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オトメブランド  作者: 山溶水
第一章 雨と雪
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1.Dead bargain

はじめまして、山溶水やまとけすいと申します。男が良い思いをする作品が苦手なので、女の子しか出てきません。ご了承ください。







1997年 5月

 宇宙人が地球を侵略しに来た。






1997年 7月

 四人の女性により宇宙人絶滅。

 彼女たちは自らを戦乙女(ルキリア)と称した。





1998年

 地球を救った女性が言った。

「まだ、侵略は終わってない」


 この年より、戦乙女を育成する学校が設置され始める。









2011年

 宇宙人が持ち込んだウイルスによる第一感染者の発見。


 第二次侵略が始まる









2014年


 感染爆発(パンデミック)


 生者の数を死者が上回る。
















 そして、2015年現在――



 時代は「Dead bargain」



 ヒトの命は特売状態






 消費者は、感染者――――





















PM12:15

十海町(とおかいちょう)村松商店街通り


 お昼時の商店街はたくさんの「人」で賑わっていた。――数年前までは。


「おーおー、うじゃうじゃいやがるねぇ」


 カウボーイハットにウエスタンコート。まるで西武劇に出てきそうなファッションに身を包んだ女性──赤岩(あかいわ)(あかね)は軽くぼやいた。


「あかねっち! はやく! はやく!」


 ぴょんぴょんと楽しそうに跳ねるツインテールは自称150cmの明星(あけほし)千聖(ちさと)だ。たぶん、サバを読んでいる。


「相変わらず気持ち悪いですね……」


 賑やかな商店街を見て、気持ち悪いと評した眼鏡少女は栗持(くりもち)宮子(みやこ)だ。



 『気持ち悪い』


 そう、気持ち悪いのだ。


 賑やかな商店街。聞き耳を立てて、客の会話を聞いてみる。


「アーー」

「ヴァーー」

「アアアーー」


 聞こえてくるのはそんなものばかり。会話とは程遠い呻き声だ。

 今、目の前にいる買い物客こそ、この世界の新しい住人。

 感染者の――――成れの果て。

 宇宙人、と聞いて頭に思い浮かぶ宇宙人はどんな姿をしているだろう。肥大化した頭に大きな目、それに細い体。大体こんなイメージを思い浮かべるのではないだろうか。

 目の前にいる買い物客を例えるなら――宇宙人になりかけの人間、といったところだろうか。

 人間とは、明らかに違う構造。

 肥大化した頭部。

 大きく見開かれた白目は時々ギョロリと動いている。

 蛭の口にピラニアの歯を敷き詰めたようなおぞましい口からは粘性の高そうな唾液が滴り落ち、三本の触手のような指はピクピクと痙攣している。 

 そして、全身が湿っている。

 

 これがこの世界の新たな住人、「エイリアン・ゾンビ」だ。



「さぁ……行くぜ」


 茜はまるで見えない銃を握るかのように中段の構えをとり、『ブランド』を展開する。

 茜の瞳の色がエメラルドのような緑色へと変色する。

 瞬間、茜の腰に現れたのは銃のホルスター、そしてその手にはシングルアクションの回転式拳銃が握られていた。カチリ、と撃鉄を起こす茜。

 どこかで聞いたことあるような「メジャー」な銃声が響いた。買い物客が倒れる。


「ヒューゥ」


 口笛を吹いた後、茜は銃の先端に息を吹きかけた。

 この二発の銃弾が開戦の合図だった。


「みゃこ! どっちが多く狩れるか勝負ね!」

「またそんなことを……」


 茜に続いて二人もブランドを展開する。瞳の色がサファイアのような青へと変色する。

 千聖は身の丈以上の大剣を、宮子は薙刀を出現させ、買い物客に斬りかかる。


 

 小さな異星間戦争が始まる。




 戦況は茜たちのワンサイドゲームだった。

 バギュンバキュン、と聞いていてどこか爽快感を感じさせる銃声を響かせるガンマンは恐ろしいスピードでエイリアン・ゾンビを撃ち抜いていた。装弾数は六発。当然、リロードが必要になるが、その動作は正に熟練と呼ぶにふさわしいものだった。振り出したシリンダーに、吸い込まれるように弾丸がすべりこむ。

