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交錯する殺意

「みんな揃って目を光らせて、ユニフォームかなんかのつもりか?」

 ユーカさんは、薄紫の光が不気味に宿る一団を鼻で笑った。

「もしもソイツをここで出すような代物だと思ってるなら、コケ脅しにしても締まらねーぞ、兄貴よ?」

「……ユーカ」

「テメーの時代だ、って吹き上がるのは大いに結構。古い魔術師の時代が終わる、ってのも好きにしやがれとしか言えねー。どーせアタシにゃ関係ねーんだ。だが」

 ユーカさんが喋り終わる前に。

 僕とアテナさんは、呼吸を合わせて踏み込んでいた。

 僕は「雷迅」を引き抜いて、一体の「邪神もどき」を。

 アテナさんはそれ以外の敵が僕に向かわないよう、剣を横に広げて突進する。

「『邪神もどき(そいつら)』は潰す……!」

 そして、僕は遠慮なく「パワーストライク」で……この「雷迅」ではそれでも遠当てになってしまう斬撃で、斬る。

 幾度かゼメカイトから戻る道中に試した結果、この斬撃は「オーバースラッシュ」の魔力で形成する斬撃とは違うモノだというのがわかっていた。

「オーバースラッシュ」は、いわば水鉄砲だ。刀身から放った魔力がそのまま叩きつけられる。焦点における集中度とか、魔力の発射速度とか、そういったものが威力と射程に直結している。

 だが、どうも「雷迅」における「パワーストライク」は、魔力が実際には飛んでいない。

 どういうことかといえば、刀の切れ味があまりにも向上し過ぎているだけらしい。ただ「すごくスパッと斬れ過ぎる」というだけの効果が前方に伝播している。

 一見すると「だから何が違うんだ」としか言えない話なのだが。

「ぬぁっ……!?」

 この斬撃は、魔力を込めようが不可視の盾を形成しようが、防げない。

「オーバースラッシュ」や「バスタースラッシュ」は、つまるところ魔力の単純投射だから、シンプルに魔力で固めれば相殺、ないしは軽減できる。

 だけど「雷迅」+「パワーストライク」はそうじゃない。ただの魔力同士の干渉ではないので、とっさの防御程度では容易に貫通し、斬れてしまう。

「ものすごくスパッと斬れる」という概念に対抗できるような「ものすごく硬い盾」など、魔術的に充分に単機能特化した代物を使えば理屈の上では止まるのだが、そういう物は普通用意しないし、それに魔力をしっかり込めて使いこなすこともできない。

 結果として、一人目の「邪神もどき」は見事に真っ二つ。

 こいつらは元々異常な再生力があるので、真っ二つ程度なら当然、再生して動くだけの余裕があるのだが……僕としても一撃で終わらせなきゃいけない必然があるわけでもなく。

 十字に斬り、魚の骨のように斬り、そして散らばって再生に専念する以外に何もできなくなった肉片に、手をかざす。

 再生のリソースを、奪う。まともな戦闘行動ができない奴には当然抵抗もできやしない。

 その身に宿る膨大な魔力を、全て吸い寄せ、僕の支配下に置いてしまう。

 魔力量が多すぎて体内に吸収することはできない。余剰分は瘴気として身に纏う。このままでは不安定なので、いずれ奪われる前に何かに無駄遣いしなくてはいけない。

 その間、5秒。

 そして、それをやる間に敵の動きをアテナさんが引きつける。

 これが僕たちの戦術だ。

「アテナ・ストライグ!! 君一人でこの数の“禁呪”保持者を相手できるつもりか!?」

「逆に聞くが、貴殿らはたった五人で私の相手が務まるのか」

 対抗したのか、兜の眼の部分を不気味に光らせるアテナさん。

「戦働きをロクにしたことのない魔術師と冒険者、ダンジョンの奥で寝ぼけた骨董の武者が雁首揃えて“禁呪”と粋がる。笑わせるなよ。たかが攻撃力が上がった程度で、本物の騎士を撫で斬れるものか」

 アテナさんに打ちかかる複数の「邪神もどき」と、ディック。

 ディックも腕のいい冒険者だ。それは間違いない。

 だが、アテナさんには通じない。

 かっこいい構えから瞬時に繰り出されるカウンターが、彼らの攻撃を許さない。

 アテナさんの十八番となりつつある瞬間カウンター“無影”。

 それが連続で決まり、打ちかかった者たちはことごとくその攻撃力を発揮することができない。

 どんなに高い攻撃力も、実際に叩きつけられなければ意味はない。

 それを完全な形で突きつけられるのが今のアテナさんだ。

 僕はその隙に「邪神もどき」をもう一体、バラバラに刻んで魔力強奪。封殺する。

 アテナさんは敵の攻撃を切り返すことはできる。だが、ダメージは与えられても、彼女の剣では仕留めるのは難しい。

 普通の相手なら彼女の魔力剣技で充分に致命打になるのだけれど、「邪神もどき」の再生力が高すぎて、それこそデルトールでの「邪神もどき1」戦のような泥仕合になってしまう。

 確実に潰せるのは僕だけだ。

「はっ……血の気の多いことだな、ユーカ!」

「おおよ兄貴。そればっかりは自信があるぜ。特にウチのアインはな!」

「知っているよ。アイン・ランダーズ。調べさせてもらった」

 スッ、とトーマが僕に向かって手をかざす。

 呪文が高速で唱えられる。

 勘が告げる。

 まずい……!!


「サフォケイト・カース」


 ヒントはあった。

「失血死ではない死体」があったという事実。

 少なくとも一人は、直接の暴力ではない殺人ができる。その試し打ちをしている。

 それは当然、予想できてしかるべきだ。

 そしてそれは、僕ではどうにもできない。複雑な魔術への対抗は魔術の初心者が理解できる分野ではない。

 トーマは見事にそれこそ弱点と見抜いたのだ。

 僕は急に息ができなくなる。

「っっ……!!」

 声も出せない。

 そうか。そういう魔術か。

 いやらしい真似をする。

 喉に無理やり魔力強化を施して対抗するか。

 いや、その程度では破れない。喉じゃない。もっと根本的な……。

「リーダー! 落ち着いて! 瘴気を胸に取り込んで!!」

 リノが叫んだ。

 瘴気?

 ……ああ、「邪神もどき」から徴収した魔力か。

 これを……胸に?

「口で呼吸しようとしないで、肺を意識して! 空気がなくても、魔力強化した肺は充分に活動を保証できる!!」

「……っっ!」

 なるほど。臓器を単独で魔力強化か。

 やってみる。

 過剰な魔力で、肺を強引にブースト。

 トーマの魔術による阻害を感じるが、ここがメインの狙いではないおかげで、強引に魔力を満たすことができる。

「……驚いたな。訓練なしにそれができるのか」

 トーマは呟いた。

 僕はメガネを押して、改めて「雷迅」を構える。

 喋ることが封じられた分、僕は余計なことを考えなくてよくなった。

 つまり。


 殺す。


「ようやく君も灯したか。……逆に、レクス如きは殺意すらなく殺せるというわけか」

 トーマは僕を前に、机に立てかけていた剣を……「ブラックザッパー」を取る。

「化け物だな。正しく」

「トーマ様!」

 僕と一騎打ちをやろうとするトーマに、ディックが叫ぶが。

「小手調べだよ。遊ぼうじゃないか、イルサングの賢者の末裔、アイン・ランダーズ」

 少しだけ、トーマの笑みが消える。

「君が全てを狂わせた」

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