一時中断
翌朝。
「コウスケっ!起きてるっ?」
男部屋の扉をゴンゴンと殴り付けながらエルネが叫ぶ。
「・・・朝からウッセェなっ!んだよ?」
開いた扉から迷惑そうな顔で出てきたのはコウスケだ。
後頭部をボリボリと掻きながら顔を出したコウスケは、まだ眠そうだった。
「起こしてあげたんでしょ、もうっ!ロイドは?まだ寝てるの?」
「ロイド?・・・あぁ。忘れてた」
背後の部屋を確認すること無くそう呟いたコウスケ。
「忘れてた?何を?」
耳聡くその呟きを拾ったエルネ。
「ロイド帰って来なかったんだよ。徹夜か?なぁ、エルネ?図書館って24時間営業なのか?」
「そんなの知らないわよ!念話は?」
「無かった。してみるか」
「ロイドも意外と抜けてるトコ有るからね!その方がいいかもっ!」
「エルネにだけは言われたく無いだろうなぁ・・・」
「それ、どういう意味?」
「・・・ロイドに念話してきま~す」
そう言って逃げるコウスケだった。
部屋へと避難したコウスケだったが、残念。
エルネはコウスケに付いて来る様に入ってきた。
そのままスタスタと部屋を横断したエルネは、奥にあった窓を勢い良く全開にする。
なだれ込む様に床を這って入ってくる朝の冷たい空気。
ベッドから下ろしていた素足にそれを感じたコウスケは
「ちょ、エルネさん?寒いッス」
肩を寄せ、足をベッドの上へと避難させ、抗議の声を上げる。
「朝の空気がヒンヤリしてるのは当たり前でしょ?それに、これが良いんじゃないっ!」
そうコウスケの抗議を一蹴すると、窓から身を乗り出して気持ち良さそうに息を吸い込んだ。
しばしその後ろ姿を忌々しげに眺めていたコウスケだったが、諦めたのかロイドへと念話する事にした。
『ロイド~?生きてっか?』
軽い調子でそう呼び掛けるコウスケ。
調子は軽いがベッドの上で体育座り、寒さの為か膝を抱えている。
そんな体勢で体温の保持に努めていると
『・・・コウスケ君か?どうした?・・・いや、もう夕食か?』
そんな返事が返ってきた。
時間を忘れていた様だ。とすれば図書館には辿り着けたのだろうと考えるコウスケ。
『残念だがロイド。今はもう朝メシだ』
その辺で野宿していると言う心配が無くなったコウスケは、ロイドにそう伝える。
『そうか、熱中していた様だ。念話を忘れて済まない。心配を掛けただろうか?』
『エルネが少しな。まぁ大丈夫だ!でも、夜は寝た方がいいぞ?それとも大分掛かりそうなのか?』
ロイドが徹夜をした事を知って、読むべき物、読みたい物のあまりの量に急いでいるのではと考えたコウスケはそう聞く。
『ざっと見て回って集めてはみたが・・・そうだな。一月は掛かるだろう』
との事だった。
一ヶ月と言う期間が長いと見るか、短いと見るか。
まぁ後者だろう。
400年間の色々を頭に詰めようと言うのだ。
十分に早いと言えるだろう。
コウスケもそう考えていたようで、ある程度覚悟はしていた。
間違ってもロイドを置いて行くつもりなど、端から無いコウスケは
『ロイドが読み終わるまで滞在するつもりだから急がなくてもいいぞ?』
そう言った。
『それは有り難いが・・・いいのか?旅を中断させてしまうが?』
流石のロイドもそれは気が引けるのかそう言った。
『それは気にしなくていい。元々急ぐ旅じゃ無いしな?それに、街に長期滞在するならやってみたい事もあるし!エルネもランク上げに本腰入れるんじゃね?』
急ぐ旅では無い。時間も持て余さない。
そう説明するコウスケ。
『済まないな。甘えさせてもらおう』
コウスケのその言葉に、ロイドも納得したようだ。
『その代わり条件があるからな!』
纏まったという雰囲気を打ち破り、そう言い放つコウスケ。
『何でも言ってくれ』
どんな条件でも呑むつもりなのか、ロイドはそう返した。
『夜は確り帰ってこい。飯はちゃんと食え。また干からびても助けてやんねぇぞ?』
それがコウスケの出した条件だった。
『そうだな。約束しよう』
大した条件では無かったが、ロイドは快くその条件を呑んだ。
『なら良しっ!じゃそう言う事で』
そう言って念話を切るコウスケ。
部屋の温度にもようやく慣れたのか、畳んでいた体を伸ばす。
それを、念話が終わったと取ったエルネが
「ロイド大丈夫だった?」
そうコウスケに聞いた。
「ん?あぁ、生きてた」
声を掛けられて、初めてエルネの事を思い出したと言う様に答えたコウスケ。
「一日でどうにかなってたら逆にビックリよっ!」
そう返すエルネ。
「まぁそうか・・・あぁ、それとこの街に一月程滞在する事になったわ」
今しがた決まった予定を、ついでに告げるコウスケ。
「えっ?いいの?」
突然の報告に驚くエルネ。
「別に急いでる訳じゃねぇだろ?それに一月あればランクも上げ易いんじゃねぇの?Sランクになんだろ?」
「まぁ・・・それもそうね!」
あっさりと受け入れるエルネ。
こうして、この街に一ヶ月滞在する事が決まった。
「そうと決まりゃ準備だな?売ってんのかな?・・・自分で作った方が早いか?」
何やらブツブツと呟き始めるコウスケ。
それを見たエルネは
「・・・じゃあ私ギルドに行くね?帰らない時は念話するから」
そう話し掛けるが、考える事に没頭しているのかコウスケから返事は無い。
少しの間、返事を待ってみたエルネだったが、遂に諦めたのか
「じゃ!」
そう一言残して、部屋を出て行った。
エルネが出て行ってから数分。
考えが纏まったのか、それとも単に腹が減ったのか、コウスケは顔を上げた。
「・・・あっ!朝メシ食わねぇと。行こうぜ、エルネ!・・・エルネ?」
上げた顔で周りを見渡し、エルネに呼び掛けるが、返事は無い。
ようやく誰も居ない事に気付くコウスケ。
「・・・まぁ、いっか。メシだ、メシ!」
そう言うと立ち上がり、下にある食堂へと向かうコウスケ。
食堂へと下りてきたコウスケは入り口に立ち見渡すが、既にエルネは宿を出たのか、その姿は無かった。
(まぁ何かあったら念話すりゃいいか)
そうして一人朝食を摂るコウスケ。
手早く食べ終わると、コウスケもまた宿を出るのだった。




