冒険者ギルド
冒険者ギルドへ向かう途中、また露店を冷やかしていると、ある露店に目を引かれた。
現代でもありそうな質の悪そうなアクセサリーが並べられた露店だ。そこに並んでいる指輪のひとつに魔力を感じたからだ。
その指輪を手に取り眺める。店主は何も言わない。気になったのでスキルを使った。
(【鑑定眼】・・・おぉ!)
銀メッキの指輪
銀色にメッキ加工された指輪。安物。
火魔法【ファイアランス】付与
(付与?なんだコレ?)
魔力を帯びている事から魔法だと当たりを付け、頭の中で付与に関する魔法を探す。
(・・・あった!付与魔法ってのがあるのか)
付与魔法とは、物に魔法を付与する魔法である。この指輪の場合、付けるだけで中級火魔法【ファイアランス】が使えるようになる。
しかも、発動に必要な魔力は空気中の魔力を使うので魔法が使えない人でも使えるのである。もちろん高等技術且つ、使える者の少ない稀少な魔法である。
(オレには必要ないな。でもこの魔法は何かに使えそうだ)
そう思いつつ、指輪を戻した。冷やかしのつもりが思わぬ収穫に顔がニヤける。が、ギルドに向かう途中である事を思いだし露店を離れた。
ギルドに着いたのは昼過ぎだった。
(腹へったな。さっさと済まして飯屋にでも行こう)
そう思い扉を開け中に入った。カウンターに並ぶ窓口は商業ギルドと同じだが向こうとは異なる点がいくつか。
まず、人が多い。賑わっていると言っていいだろう。話し声も多く活気がある。そして、酒場とクエストボードがあるのだ。
(・・・これだよ!これがギルドだよ‼)
商業ギルドを見た後だからか余計に感動する。一通りキョロキョロし終えると窓口に向かった。
「いらっしゃい!依頼を受けに来たのかい?」
今回は気の良さそうなおばちゃんである。
「いえ、登録をしたくて」
「おっ!新人さんかい?大歓迎さ!じゃあ試験の準備をしないとね」
「えっ!試験なんてあるんですか?」
「知らなかったのかい?登録したものの低ランクの依頼で大ケガしたり死んじまうバカが多くてねぇ。そんな実力の無いヤツらをふるい落とすためのもんさ!なぁにこっちが用意した依頼を達成するだけさ。冒険者を続けて行けるだけの力や、度胸があるなら簡単な依頼さね!どうする?」
(予想外だけど・・・まぁ仕方ないか。失敗する事も無いだろうし)
「じゃあお願いします!」
「あいよ!じゃあこの用紙に名前と、年齢、職業、得意な戦闘方法を書いとくれ。依頼達成の報告の時までにギルドカードを作っとくから」
得意な戦闘方法は格闘と魔法を少し、と書いておいた。
「コウスケ、29、・・・意外といってるねぇ?旅人は・・・まぁいいか。格闘と、へぇ少しでも魔法が使えるのかい?これは期待出来そうだね」
少し不安に感じながらもギルドを出る。
(一角兎を10羽狩って来いか)
おばちゃんに貰った依頼内容が書かれた紙を読みながら歩いている。
(期限は一週間か。狩った証拠は角を10本持ち帰る事、か・・・‼どうしよ?適当な鞄でも買うか?でもそれだと他の物も持ってないとおかしいし)
ボックスを隠している以上、手ぶらなのは不自然である。困った。
~~
「おっちゃ~ん‼」
ハック商店に来ている。手ぶら問題をおっちゃんに相談に来たのだ。
「いらっしゃ・・・お前か、もう街を出るんか?」
「いや、出るんだけど出ないっていうか・・・」
「?・・・とんちか?」
「あぁ~つまり、街の外には出るけど旅にはまだ出ないってこと。」
「なんだ。てっきりもう別れの挨拶に来たのかと思ったぜ」
「ちょっと問題があって相談に来たんだ」
「言ってみ?」
「・・・ボックス」
「またそれ絡みか?」
「実は・・・」
おっちゃんに事情を話した。
「・・・なるほどな。確かに何も持ってなかったら怪しいわな」
「やっぱり?どうしよ?」
「いい解決方がある」
そう言っておっちゃんは奥から鞄を持ってきた。おもむろに鞄に手を突っ込むと、商品と思われる物をあり得ない量取り出した。
「こりゃあ魔法鞄って物だ。ソコソコの冒険者や、商人には必需品と言っていいシロモンだ。コレならボックスを隠せる。上手くやりゃあボックスを使わずにってな」
「スゲェ‼それどこで手に入るの?」
「容量のちっちぇ安物ならウチにだって置いてあるが、安物ったって結構するぜ?」
「ホントにッ!?いくら?」
「ウチで扱ってる一番ちっちぇヤツでも20万ギルくらいか?」
「高ッ!買えねぇよッ!安くなんない?」
「バカ言えッ!これはソコソコ売れ筋なんだよ!・・・そういやこの鞄を作ってる街じゃかなり安く買えるって聞いた事があるな」
「・・・‼その街までどのくらい?一週間で行って帰って来れる?」
「ん~・・・馬車で片道三週間ってトコか?」
「ダメじゃんッ‼」
「近くで作ってるって話も聞かねぇし、無理だな」
(・・・作ってる?そうか!誰かが作ってるんだよ!誰かが作れるんなら・・・オレにも作れる‼)
魔法鞄のレシピを頭の中で探す。
(・・・あった。・・・付与魔法?・・・空間魔法上級【拡張】を付与?・・・作れる!)
「おっちゃん、普通の鞄見して」
「おっ!諦めて荷物沢山ぶら下げるのか?」
「いや、鞄はひとつでいい」
「・・・?」
どれでも魔法鞄に出来る事が分かったので、買う鞄は見た目で選んだ。激しく動いても体にピッタリと沿う肩掛け鞄にした。
「ホントにそれひとつでいいのか?」
おっちゃんが心配そうな目を向けてくる。
「大丈夫、大丈夫!」
「・・・まいどあり」
~~
宿の部屋。走って帰ってきた。
(さぁて、作るぞぉ。)
魔法鞄の作り方は、まず空間魔法上級【拡張】を発動させる(この時込める魔力の量で出来上がりの容量が決まる)、そこに付与魔法を重ね、最後に鞄に押し込む感覚で付与する。これで出来上がりである。
当然だが、空間魔法を使える者は少ない。上級まで使える者は更に少ない。付与魔法も同様だ。両方使える者など数えるほどしかいない。
最早、高等魔術と言えるこの魔法を宿屋の一室で、ボックスを隠したい、等と言う理由で行使するなど前代未聞である。
「・・・できた?・・・おぉ!出来てる‼」
部屋にある物を手当たり次第に入れ、確認した。
「依頼報告の時に手ぶらでも、ここからうさぎの角を出したとしても、これで怪しまれないぞ」
そんな訳はない。駆け出しの、まだ登録すらしていない人物が、高価な魔法鞄を持っている時点で怪しいのだ。
だが、ボックスを使うよりは幾分マシである。こうしてボックス問題は解決した・・・?




