ロイドの知識欲
次の街への旅路を楽しむコウスケ達。
この世界の事など、露程も気にしていないだろう。
「・・・んっ?」
今日も一日順調に進み、今は夜営を張り、夕食も終え、焚き火を眺めながら食休みしていた。
そんな時、コウスケが突然何かが気になった様に声を上げた。
「どうした?コウスケ君。」
コウスケと同じ様に隣で食休みをしながら、本を読んでいたロイドが反応する。
「・・・何か嫌な気配を感じた。悪い予感がする」
虫の知らせなのか、それとも神に第六感的な物でも埋め込まれていたのか、何かを感じ取ったコウスケ。
それを嫌な気配、悪い予感と言った。
「何か起こるのか?」
ロイドはそんなコウスケの言葉を茶化す事無く受けとる。
「・・・ッ!近いッ!来るぞッ!!」
その焦った様子に、思わずコウスケの見据える先に向かって身構えるロイド。
そして、闇の中から
「コウスケェ~ッ!シャンプー切れてるじゃないッ!先に入ったのコウスケよねッ?使い切ったら変えときなさいよッ!!」
見えてはいけない部分を大きめのタオルで隠しているが、怒りは微塵も隠そうとはせずに近付いてくるエルネ。
どうやらコウスケが感じ取ったのは、世界に放たれた邪悪な者では無く、シャンプーの詰め替えをサボった事に気付いたエルネの怒りだった様だ。
「ロイドッ!戦闘準備だッ!」
片手に詰め替え用のシャンプーを作り出し、そう声を上げるコウスケ。
「・・・戦うのか?」
肩の力が抜けたロイドはそう問いかける。
「まさかっ!・・・命乞いさっ!」
今のところ、コウスケ達の旅は何事も無く順調の様だ。
~~
別の日。
いつもの様にエルネは手綱を、コウスケはその隣でタバコを、そしてロイドは荷台で何かをしていた。
最近ではロイドに荷台を占領される事が多くなり、コウスケが籠る事は少なくなっていた。
(最近俺が後ろ使えねぇんだよなぁ・・・そろそろテントみたいに荷台も広くして、二人同時に使える様にでもすっかなぁ?)
そう景色を見ながら考え、エルネの話に適当に相づちを打っている時だった。
「コウスケ君、少しいいか?」
荷台から顔を出したロイドがコウスケに言う。
「どうした?また何か実験の手伝いか?」
背もたれに深く背中を預け、同時に足を前に投げ出していたコウスケは、その姿勢のまま首だけを動かしてロイドの方を向き、そう言った。
「いや、今はこれについて考えていたんだが・・・コウスケ君の意見を聞きたい」
そう言ったロイドの手には、スキルの宝玉があった。
「なるほど。今回は俺のここが必要なんだな?」
自分のこめかみを人指し指で突きながらそう言ったコウスケ。
「そう言う事だ。エルネ君にも聞いてもらいたい、このまま話そう」
ロイドのその言葉に小さく振り向いたエルネは、少し眉を寄せ
「私が聞いても分かる話なの?」
難しい話はパス!とでも言いたげだ。
「知っていた方がいい」
とロイド。これにはエルネも渋々
「・・・分かった。聞くだけ聞くわ」
そう言った。
「そうしてくれ」
「で?内容は?」
エルネの参戦が決まり、コウスケはロイドを促した。
「あぁ。まず確認だがこの宝玉は、欲しいスキルを極みまで習得する事が出来る。そうだったな?コウスケ君」
「あぁ、間違い無い。鑑定したからな」
「よし。この‘極み’というのは、魔法なら全習得、武器スキルならマスタリーまで、これで合っているな?」
「まぁ‘極み’って言う位だからな?そう考えるのが正しいだろ?」
「うん、次に使い方だが。これは昔の研究者達がスキルの玉で検証済みだ。習得したいスキルの存在を知っている事。スキルの玉を使用するという意思を込める事。そして、必ず手で触れている事。これが条件だ。言葉にしても、心の中で念じても使えるという実験結果もある。これもいいか?」
