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4話 生きてるだけでは負けなのだそうで

ギュンッ!!

加速する俺の身体。

そのまま全体重を込めたパンチを放つべく、拳を引く。


俺にとって都合のよい距離。

それは、巨体である奴にとっては少し近すぎたようだ。

反撃も無く、懐まで潜り込む。

そのまま奴の4本の脚のうちの一本の前に着地。

その勢いのまま、足の踏ん張りを追加して思いっきり殴る。


ドゴァァア!!


見事に命中し、奴の脚の1本。

その半分が鈍い音を立てて砕け散った。

完璧だ!

全身の力を滞らせることなく、拳から奴の脚に叩き込んだ。

奴の脚は砕けたが、俺の拳は健在。

更には急に支えを一本失った奴の胴体が、少し傾いた。


チャンス!!


すかさず俺は拳を戻し、その勢いも利用して左足を蹴り上げる。

もちろん、気で全力で強化して。

しかし、こちらは先程のようには行かなかった。

上手く奴の胴にヒットはしたものの、本当に小さく表面を砕くにとどまる。


そこでやつが動いた。

体勢が崩れたのが丁度いいと言わんばかりに、砕けた脚で俺を串刺しにしようとしてくる。

まあ、重力に任せるだけの鈍重な攻撃だ。

俺は難なく回避する。


再び距離を取りながら、状況整理。

俺の蹴りは奴に効かなかった。

確かにはじめから予想していたものでは無く、その威力は初撃のパンチには劣るだろう。

しかし、あの脚の感じならヒビくらいは入ったはずだ。

どうやら部位によって強度が変わるらしい。

そしてやはり、スピードは俺の方が数段上、やつの主な攻撃は、自身の質量に頼った単純なもの。


これならいける。

胴体が硬いとは言っても、脚は砕けた。

このまま続けて、身動きを取れなくすればいい。


そうと決まれば、速攻だ。


奴は未だ脚を叩きつけた体勢から、立て直していない。

その隙に俺は先程の要領で、やつの脚をもう一本砕く。

支えを失って倒れてきたやつの体を投げ飛ばし、落下したところに追撃を与え、もう一本。

もう殆ど身動きは取れないだろうが、念の為最後の一本もへし折る。


勝ったな。

もはや奴はもがく事すらできない。

ゴロンところがり、俺がとどめを刺すのを待つばかりだ。

このまま捨て置こうかとも思ったが、奴は未だ俺に敵意を叩きつけてくる。

攻撃の意志だって、少しも緩んでいない。

見過ごされることなど望んでいないだろう。

脚をもがれたまま、何もできずに放置される方が可哀想だ。


覚悟を決め、俺は息を吐き、腰を落として右拳を引く。

左手は前に突き出して、心身を整える。

再度全身を強化して、気合が最高に達した瞬間、全身の筋肉を連動させ、打つ!


俺が放った拳は、ゴーレムの硬い胴体をものともせずめり込み、衝撃で内部から爆散させた。

破片が弾丸のように吹き飛び、ぶつかった岩の表面を砕く。

耳をつんざくような騒音だが、対照的に俺は、静かに物思いにふけっていた。


自然の中で敵と戦い、殺す。

過保護に育てられた俺にとっては、当然初めての経験だ。

さっきまで全力を出してぶつかり合った相手が、突然ただのモノになり下がる。


……どうしようもなく空しい。


戦っているうちにあのゴーレムに愛着でも感じていたのかもしれない。

奴からは敵意は感じても、悪意は感じなかった。

純粋な命のやり取り。

ピンチを切り抜けた時など、どうしようもない興奮に身体が覆われていた。

……楽しかった。

賭け事は代償が大きいほど楽しいという。

戦闘においては、一挙手一投足に命がかかっているのだから、見方によっては最高の賭け事の連続だろう。


ああ、あのゴーレムが与えてくれた時間が愛おしい。

このまま、あの興奮を忘れてしまうのがもったいない。

できる事なら誰かと分かち合い、咀嚼したい。

だがそれは、戦闘の中で同じ時間を共有した、あのゴーレムとしかできないことだ。


ガスンッ!


突然、後ろから鈍い音がした。

振り返ってみると、母が立っていた。

回り込んでみてみると、その手には俺の頭ほどの岩が握られていて、今にも握りつぶさんとしていた。


「ストップ!ストーッップ!!」


慌てて声をかけると、母はきょとんとしている。

しかし、とりあえず力を込めるのはやめてくれた。

良かった。

とりあえず話を聞こう。


「それ、さっきの?」

「そう。

頭の部分。

こっちが本体」

「へぇー。

砕けてなかったんだ」

「直前に脱出してた。

それに、硬いから直撃じゃないと」


どうやら止めを刺し損ねていたようだ。

ふがいない


「それで、なんで握ってるの?」

「こいつお前に突進してたよ?

油断してたところに喰らったら危ない」


おっと、しかも攻撃に気づいてなかったようだ。

そのうえ母には油断していたのがバレている。

恥ずかしい。

完全に勝った気でいた。


「喰らったら、どうなってた?」


言いづらそうに、母は答える。


「……死」

「そっかぁ。

ごめん」


自分が死にかけていたと聞いても恐怖はない。

母がそれを見過ごすことは無いからだ。

ちょうど今のように。

ただただ、ふがいない。


「それ、もらっていい?」

「いいけど、もう動かない」


母はだまって、もはやただの岩になったゴーレムを手渡してくれる。

どうやら、自身を強化していた気すら推進力にして突進してきたらしい。

もはやこれはただの岩、言ってしまえばこれは屍なわけだ。

何の価値もない、砕いて捨てても問題ない代物。

だが。

母がいなければ俺は死んでいた。

この勝負の勝者はこいつだ。

捨てておく気にはなれなかった。

俺はこの亡骸を持って帰ることにした。

少し遅れましたね。

5話も数日空きそうです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦闘シーン楽しそうだった。 [一言] シュジンコウヘノ コウカンドガ アガッタ! ......何の脈絡もない推察ですが、ゴーレム君ヒロインルートありゅ?
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