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オトメブランド  作者: 山溶水
第二章 戦乙女の真実
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21.Dr.タイラント


「隠し通路なんて、ずいぶんなオモシロ施設ね」


 未来が階段を降りながら呟く。


「聞く限り、この先にいるのはマトモな人間じゃないでしょう。隠し通路の一つや二つあってもおかしくないですよ」


 映像に映し出された場所に行こうとしたが、行き止まりにぶつかった。あるはずの通路はなく、そこにあるのは壁だった。

 文呼が壁を調べたところ、壁の一部分がスイッチのように奥に入りこんだ。すると、壁が自動ドアのように開き、奥に続く階段が現れたのであった。

 小雨を先頭に、未来、文呼、咲希、良心の順に階段を降りていく。

 階段の先には通路が広がっていた。電球が少ない薄暗い道の先には扉があった。

 ドアをゆっくりと開く。

 準備はできている。

 顔を見なくてもわかる。それは私だけじゃなくみんなも同じはずだ。


「よく来たね」


 その声と共に、まばゆいほどの光が小雨たちを迎える。

 ドアの向こうは、闘技場、としか表現できない場所だった。

 広い空間、血の匂い、ただよう空気がそこで行われた様々な戦いを彷彿とさせた。

 ……いや、これは戦いなのか?


「なんか、イヤな感じね」


 そう、イヤな感じがする。

 未来だけでなく、他の面々もこの空間になにか、違和を感じているようだった。


「イヤな感じとはご挨拶だね。私の実験場にケチをつけてるの?」


「……お前は誰だ」


「私はこの研究所の責任者、Dr.タイラント。ドクターでもドクトルでも、好きに呼んでくれてかまわないよ」


 どういう技術を使っているのか、空間に白衣の女性の立体映像が映し出されていた。


「救難信号を出したのはお前だな。聞きたいことが山ほどある、一緒に来てもらうぞ」


「君と話すことはないよ、雲行小雨。私が用があるのは幸先良心さん、あなただ」


「私……?」


「ここに来る途中、研究員のビデオを見ただろう? 彼女の言う通り、私は最強の生物を作り出すために研究をしていてね。君たちが実験室で戦ったアレも私が作ったんだ。ま、失敗作だけどね」


 悪びれる様子もなく、飄々と話すDr.タイラントと名乗る女。

 どうやらこっちの情報は筒抜けらしい。


「実験が足りない、材料が足りない、発想が足りない。研究をすればするほどないないだらけだ。私は常に求めている。理想を形にするためのピースを。それがあなただ、幸先良心さん」


「あなたを調べたい。あなたと対話をしたい。あなたの過去を知りたい。あなたの正義を知りたい。あなたで実験したい。生きたまま解剖もするけど、死んでからも肉片一つさえ無駄にはしないよ。これ以上ない条件だと思うけど、どうかな?」


「お断りだ」


 もう我慢ならない。

 私の友達に対して好き勝手言いやがって。

 薄々気付いていたがこれで確信した。

 こいつは敵だ。


「君には聞いてないってさっき言ったけど、聞こえなかったのかな? もう一度聞くよ、幸先良心さん。私に協力してほしい」


 螺旋を展開し、刀を抜こうとする小雨を良心が制した。


「お誘いありがとう、Dr.タイラント。私の答えは決まっています」


うんうん、と満足気に頷くDr.タイラント。


「お断りです」


「……ん?」


 断られるなど微塵も思っていなかったのだろう。良心の予想外の答えにDr.タイラントは首を傾げた。


「もう一度言います。答えはノーです。実験体にする、解剖するなんて言われて協力する人なんていませんよ。死体を無駄にしない、なんて言われても全く嬉しくありません」


「……」


「……なるほど」


「あなたはそういう価値観を持っているんだね。わかった、協力してもらうことはあきらめるよ」


 ……意外とものわかりがいいのか?

 あっさり引いたことに驚く小雨。

 しかしその驚きはすぐに裏切られることになる。


「戦闘データと死体だけもらうね」


 物騒な発言を最後にDr.タイラントの映像が消えた。

 すると小雨たちの入ってきたドアが閉まり、鍵のかかる音がした。

 そして、上からぼたぼたと何かが落ちてきた。


 吸盤人間だ。


「戦闘開始! 動きを封じることに専念しろ!」


 各員、ブランドを展開し戦闘が始まる。

 小雨は時雨を展開し、絶え間なく銃弾を浴びせることで時間を稼ぐ。

 奴らに有効な手段を持つのは良心しかいない。

 周囲を見渡す。

 吸盤人間の攻撃を軽くいなし、分裂に至らない程度の攻撃で敵を翻弄する未来。

 「ヤドリギ」の適正補正により、次々と吸盤人間を無力化していく咲希。

 槍と鎌、2本の得物を振り回す文呼は苦戦していた。

 他のメンバーに比べて文呼の周囲には吸盤人間が多い。

 殺せず、分裂を繰り返す相手は文呼と相性が悪いということはすぐに理解できた。


「くそっ!」


 敵を押し退け、文呼のもとへ向かう。

 しかし吸盤人間たちに道を塞がれ、思うように動けない。


「良心ちゃん! 文呼の周りの奴らをお願い!」


「了解!」


 ジャンプ力一五メートルを誇る良心は一跳びで文呼の加勢に入る。

 これでとりあえずは安心だ。


 結果、小雨たちは数十分かけて吸盤人間を倒し尽くした。

 すると、どこからかアナウンスが聞こえてきた。


「ピンポンパンポン。雲行小雨さん、至急地下四階の実験室に一人で来てください。なお、一人で来ない場合は残りの実験体全部解放しますのでご注意ください。また、地下四階に行くにはエレベーターをご利用ください。」


 ……ご丁寧にどうも、って感じだ。


 どう考えても罠だが、行くしかない。

 小雨は立ち上がり、エレベーターに向かう。


「一時間です」


「?」


「私は雲さんの強さを信頼してるし、止めても無駄だってわかってます。だから止めません」


「でも心配な気持ちは消えません。だから一時間だけ待ちます。一時間で何の連絡もなかったら迎えに行きます。それでいいですね?」


「私は良心さんに同意だし、それでかまわないわ」


 腕を組んだ姿勢で頷く未来。


「止めても無駄って部分がわかっちゃうのが嫌ですね……わかりました。その案でいきましょう」


 しかたない、といったていの咲希。

 無言で小雨を見つめる文呼。

 しばらく見つめた後にぼそっとつぶやいた。


「……いってらっしゃい」


「みんな……」



 信頼と心配が嬉しかった。

 小雨の決意はより強く固まった。

 どんな罠が待ってるかわからない。

 でも、絶対にここに戻ってこよう。



 そう強く誓って、小雨はエレベーターに向かった。







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