3話 キャッチボールは親子の嗜みです
そういえば母ゴリラの身長書いてなかった気がしますが、約5mです。
頭上に迫る、まるで小さな山のような影
一体どれだけの質量があるか想像もできないが、普通の人間ならぺしゃんこになって即死。
それくらいは嫌でもわかるだろう。
気で強化している俺だって、耐えられるかどうかは分からない。
だって試したことないし、試したいと思わないでしょ!普通。
てなわけで回避一択。
俺は全力で走る。
でかいという事は単純に攻撃範囲も広いという事だ。
一応、回避だけなら問題なさそうだが……
ドゴォォォン
さっき飛びのいたせいで近くに母がいた。
土埃が巻き上がってよく見えないが、あれは完全に下敷きになったな。
心配はしていない。
以前にも話したが、むかし母は10メートルはあろうかというドラゴンを軽くひねっていた。
この程度のことで傷を負うほどやわではない。
その証拠に、ゴーレムは動かない……というか動けないのだろう。
ジタバタともがく脚は虚しく空を切っている。
土埃が晴れた。
そして露になる、一人でゴーレムの巨体を支える母の姿。
しかも、がっしりとつかんで逃げられないようにしている。
そのまま俺に対して、続けるかいなかを目で問うてくる。
ここで辞めるわけがない!
俺は不退転の意志を込めて、力強くうなづいた。
母はにっこりと笑い、つかんでいたゴーレムをこちらに向けて投げ渡してきた。
それはまるで子供とキャッチボールをするときのように、山なりの優しい軌道を描いている……
しかし、飛んでくるのはボールではなく、小山のような巨体だ。
質量が全然優しくない。
慌てて回避をしようとするが、直前の母の笑顔を思い出してしまう。
……まさか、本当にキャッチボール感覚なのではないか?
チラリと確認してみると、母はニコニコと俺の様子を眺めていた。
うお。これは受け止めねばなるまい。
先ほども言ったが、俺は強化状態においてどこまでがセーフなのか理解していない。
しかし、母は大丈夫だと思っているんだろう。
自分で言うのもなんだが、俺は相当大事にされている。
幼児の頃なんて、ずっと肌身話さず抱かれていたほどだ。
無理難題を押し付けられたことなど一度もない。
ならば、今回も大丈夫なはずだ。
俺は母を信用する。
俺の意思に反応して、体に力が溢れた。
腹の底から沸きあがり、全身を覆う。
著しく身体能力が向上したようだ。
もちろん肉体の強度も。
気による強化状態。
これならいける……はずだ!!
頭上に迫る小さな山のような巨体。
先ほどと同じような状況だな。
だけど今度は逃げない。
俺は足に踏ん張りを利かせ、両手を高く掲げて受け止める体制を整えた。
さあ、来い!
ドゴォォォン
想像以上の衝撃が、俺の腕から肩、胴、脚を伝って地面へと走り抜ける。
思わず膝が曲がり、上体も倒れ、体勢が不安定になった。
このまま潰されるかもしれない。
一瞬、そんな弱気な思考が浮かぶ。
これは死に対する、本能的な恐怖なのだ。
そう簡単に消せはしないし、消して良いものでもない。
だが、今気持ちで負けてはそれこそぺしゃんこだ。
逃げられないときもある。
戦わなくては!
気合を入れ直した俺は歯を食いしばり、俺を押し潰そうとするゴーレムの巨体を、力技で押し返す。時間にすれば数秒にも満たない出来事だ。
土埃が晴れる。
俺は、潰されることなく、ゴーレムの体を支える事ができていた。
思わず息を吐く。
死の恐怖からの開放と安堵、ピンチを切り抜けた自分への誇りと喜び、いろんな感情がないまぜになって、どうしようもなく興奮している。
今は母と向き合う形になっていたので、その様子がよく見えた。
俺の無事を確認するなり、両手を叩きながら小躍りする勢いで喜んでいる。
息子の、俺の成長が本気で嬉しいのだろう……照れる。
俺は少しはにかみながら、頭上の巨体を確認し、そして両手にぐいっと力を込め、その辺に放り投げた。
さあ、ここからが本番だ。
ゴーレムは投げられたあと、即座に立ち上がったが、仕掛けてはこない。
敵意はビシビシと伝わってくるので、単に警戒しているだけだろう。
そもそも、奴ら本来の持ち味は、その見た目通りの硬さだ。
いや、正確にはただの岩と違って自身を強化していて、見た目以上に硬い。
その癖、どちらかが倒れるまで戦闘を続行しようとするものだから、物凄くたちが悪いのだ。
まだ奴に動きはない。
俺も仕掛けない。
なにしろ俺は、攻撃されたのが初めての経験だ。
ダメージがないか、慎重に自分の感覚と、現実とのギャップを埋めていきたい。
確かめたところ、体は問題なく動くし、関節や、直接衝撃を受け止めた両腕にも、異常はなかった。
どうやら俺も相当頑丈らしい。
ビビって損した。
気が緩みそうになるが、今は戦闘中だ、改めて目の前の巨体に集中する。
こうなると、問題は俺の攻撃がやつに通じるかだが、どうだろうな?
俺の最強の一撃は、前に母に見せた正拳突きだ。
あれは溜めがあるので、まだ使いたくない。
まずは様子見か?
俺は近場を見回し、自分の頭ほどの岩を手にとって、全力で投げつけてみた。
そこそこの威力だったと思うが、奴の強固な体に簡単に弾かれてしまう。
ぶつかった岩の方が砕けちる始末だ。
そりゃそうか。
さっき自分で言ったように、ゴーレムは岩の体をさらに頑丈に強化している。
その効果は相当なものなのだろう。
このままでは埒が明かないな。
突っ込んでみるか?
奴はまだ動かない。
いや……ジリジリと近づいてきてはいるのか?どちらにせよ、積極的に追い立ててこないのなら、スピードには自信がないのだろう。
罠の可能性もあるが、そこまでの知能があるようには見えないし、何より、母と戦った個体たちは皆、母の攻撃を避けることはなかった。
俺ならギリ避けれる速度でも、だ。
冒頭にジャンプはしてきたが、あれが全力ならスピードはたかが知れている。
問題ない。
俺は不意打ちを狙い、こっそりと身構える。
そして、奴が助走に最適な距離まで近づいた瞬間、勢いよく飛び出した。
主人公の俺君はまだ成長途中で、身長160cmほど。