命懸けの採取
ロイドから採取方法を教わったコウスケは、魔力が吸い取られる範囲ギリギリの所に立ち、袖を捲り上げていた。
「んじゃ、やりますかっ!」
そう気合いを入れるコウスケ。
気合いを入れているコウスケだが、ロイドから聞いたのはたったひとつだった。
それは、根を傷つけずに土から掘り出す。それだけだった。
それだけだが、それが難しかった。
近付けば魔力を奪われる。近付かなければそもそも手に入らない。
離れた場所から土属性魔法で採取を試みた者も、過去に居た様だが失敗に終わった。
傷付けぬ様に威力を抑えた魔法では、吸われてしまう。
かと言って、高威力の魔法を使ってしまえば素材としての価値が無くなる程傷付くか、消し飛ばしてしまう。
希少価値が高い素材として知られているのは、こう言った理由からだったりする。
「それで?どうやって取るのっ?」
謎の体操をしているコウスケへと、エルネが声を掛けた。
「イチ、ニー、サンッ、シッ、えっ?どうやってって・・・まずは普通に。かな?」
「普通に?それって歩いて近付くって事?そんな事して大丈夫なの?」
「ロイドが言ってただろ?普通の人なら10分って。なら普通じゃない俺ならもっと持つだろ?その間に取って戻って来る。そう言う寸法よ!」
そう言うと、何の躊躇も無く一歩踏み出すコウスケ。
「ヒョエッ」
踏み出したコウスケは、情けない声と共にその場に崩れ落ちた。
「ちょ!何やってんのよ!大丈夫?」
そう言って駆け寄るエルネ。
助けようと近付いたが、コウスケは既に自力で這い出た所だった。
「あ、焦ったぁ~!あれが魔力を吸われる感覚なのか?・・・魔力はあんま減ってねぇな」
少し慌てた様子はあったものの、自分の状態を確認する辺り余裕はある様だ。
「情けない声出しちゃって・・・そんなんで行けるの?」
地面に座り込んでいるコウスケに、すぐ後ろまで来ていたエルネは呆れた様に見下ろしながら言う。
「う~ん・・・少し位なら動けそうだけど、歩き回るのは無理だな?こりゃ作戦変更だな!」
そう言って立ち上がるコウスケ。
「変更?どうするの?ここから魔法でも使う気?」
「まさか。一帯を消し炭にするのは得意だけど、繊細なのはちょっと・・・」
「じゃあどうするのよ?」
そう聞かれたコウスケは片手を上げた。
すると、上げた手に淡い光。次の瞬間、コウスケの手にはスコップが握られていた。
「これを使いますっ!」
そう自信あり気に言うコウスケ。
[創造の産物]で作り出した物だ。
「何それ?魔道具?」
エルネは見た事が無い物だったのかそう聞いた。
「いや。これは土を掘る道具だ。魔道具じゃない」
「・・・それでどうするのよ?結局近付け無きゃ意味無いじゃないっ!」
「そんな事分かってるよ。これは近付いた後に使うんだよ!歩き回る事は出来ないけど、這いつくばって土を掘る位なら出来そうだったからな。手が届く位置まで近付ければコッチのもんよっ!」
手に持ったスコップを自慢げに振り回しながら、そう言うコウスケ。
しかし、肝心の近付く方法が抜けている。
それにはエルネも気付いたようで
「だから近付けなきゃ意味無いでしょって!どうやって彼処まで行く気なの?」
そう言って、荒れ果てた大地にポツンと見える植物らしき物を見やった。
「いやいや、困った時の転移様じゃないですか」
おどけて言うコウスケ。
どうやら転移で側まで行こうと言うらしい。
「・・・魔力は吸われるんじゃ無かったの?」
中々鋭い事を言うエルネ。今日は冴えている様だ。
「あそっか・・・た、沢山魔力を込めれば行けるハズ」
苦し紛れにそう言うコウスケだったが
「失敗して転移出来なきゃそれでいいけど、中途半端に成功して間に放り出されたらどうするつもり?助けらんないわよ?」
