学術都市・マギエンティア
「よしっ!次っ!」
見た目は違っても門番の対応は同じ事に、最早安心感さえ覚えるコウスケ。
何時もの如くギルドカードを渡し、それを確認する門番を眺めていたが、遂に我慢出来なくなりコウスケは話し掛ける。
「あ、あの~、ちょっと聞いてもいいですか?」
確認を終えた門番は丁度ギルドカードをコウスケに返そうと差し出しているところだった。
「何だ?」
コウスケが差し出されたギルドカードを受け取ったのを確認すると、門番はそう短く答える。
それを聞いたコウスケは、ギルドカードを仕舞いながらどうしても気になって仕方が無い事を聞いてみる事にした。
「この街、防壁無いですよね?大丈夫なんですか?魔物とかもそうですけど、これじゃあ人も出入り自由なんじゃ・・・」
そう聞いた。
遠くから見てもすぐに気付いた事だが、ここには城壁が無い。
あるのは今、目の前にある城門のみ。
にも関わらず、街へと入る人達は列を成してこの城門に並んでいる。
ここに並んでいる人が全員真面目な人達だと仮定しても、世の中にはそうで無い人達もいるだろう。
そういう人達に対して、余りにも不用心だと思えたからだ。
コウスケのその問いに門番は
「この街へは初めてか?」
答えでは無く、質問で返した。
答えを得られなかった事に、僅かに眉を寄せるコウスケだったが
「えぇ、まぁ・・・」
そう答えた。
「成る程。君はこの街の防衛力を疑っている、そうだろう?そう思うのならば、この門以外の場所から入ってみるといい」
そう言う門番。
どこか揶揄われている様な気分になったコウスケは、少しムッとした顔で馬車を降りた。
「中に入った瞬間、逮捕とか止めてくださいよ?」
そう保険を掛け、城門横。何も無い場所の前へと近寄るコウスケ。
「約束しよう」
そう言った門番は、やはり楽しげだ。
目の前には、街中の通りが見える。
民家、商店、歩く人、道を行く馬車、他の街と何ら変わらない光景だ。
何かあるのだろう。とは思いつつもコウスケは一歩踏み出す。
ゴチンッ
一歩踏み出した足は、そこにある何かのギリギリ手前に置かれたのか、阻まれる事は無かった。
その代わりに、二歩目を踏み出そうと前に出た頭が何かにぶつかる。
正確には額が。
「~~ッ!痛ってぇ~っ!!」
尻餅をついたコウスケは、そのまま額を摩る。
「フフッ、まぁそう言う事さ。これで納得出来たかい?」
イタズラが成功したような顔の門番は、そう言って笑っている。
(転移で飛んでやろうか?)
少しの悔しさから、そんな事を一瞬考えるコウスケだったが
「・・・納得しました。これなら安心ですね」
そう言って、エルネの座る御者席へと上がる。
どうやらそこまで子供染みた事はしない様だ。
「済まなかったな。何時から始まったのか、この街の門番に伝わる冗談の様なものなんだ。最近はめっきり出番が減っていてな。君が壁の事を聞いたので、つい嬉しくなって調子に乗ってしまったよ」
そう謝った門番。
どうやらこの街にこの城壁が出来た頃、コウスケの様な質問が多かったのだろう。
その対応にウンザリした当時の門番達は、その者達を今回のコウスケの様にからかい、退屈な仕事の合間の楽しみにしていたそうだ。
それが門番の間で語り継がれていたのか、今でも城壁についての質問に対してはその冗談で返すのだとか。
しかし、最近ではこの街の事を知らずに訪れる者も減り、その冗談の出番もほぼ無くなっていた。
そんなところへコウスケが現れたので、門番は
(先輩から聞いていた伝説の冗談が言えるッ!)
と興奮した結果、コウスケの額が赤くなってしまった。と言う事らしい。
どこか満足気な門番の前を通る馬車。
額を赤くしているコウスケを乗せて。
結局、この目に見えない城壁が何なのか。どう言う仕組みなのかは分からなかったが、無事に街へと入る事が出来た一行。
「何か疲れたな?取り敢えず宿取ろうぜ・・・って俺達街に入る時点で疲れてる事多くねっ?」
既視感を覚えたコウスケは、隣で手綱を握るエルネにそう聞くが
「そう?・・・コウスケだけじゃない?」
特に疲れた様子も無く答える。
「・・・あぁ、俺だけなんだ?」
そう呟くコウスケは、座席の上で器用に落ち込んでいる。
そんなコウスケを特に気にした様子も無く、馬車を手頃な宿へと向けるエルネ。
宿へと着いた一行は手慣れた様子で部屋を取ると、例の如く一部屋に集まり作戦会議。
結局いつも自由行動に落ち着くのだが。
「んで?どうする?」
「もう自由行動でいいんじゃないっ?」
「・・・はい、解散!」
意味はあるのだろうか。
こうして各々行動を開始する。
しかし、何故か揃って外へと出る三人。
「何だよ。結局皆出掛けるのかよ?」
思わずツッコむコウスケ。
「私は早くランクを上げたいのっ!当然でしょ?」
反応したのはエルネだった。
「学術都市に来てんだぜ?そんな場所に来てまで脳筋作業とか・・・何か知識とか付けた方がいいんじゃねぇか?本読め、本っ!」
「嫌よっ!私勉強とか嫌いだし。それに私は早くSランクにならなきゃ!」
そう言って、拳を強く握るエルネ。
エルネがSランクに上り詰めた時、その拳が自分に向けられるかと思うとゾッとするコウスケ。
無意識に話を逸らそうと
「・・・そ、そんな事より、ロイドが初日から出掛けるなんて珍しいな?何か当てがあるのか?」
そうロイドに話を振る。
それに対してロイドは
「私は図書館の様な物を探そうと思っている。見つかればしばらく籠るつもりだ。帰らなくても心配は無用だと先に言っておこう」
そう言った。
「いやいや。念話しよう?なっ?・・・エルネも忘れんなよ?」
ロイドは特にだが、二人とも念話の魔道具の存在を忘れているのでは?と時々思う程使っていない。
そんな二人にコウスケは念を押した。
「あぁ」
「分かってるわよっ!心配いらないわ」
「エルネは前科があるからなぁ?」
コウスケの嫌味に
「ハイハイっ。あっ、コウスケはどうするの?」
軽く流した後、話題を変えるエルネ。
「俺?俺はブラブラしながら面白そうな物でも探すよ」
そんな会話をしながら歩いていた三人だったが、大きな交差点へと差し掛かり其々違う方向へと散って行ったのだった。
 




