5話 母とのキャンプ
ゴーレムの群生する山岳地帯を抜け、俺たちは獲物の豊富な平原に着いていた。
途中までは俺が前を歩き、ゴーレムの相手をしていたが、時間がかかりすぎた。
初戦のゴーレムほどの大物はいなかったが、奴等は本来、その硬さこそが最大のアイデンティティである。
しかも小型のゴーレムは数が多いので、攻略は容易ではない。
質量任せな攻撃が来ない分、気をつけていれば命の危険は少ないが、首筋に体当たりでもされればどうだろうか?
長い戦いで精神力が疲弊し、気による保護が万全でなくなれば?
正直ウンザリだが、俺の実力では無視もできない。
夕暮れ頃にようやく山頂付近。
そこからは母の番だった。
俺は悔しさでいっぱいだったが、母は、初めてでこれだけできれば上出来だと言って、嬉しそうに笑っていた。
その顔はちょっとズルい。
母が認めてくれるなら良いかと思わされてしまう。
結局俺は、預けていたゴーレムの亡骸を受け取って大人しく後ろを付いていくことにした。
これが5分前の出来事。
それから俺たちは無人の野を行くように走り続けた。
俺を数時間に渡って苦しめたゴーレム共も、母からすれば砂埃だ。
ゴーレムの群れの中に、母が通ったあとがくっきりと残る。
俺はその後ろをピッタリとついていけばいい。
森を抜けたときと同じ、車以上の速度で。
多分10km近かったと思うが……流石だな。
そんなこんなで今に至るわけだ。
平原ではサイとイノシシのあいの子のような生物が群れていた。
今日の獲物だ。
狩りは母がやってくれるという。
俺に任せてほしい気持ちはあるが、俺はそれ以上に重要な任務、奴の調理を担当している。
母を見送った後、そそくさと火の準備を始めた。
空に星が輝きだしたころ、俺たちは焼きあがった骨付き肉に、申し訳ばかりの味付けをして頂いていた。
母が獲物をしてめてからさらに一時間ほど経ってしまった。
山に転がっていた石を拾ってきて砕き、即席のナイフにしたのだがやはり切れ味が悪く、手こずってしまった。
俺たちの利用している気というのは、触れているものなら、自身の体と同じく強化することができる。
そのままなら折れていただろうから、曲がりなりにも一通りの下ごしらえができたことを褒めてほしいものだ。
「おいしいねぇ。
ありがとうね、坊や。」
……本当に褒められてしまった。
単に心の中で自画自賛をしていただけだったので、不意打ちにびっくりする。
「そう?
今日は塩しか持ってきてなかったから気を使わなくてもいいよ」
「それでもおいしいものはおいしいのさ。
そうじゃなくちゃわざわざ食べたりしないよ」
動揺して少しそっけなくなってしまったが、母は優しく微笑んで言ってくれた。
嬉しいが、照れてしまう。
照れているのを悟られるのはもっと恥ずかしので、慌ててご飯を口に運ぶ。
「ごちそうさまでした。」
母が少し寂しそうにこちらを見つめていたが、俺は気づくことができなかった。
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目の前で真っ赤になった木が、ぱちぱちと子気味良い音を立ててはじける。
坊やはもう寝てしまったようだ。
私のお腹に体を預けて、すやすやと寝息を立てている。
あまりにも小さくて、愛おしい。
この小さな体を必死に鍛えて、少しでも私に近づこうとする。
それがまた可愛くて、ついつい無茶をいってしまう。
そしていつも、想像以上の結果を出して、私を驚かせるのだ。
嬉しくて嬉しくて仕方がない。
できる事ならばずっと一緒にいたいと思えるほど、坊やは可愛かった。
この子を育てたのは私だ。
赤子の頃からずっと面倒を見て、一緒に過ごして。
……だからこそ、どうしようもなく理解させられる。
私とこの子は違う。
賢いこの子は、私が本当の親じゃないことを理解している。
それでも、本当の母のように慕ってくれるのだ。
その気持ちを、裏切りたくない。
人間の母とは、子供を一番に考えるものだ。
それこそ、自分よりも子供の幸せを優先する。
別れの時はもうそう遠くないだろう。
この子は捨てられたわけではないのだから。
この子の母は私に赤ん坊を預けた時、泣いていた。
全身ボロボロだったが、そんなことはどうでも良いというようにその目にはこの子しか映ってなくて。
預けられた赤子には、傷一つなかった。
だいぶ遅れました。
できる事なら毎日投稿したいものですが、何分見切り発車してしまったもので…
失踪はしないのでご安心ください。