恐ろしい事を言うエルネ。
しかし、それを聞いたコウスケは、その場面を想像する。
中間地点に放り出された自分。
進む事も戻る事も出来ずに、少しばかり這いずるのみ。
遠くではエルネが騒ぎ立て、時間だけが過ぎていく。
そうこうしている内に、魔力が枯れ果てる自分。
そんな想像をしたコウスケは、初めて会ったロイドの姿を自分に重ね身震いした。
「・・・実験から始めようかな?」
そう言って手にしていたスコップを一旦横に置く。
そして、新たに[創造の産物]で双眼鏡を作り出した。
「今度は何っ?」
エルネは、また良からぬ物を!とコウスケを睨むが
「安全は確保するって!俺だって死にたく無いからな。これは遠くを見る物だよ、ホラっ!」
そう言って、持っていた双眼鏡をエルネに渡す。
渡されたエルネは使い方が分からず困っているが、もうひとつ双眼鏡を作り出したコウスケは
「こうやんだよ!」
そう言って、使って見せた。
そんなコウスケを見たエルネは、それに倣って自らも双眼鏡を覗く。
「何コレっ!面白いっ!凄く遠くまで見えるっ!」
そう言って、覗いたり外したりを繰り返し、はしゃいでいた。
はしゃぎ回るエルネが落ち着くまで待ったコウスケは
「もういいか?じゃ、始めるぞ?」
そう言って、実験を始める。
「これで何するの?」
「まずは敵を観察する」
そう言って双眼鏡を覗き込むコウスケ。
「敵?・・・あぁ、あの草ね?」
そう言ってエルネも双眼鏡を覗く。
「次に手頃な石を転移させる」
そう言うと、近くの地面に手を伸ばすコウスケ。
手頃な石が見付かったのか、それを掴み取ると手のひらに乗せた。
すると、コウスケの手の上から石が消える。
「・・・どうだ?アイツは無事に辿り着いたか?」
石が消え、転移が発動した事を確認したコウスケは、双眼鏡を覗いていたエルネに聞いた。
「何も起こらなかったわよ?」
そう返すエルネ。
「マジで!?・・・どこ行ったんだ?」
コウスケは急いで双眼鏡を覗くと、手前から順に確認した。
「あった!大分手前に出たな?普通に魔力を込めたらあんなもんなのか?試して良かった。俺もあぁなるとこだった」
双眼鏡を外したコウスケは、そう言って胸を撫で下ろす。
「私の行った通りじゃない?感謝してよねっ!」
余程双眼鏡が気に入ったのか、覗き込むのを止めずにそう言うエルネ。
「あ~はいはいっ。感謝、感謝」
そう言って適当に流すコウスケ。
そして、新たに石を探す。
石を見付けると、先程と同様に手のひらに乗せる。
「今度は思いっきり込めてみるか?エルネ、見ててくれよ?」
「ハ~イ!」
エルネの返事を聞き、コウスケは魔力を込める。
勿論、通常よりも多目にだ。
今回も無事消える石。
どうなったか?と聞こうと手のひらからエルネに視線を移すコウスケ。
しかし、コウスケが聞くよりも先に
「あっ!出たっ!コウスケっ!出てきたよっ!」
「ホントか?どうだ場所は?手が届きそうな距離か?」
そう言ってコウスケも双眼鏡を覗く。
「うん。あれなら届くんじゃないかな?」
「どこ?どれ?」
「ほら、その手前の」
「どれだよ?あっ、この少し右寄りの?」
「違うって!それは初めからあったのだって!その左っ!正面だって」
「どれだよッ!・・・あっ、これ?この真ん前の?」
確認作業にしばし要した。
エルネに確認を任せたからだろう。
ともあれ無事に成功したコウスケ。
次は自分自身を転移させる。
「さて、次が本番だなッ!」
気合い十分なコウスケ。
「気を付けてよ?コウスケが死んだら私・・・アレっ?困らないかも?」
「おいっ!!」
「ウソ、ウソ!一瞬借金がチャラになるかもって思っただけだから」
「死んでも戻って来てやるっ!」
更に気合いを入れるコウスケだった。




