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決戦に急げ

 火葬は三日ほどで終わった。魔術師が多いパーティでよかった。

 ファーニィとリノだけじゃなく、僕やジェニファーも頑張ったしね。ジェニファーは魔導書をリノと共有してたから、魔術使うのはリノが寝てる間だけだったけど。

 一応レリクセン家にも火炎の魔導書は複数あったのだけど、どうも根本的に系統の違う魔導書だったようで、リノがしばらく読んで「無理」と投げてしまった。

「これに手が慣れちゃうと前のを使う時につっかえて困ると思う。というか構文が気持ち悪くて嫌。これなら前の魔導書を参考にして魔導具イチから作った方がマシ」

「構文が気持ち悪いってのがよくわからない……」

「例えば、変なところをすっ飛ばしといてフォローが凄い後から来るのよ。こういうことすると、途中で詠唱中断した場合にめちゃくちゃ危ないの。魔導書だからまあ途中でストップすることはまずないんだけど、口頭詠唱だとこういう呪文構築したらトチッた時死ぬわ。そういう雑なやり口が端々に見えて嫌」

 リノがそう言い捨てたところで、ファーニィはジト目で。

「それだけ寸評できるんなら、ファイヤーボールくらい暗唱したら?」

「……」

 リノは聞こえないふりをしていた。

 うん。それぐらい余裕でできそうな上から目線に聞こえたよね。僕には理屈よく分からないけど。


 焼き終えた骨はまとめて埋める。

 しっかり焼いた骨はもう繋がりようがないほどボロボロのバラバラなので、アンデッドになることもない。

 それでも数十体分というのはなかなかの量で、穴掘りは大変だった。

 骨自体は(みんなあんまり触りたくなかったのもあり)リノが浮遊させて運んだので、そんなに手はかからなかったのだけど、固まってる地面を重量物浮遊の魔術で掘り起こすってわけにはいかないからなー。

 僕の魔力剣技で地面に穴をあけるのは、穴を作るのはいいけど、土が野放図に飛び散って埋め戻しが難しいし。

 結局、前衛組とジェニファーで手掘り。一応、家の園丁の作業小屋からスコップが充分な数出てきたのは助かった。

 人間用のスコップで作業するジェニファーの姿はちょっと面白かった。まあ墓掘りなんで面白がってもいられないのだけど。


 で、最終的に墓標代わりに丸太を一本突き立てて、終わり。

「レリクセン一族ここに眠る、とでも書くか?」

「そんな取り澄ました飾りはいらねーよ。どこに埋めたか、わかるようにしただけだ」

 アテナさんにはそう答えて。

 ユーカはその丸太を、感情のわからない顔でしばらく見上げ。

 少しだけ目を閉じてから、くるりと背を向ける。

「行くぞアイン。……話を終わらせようぜ。アイツをほっといたままじゃ、安心して次には行けねえ」

「そうだね」

 メガネを押して、気持ちをユーカに合わせる。

「場所はわかる?」

「ロゼッタに聞いてる。東だよ。国境に近いが、ジェニファーなら三日はかからねえはずだ」

「地図とかあればいいんだけどね」

「あってもどうだかな。地図を正しく読むってのは結構高等技術らしいぜ?」

「……なのかなあ」

 まあ、僕も本当にカッチリした地図を使ったことはないしな。

 モノ自体はたまに有力冒険者が持ってるのを見たことがあるけれど、なんだか線だらけだったし、確かに読むのに技術というか知識は必要かもしれない。

「まあ、近くまで行けばロゼッタが誘導してくれるだろ。多分」

「だいぶ希望的観測に頼るなあ」

「情報源がアイツなんだから他にどうしようもねーだろ。それともそこらで『邪神のいるダンジョン知りませんか』とか聞き回るか?」

「……それは無理だね」

 ダンジョンのことなんて一般人はロクに知る機会はない。親玉(ボス)のことなんてなおさらだ。

 どうせ踏み込めば死の世界。低難度でさえ、生き残るのは経験を積んだ冒険者でないと難しいのだから。

 そしてその冒険者でも、どこに何がいるか詳しく知っているのはそう多くはない。

 カタログを作ってくれる誰かがいるわけでもない、完全に個人の経験だけがものをいう領域だ。各ダンジョンの知識をまともに共有しているのは、それこそデルトールやゼメカイト周辺くらいだろう。

 となると……ユーカの行き当たりばったりに乗るしかない、か。

「通り過ぎちゃうとかは避けたいな……いいタイミングで落ち合えたらいいんだけど」

「大丈夫だって。ロゼッタだし」

「ロゼッタさんだって無理なことはあるよ。千里眼を誤魔化す技術だって作られちゃったくらいなんだし、どう妨害されるやら」

「心配ばっかしててもしょーがねーだろ? それに決着は向こうだって望んでることのはずだ」

 空飛ぶ絨毯を展開し、魔力を込めて浮かせて、移動準備。

 その最中だった。

「ユーカ様!!」

 ロゼッタさんが、常にないほど焦った様子で駆けつけてきたのは。

「あん? ちょうどよかった。これからアタシら……」

「お急ぎを!! まずいことが……リリエイラ様が、ことの概要を嗅ぎつけてしまったようです!」

「あ?」

「あの方のことです……ユーカ様のお手を汚させまいとするでしょう。リリエイラ様お一人での移動速度はジェニファー様を凌駕します。先にお一人でトーマ様に挑んでしまうかもしれません!」

