あくといふものは
とある世界の片隅に飢えた道の子がおりました。自分の飢えを満たすために誰かから盗みをせんと意を決めるのです。飢えたことがない人は愚かしいことというでしょう、馬鹿にするでしょう。
でも飢えるということは悲しく辛いことなのです。自分だけならばまだしも愛しいものが飢えに苛まれているのを受け入れることができるのでありましょうか?わからないものは幸いであります。
道の子は生きるために盗みをしようとおもいました。盗みがいけないという人は多いのでしょう。でも盗んででも食べ物を得なければ遠からず死ぬのです。
道の子はちょっと裕福そうな役人を獲物に見定めて財布ではなく手に持った果物を狙います。財布の中身では腹が膨れないのです。
そして、役人に手に持っている果物めがけて突進しようとして……手前でこける。
役人は道の子の行動を察して……
「なぁ、この果物をひったくろうとしているのは分かっていたが手前でこけるというのはどうかと思うんだ。せっかく貴様の殺気に対して構えていたのに俺の身構えが無駄になったじゃないか!」
役人の見当違いの発言に街の衆は
「何子供に対して粋がっているのだ。」
とか
「果物くらいはワザととられるくらいの器量を見せてみろ。」
と酷いものである。
「お役人さんがこんなかわいそうな道の子を保護していれば盗みなんてことしないで済むのに!何しているのだ!」
「道の子がいるというのは領主様は何をしているんだい!」
「坊主、盗みはよくないぞ!でも腹減っているんだろ?まずはこれを食え!これちゃんと食ったらごめんなさいをするんだ。わかるな。」
町の人々は役人をディスったり道の子に食べ物を与えたり、皆いい人過ぎてちと辛い。優しさに触れて道の子は泣きながら謝る。
「ずずず、ずみませんでじた………」
「本当に腹減ったとき道に迷うことがあるよな。そういう時は大人を頼れ!」
その後道の子は役人のもとで罪を償うために強制労働(市場の清掃一月)を行うのであった。本来であれば片手切断とか鉱山での労役とか行うのであるが、被害がほぼ無かったのと盗む前のずっこけぶりが領主様の腹筋を筋肉痛にするほどに可笑しかったので褒美代わりに減刑されたのです。
市場はきれいになりました、市場の衆ももうちょっと……いや、ずっと掃除してくれればと思ったのは笑い話です。
反省して罪を償った道の子はふと思いました。自分も悪人だといえるけど悪人ってなんだろう?と
その質問を役人にすると、ふむと顎を撫でながら
「悪人にもいろいろ種類があって、お前みたいに已むに已まれぬ理由から罪を犯すものや己の楽しみのためだけに悪事を犯すものとかいろいろいるが、とりあえず法を犯すのを悪人と定義されるだろう。でも、さらに悪いのは沢山いるぞ。」
「どんなんです?」
「並みの悪人は法を犯す。ちなみにお前は並み以下だ、ひったくりすらまともにできないお前はこういうことに向いてないからまっとうに働け。」
「ひでぇよ!役人さん。」
「お前が何か悪事やらかすたびにうちの親父殿が腹筋破壊するほど笑い転げるんだ、むしろ業務妨害で訴えられないだけありがたいとおもえ!」
「ちょ、それはひどい!次の機会があったらちゃんとできるのに。」
「いや、そんな機会ないほうがいいだろうが……」
「そういやそうなんだけど、《ずっこけちゃん》と呼ばれるのは」
道の子の嘆きに役人もなんか自分が悪人になった気がして………一度遊びで再現してみるかと露店の果物を買うのである。
「…………」
「………」
「うん、少年お前にひったくりとかする才能がないのが分かった。悪いことは言わないからまっとうな職について地道に生きろ。」
再現してみたら向かう前にごみに滑ってすっころび、役人も見物の衆も目を背けている。冒険者ギルドの新人いじめのカーマセンも思わず同情して上記の地道に生きろ発言をしてしまうのである。
道の子は泣いた。サメサメと泣いた。それをたまたま見ていた実力派冒険者パーティのユーシャがカーマセンが子供をいじめていると勘違いして突っかかってきたが役人が説明するとユーシャは俺も俺もと試してみて………
「まぁ、強く生きろよ。」
と、とどめを刺すのである。
「ユーシャ、お前やりすぎだ。ギリギリまで引き付けてかわすのは理解したが道の子が突っ込んだ先にショタ趣味のオネェとかダメだろう!危うくお持ち帰りなんてことになったら領主の旦那が腹筋崩壊させてしまうだろうが!ただでさえ、笑い上戸で腹筋が肉離れしているのに壊滅させて業務に支障をきたしたらどううるんだ!」
「えっ!そっち?」
「た、たすけてくださいよーーー」
「そこのショタ趣味のオネェ!なに、しれっと道の子をお持ち帰りしようとしているんだ!それいろいろ犯罪だからな!」
「えー、少年をお持ち帰りしてピーしてドギュンして(なろう倫理委員会削除)するだけなよ、あたしは(実家の名誉のために削除)の……」
「えいへいさーんえいへいさーん(オネェの実家の名誉のために削除)を詐称しているこの糞オカマを処理しろ!」
カーマセンが叫ぶけど衛兵さんは無視をする(オネェの実家はひみちゅ)にごたごたに関わりたくなくて………そもそも、ショタをお持ち帰りとかするな!
