表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞  応募作品

エルフの森の、バーテンダー

作者: マガミアキ

 開店時間だ。

 エルフの森で見様見真似で始めたこのバーだが、今は店の雰囲気と味を求めて継続的に森の民が来るようになった。だが見様見真似のままではいつまでもごっこ遊びだ。近頃はそう感じている。

 ドアベルが鳴り、入口が開いた。

「すまない、丁度今開店しようと――」

 入ってきた人影を見て私は口を噤んだ。

「――姉様」

 私の姉にして森の長。権威の象徴たる白ローブを身にまとう美麗なる大白魔術師。彼女はカウンターの席に座り、やおら口を開いた。

「……森を出ると聞いた。酒を混ぜる遊びにまだ飽きておらぬのか?」

「遊びではない。私は、本物のバーで働いて、バーテンダーとしてより学びたいのだ」

「お前の日本への遊行を戯れに認めた私の落ち度だな。妙な文化に染まったものだ」

「ご注文は?」

 訊いても答えはない。日本から取り寄せた酒のボトルと果実をカウンターに並べる。テキーラ、ミントリキュール、ライム。

 シェーカーに氷を入れ、酒とライムジュースを注いでキャップ。小気味良い音を立ててシェーカーを振った。姉は無表情にこちらを見ている。

 グラスにシェーカーの中身を注ぐと、美しい翠色の液体で満たされた。

「モッキンバードというカクテルだ。私達の瞳の色に、とてもよく似ているだろう」

 姉は無言でグラスを口に運んだ。

「確かに美しい色をしている。ハーブと柑橘の風味が鼻に抜けて爽やかだ。だが飲みつけぬものゆえ美味かどうかは判断しかねるな。これがお前のやりたいことなのか」

「このカクテルには……似た者同士、という意味が秘められている」

 私は姉の翠色の瞳を覗き込んだ。

「白魔術師として民と心を通わせ、癒し、拠り所となってきた姉様を私は見てきた。妹の私もそうありたいとずっと願ってきた。魔法では姉様には遠く及ばない。だがバーに、カクテルにその可能性があると気付いた。私は、あなたに並ぶエルフになりたいのだ……バーテンダーとして!」

「……私に並ぶ、か。言うようになった」

 無表情な姉が、不意に口の端を緩めた。

「励めよ。私に宣言したからには半端は許さぬ」

「……!」

「もう一杯所望する。他に果実を使ったものはないのか」

「ま、任せよ。スクリュードライバーというレシピが、森に生る陽の実と相性が良く――」

 カウンターに屈んで実を取り出す私の視界が不意に滲んだ。

 慌てて袖で目を擦り、笑顔で立ち上がる。

なろうラジオ大賞2 応募作品です。

・1,000文字以下

・テーマ:森の

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