「……そこまでわかっててなんともなんねーのかよ!」

「千里眼では音は聞けません。先ほどゼメカイトに一度戻った際に、このことを偶然知ったのです。眼では追跡はできてもそれ以上は何もできません」

「チッ……リノ! ジェニファーにちょい無理させる!」

「いける、ジェニファー!?」

「ガウ!!」

「いけそう! ……だよねリーダー?」

「僕じゃなくてもやる気の度合いはわかるよね?」

 リノは最近ジェニファーへの理解に自信を無くしているようだ。僕と意志疎通度を比べてしまうらしい。

 いや、ホントそこはジェニファーも解釈難しい反応してないんだし、信用してあげよう。

「今回はロゼッタも乗れ! お前が戦うわけにゃいかないだろうが、道に迷ってる暇はねえ!」

「かしこまりました」

「全員すぐに荷物まとめろ! ある程度はもうここに置いてってもいい! どうせ物盗りだって魔術師の家に入る命知らずはそうそういねえ!」

「まあ……あんなだしね……」

 館の中の血の跡はまだそのままだ。知らずに入ったら本当に怖いだろうな。

 ……知ってても怖いか。


 とはいえ、元々僕たちだって移り住みに来たわけでもない。持って動けないようなものはない。

 ほどなく準備は整い、僕たちはジェニファーの牽引で勢いよく出発する。

 道に迷う心配がなくなったのは本当にありがたいが。

「でもロゼッタさんなら『歪み』を利用した移動でいくらでも先回りとかできそうだけどな」

「あれもとても便利なのですが、皆さんが思うほどには完全ではないのです。どこにでも『空間の歪み』があるものではありませんし、狙った場所に近い歪みを探し当てるのも時間のかかる作業です。ピタリと狙った場所に出られることはまずないので、いつも10キロ20キロ程度の誤差は歩いて移動していますし」

「……そうだったんだ」

 道のある場所の20キロなら半日あればなんとかなるけれど、ない場所なら1キロにそれくらいかかることもある。

 一瞬で移動してしまえる割には時間食うなあ、と思ってはいたが、やはり結構使い勝手に問題がある移動方法だ。

「性質上、特に移動する相手の追跡には甚だ向きません。それに運よく声がかけられたとして、私が何を申し上げたらリリエイラ様を止められましょう」

「……まあ、アイツも思い込むと結構やべーからな……」

 ユーカは苦い顔をする。

 確かに、あのパーティでもブレなさ加減は随一かもしれない。

 アーバインさんも頑固ではあるけど、黙っていた中でも結構迷いとかは感じられたからなぁ。

「で、どうだ? 先回りはできそうか?」

「……難しいところです。お互い不眠不休というわけにはいかないので単純には比べられないのですが……」

「くそ。なんとか一声かける手段があれば……一緒に戦うんならアイツほど頼もしい奴もいないのに」

「……ねえユー。この戦いが終わったら……」

「いきなり死のまじない(デスフラグ)しようとすんなリノ」

「な、何それ。いやあのね、私正直ちゃんと冒険魔術師としてやっていきたいし、リリエイラさんに弟子入りとかできないかなって思ってるだけなんだけど……ユーから口利きしてくれない? 駄目?」

「そんな知らん間柄でもねーだろ? っていうか弟子入りしてどうすんだよ。超記憶力ブン回すアイツこそアイン並みに真似できねー化け物だぞ?」

「それは……そういう人だからこそ冒険者としての最適解みたいなやつとかあるんじゃないかなって……」

「そんなんよりまずオメーはファイヤーボールくらいちゃんと覚えろな」

 でも憧れてしまう気持ちはよく分かる。

 冒険者なら誰もが憧れる超一流だもんな。しかも美人で仲間思いで、家柄の助けもないのに若くしてその評判だ。

 真似できなくても学ぶところはありそうに思える。

「ファーニィはうまくマードのいいところ取り込めたけど、アタシらはみんな真似できるならしてみろやって奴ばっかりだったからな。正直マジメに努力する方が大事だと思うぜ。……まあ、知りたい魔術があれば何でも教えてくれそうではあるけどな」

 覚えられなきゃ意味がない。

 となると結局コツコツ魔術を覚えて使いこなすべきだよね、と話が戻っていく。


 何度か休憩と睡眠を挟んで、三日目の朝。

 僕たちは朝食もそこそこに絨毯に飛び乗る。

 が、ロゼッタさんは乗らずに、深刻な顔をしていた。

「ロゼッタ?」

「…………」

 僕たちは顔を見合わせる。

 ややあって、ロゼッタさんは。


「……間に合いません、でした」


 絞り出すように、そう言った。

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