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脳筋プリンス

 僕は国外育ちなので今までよく知らなかったが、尚武の国風であるヒューベル王国では伝統的に王族も武勇が尊ばれ、王族が各種の騎士団の重要ポストにつくことは珍しくないらしい。

 とはいえ、精鋭中の精鋭たる王都直衛騎士団の団長というと、さすがにお飾りというわけにはいかない。

 フルプレさん改めローレンス王子は、それを認めさせる実力を示して就任したわけだ。

 ……王族、というか城内では「冒険者フルプレート」がローレンス王子であることは周知の事実であり、彼が冒険者として目立った功績を挙げるたびに名目のはっきりしない祝宴(おおっぴらに言うわけにはいかないので)が開かれていたとかなんとか。

「騎士団の方は団長が何年も不在で大丈夫だったんですか」

「うむ。団長こそは団内最強の旗印、運営の細かい差配は副団長がやるものだからな。式典や交流試合の際に団長不在を訝しむ者もあったようだが、ま、どうにか誤魔化せたとのことだ」

 ……そういうもんなのか。

 いや、この王子に合わせて火霊騎士団がそういう体制にしただけなのかもしれないけど。

「国民には知らされなんだが、吾輩の帰還と共に軍部内には『フルプレート』の正体は打ち明けられた。腰の重い騎士団を離れ、身分を隠しての徳行……無茶が過ぎると諫められはしたが、まあこうして五体無事に戻ったのだから、文句は言わせん」

「マード爺さんがいなかったらお前とっくに死んでたけどな」

「だよなー。それも十回は」

「その縁と強運も吾輩の人徳だ!」

『絶対(ちげ)ぇ』

 アーバインさんとユーカさんは声を揃えた。

「えーっと……つまりこの人強いんです? そうでもないんです?」

 ファーニィが恐る恐るローレンス王子を指さして尋ねると、アーバインさんとユーカさんは非常に複雑な顔をしつつ。

「……まあ、強いか弱いかで言うなら、強い」

「アタシほどじゃねーけど強い」

 渋々と実力は認める。

「以前ならいざ知らず、今のユーカにそう言われるのは心外だ」

 不満そうな王子。

 いやそこは話が進まないから流しましょうよ。

「こいつは見ての通りの筋肉馬鹿だが、頑丈さは図抜けてる。こないだマードが強引に引き受けてた雷撃とか、こいつなら無視する」

「無視!? っていうかフルプレートっていうからには全身鎧(フルプレート)着て受けるんですよね!? 黒焦げになりません!?」

「ああ。……むしろこいつの場合、鎧さえ着てれば熱だろうが電撃だろうがだいたいの物を『跳ね返す』んだ。アインが魔力を武器に込めるだろ。あれを鎧全体にやる」

「……そういう使い方できるんだ」

 僕にとっては目から鱗だった。

 手持ちのものにしか込めたことがないが、言われてみれば鎧も「受け止める」という単一目的を持った「媒体」だ。

 そこに魔力を注ぐ感覚さえ掴めば、その全体を魔力で覆い、魔術の干渉を拒絶する……という使い方もできるのか。

「いや、普通はしねえ。鎧ったって部品が多すぎる。一つ一つは大した消費じゃなくても、全身で数十以上もあるものに魔力を注いだまま動くのは馬鹿にならないし無駄が多すぎる。そう長くは保てねーんだ」

「……でもやるんだよね」

「こいつなー。本人の魔力量がメチャクチャ多いんだわ。魔術師のリリーやクリス(エロガキ)よりずっと多い。前に専用の魔導具で計ったら二人足したのより多かったはず」

「えぇ……」

 なんだそれ。

 後から強化しづらい要素なので、魔術師だからといって魔力量が多いとは限らないものだが、それでも一流冒険者となると魔術を連発するべき場面は増えてくる。必然的にそこまでいく魔術師は魔力豊富な場合が多い。

