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あとエルネもね

兵士に連行されるコウスケとエルネ。


コウスケは兵士の目を盗んで、背中に背負っていた魔法鞄をボックスへと仕舞っていた。


次に、隣を歩くエルネを目でチョイチョイと呼び寄せると、素早く体を捻り縛られた手でエルネの腰に触れる。


それを見たエルネは、眉を寄せ「こんな時に何してんのッ!」と軽蔑の眼差しを送るが、自分の腰にあった愛用のポーチが消えているのを確認すると納得した様だった。


二度目、三度目ともなると、迅速に脱出する為の準備も慣れたものだ。


そうこうしている内に兵士が足を止めた。


顔を上げると、そこには一層煌びやかな装飾が施された城門が鎮座していた。


それを見た二人は思わず


「「おぉ~!!」」


そう揃って声を上げたのだった。


煌びやかな城門が開くのを今か今かと待っていた二人だったが、開いたのはその城門の横にチンマリと作られた入り口。


所謂、通用門と言うやつだった。


これには二人もガッカリした様子だ。


「さっさと入れッ!」


気落ちしている二人を兵士の怒声が促す。


言われるままその小さな門を潜るコウスケとエルネ。


そこに広がっていた景色には、目を見張る物があった。


生い茂る草木、咲き乱れる華々、流れる小川、清浄な空気。


正に庭園。避暑地に相応しい環境だった。


これを見た二人は


「わっ!スゴいっ!里より空気が綺麗かも?」


「あぁ、空気が違うな?空気が!」


王族専用の避暑地、ロイヤルガーデンを楽しむ二人。


そんな二人に


「モタモタするなッ!こっちだッ!」


そう言って素晴らしい景色を横目に、城壁の内側を沿うように作られた道を進む兵士。


「ちょ、中は歩かせてくれねぇのかよッ?」


観光気分のコウスケは思わずそう言うが


「寝惚けた事を言うなッ!我々が足を踏み入れて良い場所では無いッ!さっさと歩けッ!」


そう一喝されてしまった。


しばらく歩くと、地下へと降りる入り口が口を開けているのが見える。


景観を損なわない様にとの配慮だろう。


地上に警備の為の兵士の詰め所など作らない。


そう感じたコウスケは


「気合い入ってんなぁ~」


そう漏らすのだった。


地下は、数人が寝泊まり出来る程の空間。


その向こうに扉を一枚隔てて牢屋があるだけだった。


長期間詰めているのは無理だろう。


恐らく数日置きに交代で警備する。


地下を見たコウスケはそう思いながら眺めていた。


そして、当然兵士達の生活空間に留まれる訳も無く、コウスケとエルネは奥の牢屋へと押し込まれる。


「おっと!」


「きゃっ!」


後ろで手を縛られた状態で背中を押された二人はバランスを崩す。


コウスケは何とか踏み止まったが、エルネは見事に転んでしまった。


「そこでしばらく大人しくしていろッ!」


そう吐き捨てて、引き上げていく兵士達。


受け身も取れずに転がったエルネに近寄ったコウスケは


「大丈夫か?派手に転んでたけど」


そう声を掛けた。


その言葉に体を起こしたエルネは


「最悪っ!コウスケも受け止めてよねっ!」


そうコウスケを睨みながら言うエルネ。


「いやいや。俺も縛られてっから!」


無実です!と自分の縛られた手を見せながら弁明するコウスケ。


「全く・・・ちゃんと考えてるんでしょうね?」


「何を?」


「出る方法に決まってるでしょ!」


「いや、それは知ってるだろ?それより今はどうやって上を見て回るか?だ」


「もういいんじゃない?」


「それじゃあ何しに捕まったか分かんねぇじゃねぇか!」


こうしてコウスケは庭園を見て回るための作戦を考える。


まずは手を縛っている縄を切る事からだ。


これは然程難しくは無い。


ボックスからナイフを取り出すと背中合わせになったエルネの縄を切る。


手が自由になったエルネにそのナイフを渡せばコウスケも自由だ。


「よしっ!ロイドに暗くなる前に戻るって言ってあるから急ごう!」


「いつそんな事言ったの?」


「念話で」


短くやり取りした後、転移で鉄格子の向こうに飛ぶ二人。


「それにしてもあの魔法を使えなくする手錠じゃ無くて助かったわね?」


経験者は語る。では無いが、エルネは染々と言った。


