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ステラデータ・オフライン

掲載日:2019/12/18

 

「ん? オフライン? この時代に?」


 俺、真嶋政実(ましままさみ)は会社から帰るとすぐにVRゴーグルをかぶった。

 なにか新しいゲームはリリースされてないだろうか?

 そう思ってショップを漁っていると、見つけたのが『それ』であった。


『ステラデータ・オフライン』


 オフライン。

 落とし切りの、オフラインゲーム!

 なんて事だ!


「へー!」


 昨今のゲームはオンラインが主流。

 たくさんの人と交流し、アイテムを購入する事で運営に金が入る仕組みだ。

 しかしこのゲーム、月額でもなく1,000円で落とし切り。

 その上「ゲーム内課金なし」になっているじゃないか!

 こんなゲームが残ってるんだな。

 懐かしさに嬉しくなって、購入を即決した。

 今の時代の子供は、昔こんなゲームが普通にあった事も知らないんだろう。


「ゲーム開始!」


 ゲームデータのダウンロードが完了してすぐに叫ぶ。

 少しレトロな導入画面。

 ゲームを始める時のワクワクは、何度体験してもいいものだ。

 まず普通のゲームのように、その世界で活動するための分身を作る。

 無難な男のアバターを製作。

 職業は……剣士、魔法使い、闘士、採掘士……色々あるな。

 そういえば、どんなゲームだったのか、よく説明を見ていなかった。

 つい、オフラインゲームというところにはしゃいでしまったのだ。

 だが、職業を見る限り普通のRPGだろう。


「うーん……うん? なんだこれ、便利屋?」


 また変な職業のあるゲームだな。

 しかし、なんとなく面白い職業じゃないか?

 便利屋……なんでも屋という事だろう。

 なんでも出来るというのは憧れる。


「よし、便利屋!」


 職業を決定すると、画面がフィールドに切り替わった。

 足が地面着く感覚。

 こういうところは普通のVRゲームだな。


「……あ?」


 そう、その瞬間までは、思っていた。


「……なんだ、すごいところ、だな……」


 灰色の大地。

 果てしなく広がる星空。

 遠くに見える地球のような惑星。

 地面は灰色。

 楕円に見える地平線。

 左右には、ゴミの山?


「…………」


 ここでなにをすればいいんだ?

 チュートリアルも始まらない。

 仕方がない、少し歩いてみよう。

 そう思った時、右のゴミ山からガタリと音がする。

 見上げると、うさ耳の少女?


「……あ、新しいプレイヤー!?」

「え? あ、ああ、どうも?」


 おや、おかしいな?

 ここはオフラインゲームのはずだ。

 それともNPCか? チュートリアルだろうか?


「あの、ちょうど良かった。このゲームについて聞きたいんだが……」

「っ……」


 途端に顔を歪める少女。

 そしてゴミ山から立ち上がり、俺の方まで滑り降りてくる。

 その表情は……泣きそうだ。

 胸に広がる不安。

 どうしたのだ、一体……迷子なのだろうか?

 少女は近くまで来ると、俺の手を握る。


「…………」


 なんて悲しそうにするのだろう。


「あ、あの?」

「……来て。みんなに紹介する。あと、ここの事も説明するから」

「あ、ああ……よろしく……?」


 そのまま手を引かれて、俺はゴミ山の間の道を通ってとある屋敷へと連れて行かれた。

 美しい緑の庭、噴水、洋式の建物……。

 広い玄関ホールを通り、左の扉を潜るとそこは食堂?


「ここで待っていて。すぐにみんなを呼んでくる」

「あ、あの……」

「あ、そうだ。自己紹介しておくね。私は須川奈緒火(すがわなおか)

「!?」


 本名?

 いくらなんでもゲームの中で本名を名乗るなんて……いや、待て……!


「あの、ここはオフラインゲームだろう? なんで……」

「うん、それも説明するからみんなを呼んでくる。……大丈夫、みんな一緒だから……」

「…………」


 ナオカちゃん——彼女は微笑むと、俺を椅子に座らせて立ち去る。

 待つ間の不安と言ったら……。

 一体なんだ? このゲームは……どうなっている?

 チュートリアル、にしてはゲームの遊び方とかシステムの説明もなく、プレイヤー? が話しかけてきて「みんなを呼んでくる」……?

 おかしい。なにかが、妙だ。


「新しいプレイヤーが来たって!?」


 それから程なくして、十人近い男女が食堂に飛び込んできた。

 見た目から剣士、魔法使い、闘士……最初に選べる職業のように見える。

 ただ、人間以外の種族……たとえばナオカちゃんのように獣人、エルフ、ドワーフ、悪魔……だろうか?

 とにかく多種多様だ。


「職は!? あんた職業はなにを選んだ!?」

「え? べ、便利屋を選んだけど……」

「便利屋だって!?」

「やった! これで水道が直せる!」

「ヤッタァ! お風呂に入れる!」

「ありがとう! ありがとう!」

「ちょっとみんな落ち着け!」

「そうだよ! 彼、まだこのゲームの事なんにも知らないんだよ!」


 リーダーのような赤髪の剣士とナオカが叫ぶ。

 すると皆が「あ……」と固まった。

 人がいた事と、彼らがはしゃいでいた様子に少しだけ不安が和らぐ。


「まったく……。失礼、名前を聞いてもいいか?」

「え、あ……ああ、えーと……」


 名前!

