褒美
シャズナブルに連れられてやって来たのは、貴族街の一角にある一際大きな屋敷だった。
「あの・・・ここですか?」
市長や知事が、役場や県庁で表彰している場面を想像していたコウスケは、大きいとは言え一個人の屋敷に案内された事に疑問を覚える。
「あぁ、ここだ。ここはスワン家の屋敷。スワン家は代々この辺りを領地として治める子爵家だよ。領内で功績を挙げた者はこの屋敷に呼ばれ、褒美ないしは一言を受けるのが通例だよ。」
そう説明してくれた。
(子爵・・・男爵の上、下から二番目だったっけ)
そう、頭の中で爵位の序列を思い出し理解するコウスケ。
「確認なんですけど、本当に俺は喋らなくても大丈夫なんですよね?」
「形式張ったものだよ。会話らしい会話は無いさ。スワン家当主の言葉に、慎んで。とだけ答えれば問題無いさ」
コウスケの不安に、そう軽く返したシャズナブル。
(全然緊張とかしてねぇな?・・・あぁ、こういうの慣れてんのか)
緊張が見られないシャズナブルの様子に、コウスケはそう理由を付けた。
屋敷に入ると執事姿の男が出迎える。
「お待ちしておりました。ホワイト様。それから、そちらが冒険者一行様ですね。どうぞこちらへ」
頭を下げた後、案内を始める執事姿の男。
ちなみに、エルネとロイドも当然付いて来ている。黙ってはいるが。
(・・・何で俺達とシャズナブルが別なんだ。・・・えっ?って事は・・・俺ヤバイんじゃねぇ?)
何かしらの可能性に思い至ったのか、顔が青ざめていくコウスケ。
「あ、あの~シャ・・・ホワイト様。質問があるんですが?」
「・・・何だ急に?気持ちが悪いぞ?」
「いや~、その~・・・もしかしてホワイト様は身分がお高くあそばしておられますか?」
「・・・無理するな。余計気持ちが悪い。言って無かったか?私は・・・」
「こちらへどうぞ。既に当主がお待ちです」
シャズナブルの言葉の途中で、案内していた男が扉を開け、そう言った。
「・・・コウスケ。話は後だ。行こうか?」
シャズナブルはそう言って進む。
(待ってッ!教えてッ、最後まで教えてっ!身が持ちませんからッッ!!)
内心ベソを掻いているコウスケだが、悟られまいと表情だけはキリッとさせる。
シャズナブルに付いていき中に入ると、そこには椅子に座った男、その傍らに控える様に立つ男の二人がいた。
流れから言って座っている男が領主なのだろう。
領主はシャズナブルと同じ位の歳に見える。
それを窺いながらシャズナブルの横に並ぶコウスケ。
エルネとロイドはコウスケの後ろに並ぶように立つ。
その時、コウスケの後ろからコソコソと不穏な会話が聞こえてきた。
「ねぇ、こういう時人族って膝を付いて頭を下げるんじゃないのっ?」
「それは王族に謁見する時だろう?・・・いや、平民が貴族の当主に会う時も同じか?・・・知らん!コウスケ君が立ったままなのだ、いいのだろう。」
そんな会話が。
(そうかッ!膝を付くのかッ!・・・いやっ!シャズナブルに真似してるだけで良いって・・・ってコイツはさっきの会話で貴族確定だった!貴族同士ならしないのかもッ?じゃあ、俺は膝を・・・いや、でも・・・どうするッ?どうすんだッ?コウスケェ~!)
