2話 初めての実戦だ!!
さてさて、前回の少し後。
石鍋がコトコトと音を立て、薄暗い中にシチューの優しい香りが辺りに広がる。
具材は鹿っぽい魔獣の肉と、水辺に生えていた薬草。
調味料は少ないが、さいわい近くの山から岩塩を削りだせていた。
じっくりと煮込めば、肉からまろやかな出汁がでて基礎を作り、薬草がさわやかなアクセントを加え、岩塩は全体を引き締める。
木で作った器によそい、同じく木で作ったスプーンを用意すれば、雰囲気も出て最高だ。
今日も最高の出来だと自負できるが、肉がなくなってしまった。
恐らくはこの食事のあと、俺は母と狩りに出ることになるだろう。
まあ、狩りに出ると言っても俺が手を出すことはない。
まだ母の技を見せてもらっている段階だ。
それでも貴重な経験に変わりはないので、今から身が引き締まる思いだ。
丁寧にシチューをよそった器を母に差し出す。
母はそれを両手で受け取り、嬉しそうにほおばっている。
俺も自分の分を手に取って母に話しかける。
「母さん、お肉きれちゃったよ。今日は狩りをしなきゃだね。」
母は自慢気に張った胸をとんとんと叩き、任せろって顔をしている。
正直、今日こそ俺に任せてくれないか頼もうと思っていたが、この様子では無理そうだな。
しかし、目の前の母の様子は息子の目から見てもほほえましいものだ。
おとなしくついていくことにしよう。
たくさんあったシチューもすっかり食べ終え、日もすっかり昇っている。
さあ、狩りに出発だ!
ぽかぽかとした陽気の中、車なんかより圧倒的に速い速度で森の中を突っ切る。
何度も通ってけもの道になっているとはいえ、時折大きく育って邪魔な枝などはあるのだが、先行する母には小枝も同然であり、気にも留めずに弾き飛ばして進む。
おかげで、後ろをついていく俺はただ走るだけで良い。
だが、さっきも言った通りかなり速度が出ているため、ついていけるようになったのは実は最近である。
成長期を迎えて、体が完成されてきたのだ。
母は俺を一人にさせたがらないので、小さな頃も狩りには連れて行ってくれた。
そのころは母の手に抱かれていたのが、自分で走らせてくれるようになり、今ではついていくだけならピクニック気分。
自分の成長に酔いしれていると、周りの景色が一変した。
大きな岩山だ。
富士山ほどはあろうかという威容を誇るが、木が一本も生えていない。
俺と母が住んでいるあたりは、大きな三日月形の山脈に抱かれるように位置しており、緑豊かだが動物や魔獣は少ない。
獲物となる生物は山脈の向こうに多く生息しているのだ。
というわけで、この山を越えていこうというわけだ。
もちろん、山を越えずに回り道することもできるが、2~3日はかかる。
山越えルートなら日帰りで済むので、最近はこちらのルートしか使わない。
「ここからはお前が前を歩きなさい」
俺は母が何を言ったのかすぐには理解できず、ぽかんとしてしまった。
だが、すぐに我に返り、飛び跳ねながら念のため聞き返す。
「いいの!?てっきり今日も見るだけかと思った!」
母は優しい笑みを浮かべて力強くうなづき、道を開けてくれた。
俺はすかさず前に出て、軽く準備運動をする。
せっかく俺を信用してくれたのだ、失敗はしたくない。
喜びのあまり心臓が高鳴っているが、落ち着かなくては。
この山は一見すると何もない。
木も生えていないし、生物の気配など皆無だ。
しかし、じつはそれは間違いである。
周囲にあふれる大小さまざまな岩。
この中に魔物化しているもの、いわゆるゴーレムがまぎれている。
さらには地中にも同じ奴がいて、頭の上を通ると奇襲を仕掛けてくる。
たぶん縄張り意識があるのだろう。
だから、集中する。
自分の意識が体を超えて、広がっていくようなイメージ。
その中で異物のように反応する奴を探すのだ。
見つけた。
10メートルほど前の岩。
俺の腰ほどのサイズの丸っこい岩だ。
距離があるからか、まだ活性化していなくて分かりずらいが、こいつは恐らくそう。
他にいないか周囲を探しながら、慎重に距離を詰める。
こういうただの丸っこい形のゴーレムは動きが単調だ。
攻撃方法は主に突進。
無防備に喰らえば骨折くらいはするだろうが、気で強化した状態なら問題なく受け止められる。
ところが
あと3メートルほどという位置で、急に目の前のやつから攻撃の意志を感じた。
同時に背筋に寒気が走る。
ヤバイ!
直感に従って後ろに飛びのくと、俺がさっきまでいた位置、その下から大きな岩が俺の身長ほどまで飛び出してきた。
当たっていたら不味かった。
死んだりはしないが、確実にダメージは受ける。
足を骨折でもしたら目も当てられない。
再び距離を取り、これ以上の不意打ちを避けるためにも観察の構えに入ると、敵が動き出した。
先ほど飛び出してきたのと同じくらいの岩が他に四つ。
次々と飛び出すと、器用に動き、全体が地上に現れた。
……どうやら俺は、奴の頭の部分だけを見て、一体のゴーレムだと思っていたようだ。
はじめの1メートルほどの丸い岩の下に、同じ形をした5メートルほどの巨大な岩があり、側面の四方向に足となる少し細長い4メートルほどの岩がついている。
全体で身長7~8メートルほどの巨体。
不格好な雪だるまに足を付けたような奇妙な見た目は、可愛くも思えるが、激しい敵意を叩きつけてくる……
正直、ここまで巨体に成長している奴は、母の後ろから見ていた時もあまり遭遇していない。
不意打ちで焦らされもした。
しかし、もう気持ちは立て直している。
さて、どう立ち回るかと思案していると、ゴーレムが突然ジャンプした。
身長の倍以上の高さまで飛び、俺の頭の上へ。
そのまま圧倒的な質量に任せて押しつぶすつもりのようだ。
前言撤回だな。これのどこが可愛いんだ!!!
周辺地形とかは後々影響を与えかねないので時間かかりました。