試し切り終了
ベテラン冒険者に戦果確認してもらっている間に、改めて周辺を念入りに索敵する。
万一がないように、開けたところにパーティのみんなを残しつつ、僕とファーニィで周辺の木々の間に分け入って樹霊やその他のモンスターがいないか探していく。
森というのは必ずしも人が入れるようになっていないものだ、と、当たり前のことを再認識する。街やダンジョンでの活動が多かったせいで、こんなふうに分け入る機会が少なくなっていた。
故郷は山間の農村で、森なんて街よりずっと身近だったんだけどなあ、と苦笑する。
そこを出てからまだ何年と経ったわけでもないのに、随分「街の人間」になってしまったものだ。
「ファーニィ、その藪払っちゃっていい?」
「別に私に許可求めなくてもいいんですよ?」
「いや、また切り過ぎて怒られるかもしれないから……」
たまーにファーニィがそういう種族だってことを忘れるけど、基本的には森を守る意識の種族なんだよな。
「わざと切ったら怒りますけど、わざとじゃないなら仕方ないです」
「別に僕だって意味もなく開拓はしたくないよ……」
家や畑を作るわけでもないのに森をまっ平らにしても、ただただ恵みが減るだけだ。それぐらいは人間の僕にだってわかる。
実がつく木でなくたって、葉や枝を落とし、燃料源になる。動物の隠れ場所になり、根は地崩れを防いでくれる。
森は簡単には作れない。だからエルフが特別大事にするのもわかるのだ。
「しかし樹霊も木々を食べ進んで侵略してると考えると、その後に道ぐらいありそうなものだけどなあ」
「それが厄介なところでしてねー。あいつら食べ進んだ跡は触手で若木の擬態するんで、パッと見ではそういうのわからなくなるんです」
「つくづく面倒な奴らだなあ」
長期間樹霊を放置すると森がだんだん食われて小さくなっていく。やがて長老樹霊になれば、生半可な方法では駆除できなくなり、やりたい放題になってしまう。
完全に森を食い潰してしまうと勝手に枯死するというので、放置も一手ではあるのだけど、その土地に住む者にしてみればたまったものではない。
人間は直接の捕食対象でないから村や街まで積極的に来ることはないとはいえ、薪も取れず通行もできず、狩りもできない……となればもう生活を封じられたも同然だ。
土地によっては森ごと焼き払って片付ける場合もあるらしい。元に戻るのに何十年もかかるとはいえ、それでも樹霊がいるままよりはマシだから、と。
「なんとか探知できないかな……」
「あいつら休眠状態だとホント見分けつかないんで、人が直接歩き回って反応させるのが一番確実なんですよね。危ないですけど」
「モンスター」は大した理由もなく、人類を特に敵視する。それが一番確実な判別方法、というわけだ。
「本当はエルダーだけが討伐対象だから、ノーマルのやつ倒す必要はあんまりないんだけどね」
「ここまできたら一応クリアリングしときましょうよ。もしかしたらエルダーもいるかもしれませんし」
ファーニィも僕ほどの魔力への感性はないようなので、見分けられないというのもまだちょっと疑問の余地がある。
そう思って目に少し多めに魔力を仕込み、視界に魔力が重なる程度の状態を維持しているのだけど……あんまり異常は見えないな。
ああ、それにしても爺ちゃんのメガネ……というか、バルバスさんの加工の入ったメガネが恋しい。
あれだとモンスターを自動でぼんやり光らせてピックアップしてくれたりしたんだよな。今考えるとめちゃくちゃ便利。
ドラセナからメガネ受け取ったら、いずれまた加工してもらいに行かないとな。
と、反省しつつぐるぐると歩き回り。
「あっちにエルダーがもう一体だけいたんで叩き割っておきました」
斬撃でこれ以上被害が広がらないように、と配慮した結果、ファーニィに「ウインドダンス」で思い切り空に射出してもらい、上空から「雷迅」で「オーバースラッシュ」を振るという作戦になった。
普通の「オーバースラッシュ」でいけるかはちょっと不安だったが、ちゃんと真っ二つに割れた。着地は例によってメタルマッスル。
「そんな子供のお使いみたいなテンションで報告する話か?」
「まあ、一体でしたから……」
ベテラン冒険者は僕の指した方角を見て、はぁ、と溜め息をついて。
「デカい音は聞こえたし、今さら疑う気もない。報酬は七体で報告しておく」
「いいんですか」
「お前たちが、そんなみみっちい不正で稼ぐような次元のパーティじゃない、というのは、さすがに理解できている。だいたい、六体分で報告してもさほど執着する気もないだろう」
「それはまあ」
元々樹霊の遺体は見た目ただの木材だ。バラバラにしてしまうと何本分かなんて曖昧になる。
「長老樹霊なんて、俺が若いころには一体倒すのでも何パーティも出て大騒ぎだったんだがな……これが今の冒険者なのか」
「違います。アイン様がやばいだけです」
真顔でファーニィが否定した。
……でも君とリノも一応昨日何体も焼いてるからね。彼らの感覚で言うとそれも凄いことだよ。
というのは今言うとめんどくさい言い合いになりそうなので、あとで言おうと思う。
というわけで、宿場の冒険者の酒場で乾杯。
「お疲れー」
「お酒ー! いやーなんか久々の充実感ですねこれ!」
「ファーニィ君は呑める時はいつも呑んでいるじゃないか」
「まるでヒトが飲んだくれみたいに言わんでくださいね! ていうかこの仕事明けの打ち上げの解放感を言ってるんですよ! いい具合に疲れた後の明日を心配しなくていいお酒がおいしい!」
「別に明日は休養日じゃないでしょ……普通に移動するからね?」
「リノちゃんはまあ頑張ってもらうけど私絨毯でゴロゴロしてるだけだし!」
「うっわムカつくー。リーダー、ファーニィが寝てたらイタズラしといてね」
「やらないよ? っていうかアテナさんもユーも見てるのにイタズラとかしたくないよ?」
「やれよ! やって下さいよむしろ!」
ガンッと小樽ジョッキをテーブルに打ち付けるファーニィ。
悪いけど応えられません。
まあ寝てる女の子へのイタズラという魅惑のシチュエーションは、男として多少興味がなくもないけど、パーティ全員が見てる中で何ができるというんだ。
「じゃあ代わりにアタシがやっとくなー」
「ユーちゃんはダメ。わりとシャレにならないやつやりそうだからダメ」
「お前のアタシへの認識どうなってんの? 一応シャレのわかる女だぞアタシは」
「そういうこという人がギリギリアウトを攻めてくるってのは定番すぎるから!!」
「一応私やアインさんも過激なのは困るので、あまり刺激的なのは控えて下さいね……」
「お、なんだクロード。男連中が困るようなヤツがお望みか? 残念ながらアタシはそこまでサービス良くないから。ヒントとしてはこの前ハルドアで買っといたトンガラシがあってだな」
「ダメ!! ユーちゃんはイタズラ禁止!! アイン様だけ!!」
どうして明日に残るほど呑まないって方向にいかないのファーニィ。
……足元で寝そべっているジェニファーが、僕にだけわかるくらいに小さく溜め息をついていた。




