射される。
大和の砲にも劣らない音が鳴り響き、敵主砲を一撃で貫徹する。それと同時に花嫁の存在に気づいた敵が手動で対空射撃を行ってくる。しかし、当たることはない。花嫁の圧倒的なスピードに弾が追いつくことは出来ないし、万が一当たったとしてもフィールドにより防がれる。
「ちっ。埒が開かねぇなぁ。副砲と対空砲は全部吹き飛ばしてやる。タナトス!『フルバースト』レディ!」
「了、マルチターゲットロックオンシステム起動。目標敵左舷副砲及び対空砲群。」
ピピピ、と電子音が鳴りレーダー上の敵副砲と対空砲をロックオンしていく。
「…ロックオン完了。『フルバースト』レディ。」
「ファイア!」
「『フルバースト』ファイア」
その言葉と共に機体がホバリングをし始め、レールキャノンが展開され、ロングレンジライフルと共に発射される。それと同時に各部ミサイルも発射され、敵副砲及び対空砲群を一掃し敵機の対空網に穴を作る。
「目標、全て沈黙しました。」
「了解、無理矢理乗り込むぞ。」
花嫁が降下を開始し、敵機に着地する。
「ご武運をマスター。」
そう言ってタナトスは花嫁を操り敵機を離れる。
「さぁ、お姫様を返してもらおうか。」
『戦艦大和』
この世界の大和も坊岬沖で沈んでおり、それはアメリカ側の無理な飛び石作戦の最大の成果と言えた。結果として、アメリカ側は戦闘機120機、攻撃機200機、爆撃機100機撃沈と空母5隻轟沈の大損害を被ったのに対し、日本側は大和が轟沈、戦艦3隻中一隻が大破。重巡5隻中一隻が轟沈、4隻が大破。軽巡12隻中一隻が轟沈、残りは小破。駆逐艦30隻中20隻が轟沈。と言うものだった、この海戦によりアメリカ側は太平洋の空母が全て喪失、世論が講和に傾き、講和が成立した。