 そういえば決めていなかったな。どうしよう?


「マサでいい。マサって呼んでくれ」

「マサ、だな。よろしくマサ。俺はタツロウだ」

「……本名、なのか?」

「ああ……」


 なぜ、と声をかける前に、皆の空気が変わる。

 神妙な面持ち。

 悲しみ、失意……様々だが、どの表情にもプラスの要素はない。

 赤毛の剣士、タツロウが「ユイト、アレを」と眼鏡の魔法使いに指示する。

 ユイトと呼ばれた彼は頷いて、食堂の暖炉の上に置いてあったガラス玉を運んできた。

 淡い虹色の光を放つ、男の両手サイズのその玉は、俺の目の前に置かれる。

 これは、と問う前に、ぼんやり玉の中に人の姿が見え始めた。


『ようこそ、新しい住人……私はステラ』


 気がつくと、周りは白い空間。

 髪の長い、真っ白な美しい少女と二人きりになっていた。

 おそらく……チュートリアル!


『まず最初に貴方はこのゲームからもう出られない』

「は? なんだと?」

『ここは捨てられたデータの漂流地。人類はあらゆるものをあらゆるところに捨ててきた。データも同じ。おかげで無機物だったはずのデータは有機物になってしまったの』


 なにを言っている?

 なにを言われている?

 捨てられたデータの漂流地?

 無機物が有機物?


「なにを、言っている……!?」

『だから私は考えた。捨てられて、小さな惑星のように溜まったこのデータの山は、捨てた人類にきちんと処理してもらおうって。心配はない。貴方もちゃんとデータ化して迎えたから。地球にある肉体という有機物ごとデータと化しているから、死ぬ事はない』

「だ、だから! なに言ってるんだ!」

『それじゃあ、このデータゴミの惑星……【ステラデータ】の廃棄作業をよろしくね、人類』

「っ——!」


 手を伸ばす。

 真白の少女……ステラは消える。

 そして、気がつくとあの食堂に座ってテーブルに突っ伏していた。


「なんだ! 今のは!」

「見終わったか。……今のはこの惑星の電脳女神ステラからのチュートリアルだ」

「っ、電脳女神?」


 タツロウたちは頷く。

 そして、あのチュートリアルを何度も見返した結果、彼らが行き着いた答えを聞かせてくれる。

 この世界は地球のすぐ側に形成された電脳空間。

 ここは電脳女神ステラの言う通り『有機物』と化したデータ廃棄処分場。

 俺たちは地球から『オフラインゲーム』の皮で覆われたアクセス権利に騙されて、無理やり連れてこられた『廃棄作業員』。

 あの電脳女神は俺たちにこの惑星並みに巨大化した『破棄データ』の処理をさせるつもりらしい。

 なぜか?

 あの電脳女神にとって、捨てたのは人類だからだ。

 人類の行いには、人類で対応しろ、という事らしい。


「いや、ふざけてるだろう! 俺たちの体は……!」

「分からない。死んでいるか、あの女神の言う通りデータが有機物化したこの場所に持ってこられているか……分からない事が多すぎて、調査を続けるしかない」

「ただ、ゲームが始まったのは一年前だ。俺とユイトはゲーム開始直後に攫われてきた。今のところ、帰る方は、ない」

「っ……」


 眼鏡の魔法使い、ユイトとタツロウは顔を見合わせて、そして改めて俺を見る。


「調査はユイトの班が進めているが、正直芳しくない。そしてここの環境も、決していいとは言えない」

「環境?」

「ここはいわゆるゴミ集積所だ。人間が住める環境じゃねーんだよ」


 口を挟んできたのドワーフだ。

 名はエイグ。

 アバターの職業と種族の変更は出来ないので、このままなのだそうだ。

 そして、ドワーフの特徴『製作』によりこの屋敷を作った。

 問題は屋敷の機能。


「作ったはいいが、使えないものが多い。水道、ガス、電気……そういうものは『便利屋』が直したり、通したりしなきゃならんらしくてな」

「!」

「そう! 君だよ!」


 エルフの青年、マキタ。

 輝く瞳に「うっ」となる。

 なるほど、俺が大歓迎されたのは、そういう……。


「俺たちと一緒に生活するなら、もちろん大歓迎だ。どうする?」

「いまいち信じられないんだが……」

「最初は誰でもそうさ」


 そう言われて肩を落とす。

 なんにしても拠点は必要だろ。


「……よろしく、頼む」


 安堵したような表情の住人たち。

 反対に、俺の不安は大きくなった。





 これは、閉じ込められた俺たちが人間を続けるための物語。

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― 新着の感想 ―
[一言] これ、連載にすると面白いかもしれない。 あまり見ない切り口だし。
[良い点] わかる!わかる!わかる! [一言] 以前「スーパーマリオの墓場」と言うイラストを見たことが有ります(*゜▽゜)ノ
[良い点] わかる!わかる!わかる! [一言] 以前「スーパーマリオの墓場」と言うイラストを見たことが有ります(*゜▽゜)ノ
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