 それなのに、超一流とも言われる魔術師を二人まとめたのより多いって。

 ……この人もまた、マード翁に負けず劣らずの稀代の怪物ということか。

「だからこいつの真似はあんまりすんな。やろうとしてもまずできない」

「ふっ。天才ゆえの孤独というものだ」

 髪を掻き上げているローレンス王子。

「まあ、でも欠点はあるぞ。鎧強化に全振りした代償……というか多分不器用なだけなんだけど、武器に魔力を込めんの超ヘタクソ」

「無用なだけだ」

「鎧脱げるとすぐ死にかけるじゃん。解散前の多頭龍(ヒュドラ)の時みたいに」

「あの時は死にかけてはいなかったぞ!? すぐ撤退したからな!」

 そっかー……酸が弱点かー……。

 いや、ふつうそんなのに強い人いないけど。

 僕だって強酸吹きかけられたらまず耐えられないし、武器にそれをやられたらすぐピンチになる。

 とはいえ、僕を基準にする方が間違っているのだろう。このレベルの話では。

 ニヤニヤしながらアーバインさんもつつく。

「フルプレが死にそうになったのだいたい酸だったよね。あと持久戦」

「吾輩が持久戦になるほど手ごわい相手などそうそういなかったではないか」

「たまにいたじゃん。年に二回ぐらい魔力切れでガン逃げしてたじゃん」

「それをあげつらうなら貴様らとて!!」

 強い口調で口論に入りかけて、僕とファーニィの視線を気にして咳払いをするローレンス王子。

「ま、まあ誰しも苦手はある。当然のことだ」

 なんとか取り繕う。

 そして改めて僕に顔を向けて。

「それにしても、ゼメカイトで見た時からさほど強者の風格が身についたとも思われん……それなのにあの水霊のラングラフと、一合なりともやり合えたというのは信じがたいな、小僧」

「まあ……かなり怪しかったのは事実ですよ。結局ユーカさんの横入りがなければやられてたと思います」

 僕は努めて冷静に肯定する。

 多少「ユーカさんに鍛えられたので」と強がってみたい気持ちもなくはないが、実際もう一撃飛んで来たらなすすべもなかった。

 あれともっとまともな勝負をするためには、何を身につけたらいいのか、それさえもわからない。

「フルプレさんは……ローレンス王子は、彼に勝てますか」

「……当然、と言いたいところだが……状況次第ではあるな。奴の剣は重い。吾輩の鎧装強化でも、あまり幾度もは耐えられんだろう」

 重々しく言うローレンス王子に、ユーカさんは溜め息。

「だーからなんで真正面からもらってやる前提で話すかね、男どもは。無法の賞金首にそんな礼儀いらねーっつーの」

「それも真理ではあるな」

 あ、それ肯定するんだ……って、やっぱり彼も冒険者としてしっかり戦った経験があるんだから当然か。

 騎士道なんていうのは騎士の理屈で、冒険者が相手するものはモンスターにしろ人間にしろ、その名誉を云々する範疇ではない。

「メガネを直したとして、どう立ち向かう気なのだ。どうさせる気なのだ、ユーカ」

「ウチのアインは天才だ。勝つ気になりゃ勝つさ」

 ユーカさんはきっぱりとそう言ってから、僕の肩にポン、と手を伸ばして置き。

「せっかくだ。メガネ直したらちょいと稽古つけてくれよ。今のアタシじゃアインに度胸付けるには迫力足りねーからさ」

「……昔の貴様なら本当に迫力で負ける相手はいなかったのだがな」

「うっせ。女にそれは誉め言葉じゃねーぞ」

「吾輩としては最大の賛辞なのだが」

 ちょっとだけセンチメンタルな顔をして、それからローレンス王子は居住まいを正し。

「よかろう。この火霊騎士団長たる吾輩の剣を受けられることを光栄に思え。ついて来い」

 ツカツカツカ、と出ていく。

 うっかりついていきそうになったが、ユーカさんが僕の肩に置いた手をグッと押し下げて引き留める。

 ……しばらくして王子は戻ってきた。

「ついて来いと言ったが」

「メガネ直したらっつったよな? 今こいつお前の顔も多分見えてねーのに何させる気だ、バカかお前は」

「や、奴が待っていてくれるとは限らぬだろう! だったらメガネなどに頼らず戦う術をだな!?」

「くだらねー誤魔化し方すんな! そんなに暇なら茶菓子でも運んで来い!」

「酒もなー」

「貴様ら客としてもう少し謙虚になれんか!」

「有無を言わさず連れてきたのお前だろーが! 責任もって歓待すんのが筋だろーが!」

「そーだそーだ!」

 僕はファーニィと顔を見合わせて、とりあえず座ることにした。彼らの言い合いには乗っていけそうにないし。


 その日はそのまま王城で泊まることになり、薄汚い旅装束で入るのがもったいない超ふかふかベッドを前にして、どうやって寝たものかとしばらく悩むことになった。

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