「まぁ、楽ではあるな」


コウスケは扉の向こうを窺いながらそう言う。


「楽?アレだったら脱出出来なかったでしょ?」


エルネが言っているのは魔封鉱で出来た拘束具の事だ。


その拘束具を付けると魔法が使えなくなる。


それを身を持って知っているエルネはそう言った。


「チッチッチ。甘く見て貰っちゃ困るな?」


エルネの疑問に、コウスケはそう返す。


「はぁ?甘く見るも何も、魔法使え無いのよ?さっきの転移だって使えないんだから」


コウスケ流脱出術のキモ、転移は使えない。そう言ったエルネ。


それを聞いたコウスケは、徐にボックスを開いた。


そして中から取り出した物に、エルネは表情を曇らせた。


コウスケが取り出したのは


「何でまだそんな物持ってんのよっ!」


かつてエルネの首に嵌まっていた魔封鉱製の首輪だった。


「・・・何かの役に立つかなぁって」


エルネにとっては二度と見たくも無い代物だろう。


それを大事に取って置くコウスケ。此如何に。


目からビームでも出しそうな程コウスケを睨むエルネを他所に、コウスケは


「まぁ見てろよ」


そう一言言うと、カチンッと自らの首にその首輪を嵌めた。


余りの出来事に


「ちょっとっ!何やってるのッ!コウスケがそんな物付けたら本当に脱出出来なくなるじゃないッ!」


慌てふためくエルネ。


しかし、コウスケは何処吹く風と余裕な表情だ。


そうして、慌てるエルネを見ながら首輪に触れる。


その瞬間、首輪は消え失せた。


これにはエルネも驚いた様で


「え?魔法は使えない筈じゃ・・・どうして?」


目を点にしていた。


「ボックスだよ。コレ付けててもギフトは使えるって発見したんだ。ボックスが使えるって事は、触れた物を吸い込むように仕舞う機能も使えるって事だろ?それで試してみたら出来たんだよね」


誇らしげに言うコウスケ。


「・・・コウスケの天職が見えた気がしたわ」


エルネはため息をひとつ吐くと、そう言った。


「天職?商人だろ?いや、大魔法使いでもいいかもな?」


コウスケはそう言って思いを馳せるが


「・・・盗賊に決まってるでしょ?」


呆れながらそう言った。


逃げるのが上手い。姿を消して何処にでも忍び込める。捕まっても忽然と消える。


確かに向いている。どちらかと言うと怪盗か。


「・・・成る程。大泥棒もいいな?」


今のコウスケには、嫌みも効かないらしい。


そんなコウスケを呆れながら見ているエルネだが、端から見れば二人共異常だ。


何せ今は脱出中なのだから。


それを、思い出したのかそうでは無いのか、コウスケは行動を開始する。


ゆっくりと扉を開けると、その向こうの部屋に兵士が居ない事を確認する。


すると今度は地上への階段へと駆け寄り、地上を窺う。


地下から頭だけを出し、見渡してから頭を引っ込める。


「見た感じ、内側には警備は居ないみたいだ。サクッと見て回って帰ろうぜ?」


階段に身を伏せたまま、振り向いたコウスケは、後ろにいるエルネにそう言った。


「はいはいっ!大泥棒に付いて行くわよ」


そうして二人は素晴らしい庭園を満喫した。


帰りは勿論転移で馬車の近くまで飛んだのだ。


ロイドとの約束通り、暗くなる前に戻った二人は何事も無かったかの様に馬車を走らせるのだった。


しかし、この事は後に大きな話題となる。


何故なら、庭園の中の一番大きな木に


<大泥棒コウスケ参上!あとエルネもね>


と刻まれていたからだ。


調子に乗ったコウスケが悪戯心でやったのだ。


しかも、それを見たエルネまでもが面白そうだと真似をした。


故に、後半部分はエルネの直筆だったりする。


そして、次の夏。避暑に訪れた王族が見つけて大騒ぎになった。


こうして、ジワジワと有名になりつつあったコウスケの名は、大泥棒と言う肩書きを増やし一層広まる事になる。


不本意ではあるが、調子に乗った罰なのか、エルネの名前も泥棒として広まったとか。


しかし、それはまだ先の事。


今はまだ誰にも知られず、三人は次の街を目指してのんびりと旅を続ける。


「綺麗な所だったね?」


「あぁ。住むならあんな場所が良いよな?」


等と気楽に。


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