「使い方は初耳だな。・・・一瞬でも盗まれたらアウトだな?」
自分の宝玉を取り出し、眺めながら聞いていたコウスケは、そう呟く。
心の中で念じても使えるという事は、奪われた瞬間に使われる。という可能性もある。
(管理には気を付けよう)
そう思うコウスケ。
「その通りだ。だが今はその話は置いておこう。私がコウスケ君の意見を聞きたかったのは、ここからだ」
「おっ!ようやくか?」
そう言って、投げ出していた足を戻し姿勢を正すコウスケ。
「コウスケ君。何故この宝玉にそんな力がある?仕組みはどうなっているのだ?」
「・・・・・・知らんっ!」
たっぷり考えたコウスケは、そう言い放った。
「そうか・・・やはりコウスケ君でも分からないか」
予想はしていたのかロイドは、そう言って唸った。
魔方陣でも刻んであれば話は別だが、それも無いこの宝玉の仕組みなどコウスケが分かる筈も無かった。
「使えるんならいいじゃねぇか?」
「どうしても気になったのだよ。そもそもスキルとは何なのだろうか?」
何だか迷宮に誘い込まれているような感覚に気が引けるが、仕方が無いので考えてみるコウスケ。
「そりゃあ・・・技術とか経験?とかじゃねぇの?」
「確かに。どのスキルもたゆまぬ努力と経験で熟練して行き、上位のスキルへと昇華していく。出来なかった事が努力によって出来る様になる。これがスキルになるのは分かる。ならば何故、歩くや走ると言った事はスキルにならない?人は生まれた時には歩く事も走る事も出来ない。それが何時しか出来る様になっている。これはスキルでは無いのか?」
ロイドの何かに火がついた様だ。
「いや、それは・・・」
ロイドの勢いに押されつつも口を開くコウスケ。
しかし、ロイドが満足する答えを持ち合わせていないコウスケは言い淀む。
「根本的なスキルの疑問は置いておくとしても、人が長い年月を掛けて極める技術を、この玉ひとつで埋める・・・せめて理屈だけでも・・・」
ロイドのその言葉に、大まかな概念やイメージの様なものを掴みたいのだ。と解釈したコウスケ。
仕組みの様なものはコウスケにも分からないが、こういった事には馴染みがあるコウスケ。
元の世界でゲーム等もよくしていたコウスケにとって、経験値が多く手に入るアイテム、モンスター等はお約束だ。
この宝玉を手に入れた時もその様な物だろう。と割りとすんなりと受け入れられた。
しかし、ゲームなど無いこの世界の人間には、馴染みが無い分そこに引っ掛かるのだろう。
コウスケは何とか説明してみようと口を開いた。
「う~ん・・・何て言えばいいか・・・例えばスキルが水だとする・・・」
「・・・何の話だ?」
コウスケのよく分からない枕詞に、ロイドが聞く。
「いいから聞けッ!・・・その水を器なんかに溜めていくのが、努力や経験だ。普通は一滴づつ溜めていくが、この宝玉は一気に器を満たす。そういう事だろう?まぁその水が何処から来るのかは知らねぇけどな・・・こんなカンジでどうだ?」
これを聞いたロイドはしばらく考えた後
「・・・ならば私が次に探らなくてはいけないのは、その水は何なのか?コウスケ君が言ったように何処から来るのか?だな」
そう言った。
(おぉ!伝わった・・・のか?)
分かりきった事を無駄に例えて説明したような気もするが、取り敢えずロイドは次の目的を見付けた様だ。
コウスケのお陰かどうかは分からないが。
ここで話が終わったと見たエルネが口を開いた。
「・・・私が聞いてる意味あった?」
その言葉に、コウスケはこれまでの会話を思い起こし、しばらく考えたてから
「・・・宝玉の使い方とか?」
「そこだけ後で教えてくれれば良かったじゃないっ!」
やはり小難しい話は苦手なエルネだった。
 