無視する衛兵にキレたカーマセンがオネェに腹パンして気絶させるとそのまま衛兵に渡す。
「とりあえずそこの道の子に対するわいせつ行為をしようとした罪で、このカーマセンが糞オカマを告発する!無視するんじゃないよな!なぁ、ユーシャ」
「………え、えっとカーマセン、君は(オネェの実家名は削除)の人だと知って言っているのか?」
「だからどうした、悪い事したらちゃんとしかるべきところに突き出すのが当たり前だろ!たとえそれがおう『いうなぁぁぁぁぁぁ!』でもユーシャお前の『いわないでぇぇぇぇぇ!』でも………」
「役人さん………」
「うん、何も言うな。これが三流の悪人【法を破るバカ】のいい見本だ。」そして二人はその場からそっと去るのである。
「で、役人さんあれが三流ならば二流とか一流ってあるんですよね?」
「うむ、二流だと法を利用するんだ。うちの親父殿みたいに、君の事を恩赦権を利用してほぼ無罪にしたようにね。本来であれば盗人は片腕切断とか強制労働だろ、未遂とはいえ、あれで済ませるのは本来あってはならないことだ。ちゃんと我々施政者側が治安を守っているという姿勢を見せないのは民の信頼を損ない世を乱す元になりかねないからな。とはいえ、あのずっこけっぷりは罪に問うには………うぷぷっ!」
「ちょ、笑わないでくださいよ!」
「あのこけっぷりは見事であったぞ!」
「えっと誰です?」
「わしか?わしはこの地の領主じゃ。そなたの行いは我が腹筋を崩壊させるに値する見事なものであった。」
「それひどいですよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ならば強制労役とか片腕切断がよかったか?」
「それも嫌ですけど………」
「だったら、私のいうことを聞いておればよいのだ。まぁ、この一件で私が【仁君】と言われることになったし、お前の話は妃殿下と王太子殿下や諸侯の腹筋を崩壊させてこの数か月の話題を…………」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ…………」
「さすがにそれは内緒にしておきましょうよ。お館様………」
道の子は泣いた。進んで罪人になりたいわけではないが自ら選んだ道に才能がないといわれ続けることに……
そして周りの生暖かいまなざしに………世界のやさしさに………
「ああ、道の子。陛下が『それほどまでにダメッコならば一度見てみたい。』と言っていたぞ。そういうことで宴の余興として来るがよい。」
「なんだよそりゃぁぁぁぁぁ…………」
道の子の叫びは町中に響いた。その叫びを聞いた町の者たちは理由を聞いてある者は同情しある者は苦笑いした。そして道の子は陛下の前で………ひったくりに失敗するのであった。
この光景を見ていた陛下は
「こんな、憐れむほどに才のないのが生きるために盗みをせざるを得ない現況に我が治世の不甲斐なさを覚えざるを得ない。」
という発言に新人潰しのカーマセンが
「それ以前に、道の子が困窮することがない状況を作れや!道の子が崩れ落ちているだろう!」
と突っ込んだのは不敬表現だと言われるも御説御尤もと、その場での叱責で有耶無耶にされるのである。
あらすじ、あれは特に意味はない。