 弾丸も自家製、つまりブランドだ。

 僅か一秒でリロードが完了する。

 適性補整「早撃ち・高速リロード」は今日も絶好調だ。

 緑の血が地面を濡らす。エイリアン・ゾンビの血液は濁った緑色だ。


「あはははー! たのしー!」


 大剣で縦に横にとエイリアン・ゾンビを一刀両断していく少女、千聖は笑っていた。自分の身長・体重以上の長さと重さの大剣を軽々と振り回しているのは適性補整「重量軽減」の賜物だろう。

 薙刀眼鏡少女の宮子もバッサバッサとエイリアン・ゾンビをなぎ倒している。


「アァーー」


 銃声に惹かれたのか、仲間を助けに来たのか、商店街はどんどん賑やかになる。中華まん屋のカウンターから身を乗り出す店員や八百屋の二階の窓から落ちてきたおっちょこちょいな野次馬、まるでお祭り騒ぎだ。参加者がほぼエイリアン・ゾンビなのが痛いところだが。


「私たちもいこうか、雪ちゃん」


 私――雲行(くもゆき)小雨(こさめ)もあの輪の中に入ろうと考え、隣の人にお誘いをかける。


「……あの人たちだけで大丈夫だと思いますけど」


 断わられてしまった。

 なんとなくこうなるだろうな、とわかっていたがちょっとショックだ。

 片手腕組み状態でつまらなさそうにお祭り状態の商店街を見ているクール系美少女は水鏡(みかがみ) (ゆき)


「ここは見張ってますから」


 小雨と反対方向を向いた状態で呟く雪。感情を表に出すことが少ない故に、人に冷たい印象をあたえやすい美少女の言葉が小雨には嬉しかった。おそらく行って来てください、的な言葉が省略されているのだろう。


「……ありがとっ」


 緩みそうになる口角を引き締めて仲間達の援護に向かう小雨。

 走りながら、ブランドを展開する。

 瞳の色が、ルビーのような赤へと変色する。瞬間、小雨の腰に現れたのは刀を携えるための帯、そして、長短二本の日本刀だ。

 ブランド名を「螺旋(らせん)」という。鞘に螺旋模様が刻まれている小雨の一つ目のブランドだ。

 小雨は刃渡り七十センチ程の刀を抜き、エイリアン・ゾンビの肥大化した頭を切り落とす。


「小雨先輩、ありがとうございます」


 薙刀眼鏡少女の宮子が小雨にお礼を言う。


「右側は任せて」

「わかりました、お願いします」


 刃渡り四十センチ程の脇差を抜き、脱力したような構えをとる小雨。迫り来る異形の買い物客。しかし、小雨は落ち着いていた。

 小雨にはエイリアン・ゾンビの「次の動き」が視えていた。前方から掴みかかろうとする三本の指、それを事前に躱し、懐に入り、撫でるように腹部を斬る。緑血が噴き出し、異形は力尽きる。

 唾液を垂らしながら近づくエイリアン・ゾンビの次の行動は小雨の首筋に噛み付くこと。噛みつきの軌道に合わせて刀を振るう。肥大化した頭が地面に転がる。


 適性補整『達人感覚』

 一言で説明するならばスポーツなどでよく言われる「ゾーン」に近い。

 極限の集中状態が数秒先の未来を見通す。

 ある種の未来予知。小雨が「螺旋」というブランドを展開した際の適性補整だった。






 数分後、商店街は静まりかえる。


「数えてないけど二十体は倒したし、私の勝ちでしょ!」

「そんなに倒してないでしょ! ていうか、ちゃんと数えときなさいよ」


 そう言い争う二人は、小雨たちにとってはもう見慣れた光景だ。

 ことあるごとに千聖が宮子に勝負を持ちかけ、勝敗で揉める。


「まぁまぁ、今回は引き分けでいいんじゃないか?」


 そして、赤岩教師が仲裁に入る。お約束展開だ。


「二人とも、すごかったぞ」


 ぽんぽん、と二人の頭に触れる。


「まぁ、この千聖さまにかかればとーぜんですよ!」


 えっへん、と胸を張る千聖。

 対して宮子は納得のいかない表情ながらも甘んじてぽんぽんを受け入れている。


「さて、食糧調達に向かうぞ」


 商店街なのに食糧調達? と疑問に思う人もいるかもしれないが何も疑問に思う必要はない。

 商店街の店頭で売っているような商品はすべて腐ってしまっているからだ。



「さぁ、あとちょっとだ」



 茜を先頭に、私たちは目的地へと向かう。



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