エルネとロイドの会話を聞いた事で、考えが行ったり来たりパニック状態のコウスケ。
しかし、特に咎められる事も無く領主が口を開いた。
「今回の一件で功労者に褒美を、と言う話だが・・・シャズは分かるがそっちの三人は何だ?」
その言葉に、控えていた男が
「当主、公式の場です」
一言そう言った。
「ハァ・・・ホワイト殿は分かるが、そちらの三人は?」
ため息の後にそう言った。
コウスケへの質問だろうが、コウスケはシャズナブルに任せる。
「彼らは冒険者コウスケとそのパーティー、エルネとロイドです。彼らも今回の功労者です」
期待通りシャズナブルが進めてくれる様だ。
これには一安心のコウスケ。
「・・・ホワイト殿が冒険者を指揮し、事を収めたと聞いたが?」
コウスケ達の事を領主は聞いていなかった様だ。
領主とシャズナブルの会話を、コウスケ達は黙って聞く。
「確かに私が冒険者を指揮し、魔物を殲滅しました。しかし、それを成し得たのは彼等のお陰です」
「分かる様に頼む」
「我々は溢れる魔物と一晩寝ずに戦いました。しかし、夜が明ける頃には皆疲弊し、いつ終わるかも分からない戦いに心が折れかかっていたのです。かく言う私も同様でした」
「フム、ならば何故魔物どもを殲滅できたのだ?」
「我々の心が折れかかった時、ダンジョンが消えたのです」
「なっ!ダンジョンが消えただとッ?」
領主はおとぎ話を聞かされる子供の様に食い付いた。前のめりで。
控えていた男は一瞬領主に目をやったが、自分も続きが気になるのか先程の様に咎める事はしなかった。
「はい。ダンジョンが消えれば魔物も沸いて来ない。これを勝機と見た我々は一気呵成に仕掛け、殲滅に成功したのです」
「そうか・・・それで?その三人はいつ出てくるのだ?」
「我々の勝機となったダンジョン消失、それこそが彼等の功績です」
ここで漸く、ダンジョンが消えると言う事が、どういう事を意味するのか気付いた領主が
「・・・ちょっと待て!ダンジョンが消えた、それはつまり・・・」
「はい。攻略した、と言う事です」
「そこの三人でか?」
「その様です。ダンジョンが消えた後、浮かび上がった魔方陣から三人が現れるのを私も見ています。間違いないかと」
「シャ・・・ンンッ!ホワイト殿が言うのであれば間違い無いのだろう。しかし、領主としては証拠も無しにそれを認める訳にはいかんな」
話に夢中になったせいか、呼び名を言い直す領主。
(コイツらあれか?幼馴染みとか昔馴染みとか、仲良い系だろ?普段は普通に喋ってんだろ?)
コウスケはそう当たりを付けていた。
「・・・と言いますと?」
「周りに街が出来る様なダンジョンが攻略された場合、最奥で入手したアイテムを一時街で公開する。それが通例だ。そのアイテムを証拠としよう」
その言葉にシャズナブルはコウスケに目をやり
「どうだ?」
そう短く問うた。
コウスケは頷くだけで答えた。
「そうか、では見せてもらおう」
領主もコウスケの同意を受け取ったのか、そう言った。
コウスケは魔法鞄から取り出した様に、ボックスから[スキルの宝玉]を取り出した。
「それは・・・何だ?」
見た事の無い物だったのか領主は素直に疑問を口にする。
コウスケへの問いなのは明白だが、一応シャズナブルに助けを求める様に目を向けた。
しかし、返ってきた答えは
「悪いが私には無理だ。自分で説明してくれ。ガンバっ!」
と言う視線だけだった。最後の一言はコウスケの妄想だ。
出来るだけ失礼の無いように言葉を選んで答えるコウスケ。
「こ、これはひとつのスキルを極みまで習得する事が出来るアイテム、らしいです」
なんとか答える。
「本当なら凄い物だな?流石‘不倒’と呼ばれたダンジョンの宝だな。一応こちらでも鑑定する事になるが、構わんな?」
「はい」
出来るだけ言葉数を少なくしようとするコウスケ。
領主の合図を受けて、控えていた男がコウスケの元までやってくる。
渡せば良いのだろう、と理解したコウスケは宝玉をその男に渡した。
男はそのまま部屋を出ていった。
「過去の例では公開した後、その街に売り払う事も少なく無いが・・・コウスケ、だったか?お前はどうするのだ?私はそうしてくれると助かるが」
その領主の言葉に
(渡してから言うのかよッ!?)
と不信感を抱くコウスケ。
その想いを込めてシャズナブルを見ると
「んっ?・・・あぁ、決めるのはコウスケだ。売らないと決めればちゃんと返って来る」
コウスケの意図を感じ取ったのか、そう答えるシャズナブル。
「ダンジョンで成り立っている街はそれが無くなると困るからな。代わりにシンボルになる物が必要で、それが打って付けなのさ。ダメならダメで他を探すさ。ここの領主はやり手だからな」
そう説明してくれた。最後の一言は明らかに領主を見て言っていたが。
これには領主も「余計な事を」という顔をした。
「まぁ、考えておけ」
領主がそう言ったところで、出ていた男が戻ってくる。
そして、領主に何事かを告げ再び控えた。
「確認が取れた。・・・それではホワイト殿、冒険者コウスケ並びにそのパーティーを今回の功労者と認め、褒美を取らす!」
急に形式張ったものに戻る。
「慎んで」
シャズナブルがそう答え頭を下げた。
それを見てコウスケも
「つ、慎んでっ」
そう頭を下げた。
「ウム、帰りに受けとるように。・・・さて、終わった終わった!シャズ、コウスケ、続きは別室で話そう!ここの椅子は固くて敵わん」
急に砕けた領主。
控えていた男は呆れ顔だが、何も言わなかった。
しかし、コウスケはそれどころでは無かった。
(終わりじゃねぇのかよッ!!)
そう思うも断る事など出来ず、渋々付いていった。




