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試行錯誤

閉じ込められた三人は、何が来てもいいように、しばらく身構えていた。


数分後


「・・・何にも起きないねっ?」


痺れを切らしたエルネが口を開く。


「確かに・・・どうなってんだ?」


コウスケはそう言って、構えを解き力を抜いた。


「何も起こらない、と言う事は・・・やはりアレがこの部屋の罠なのだろう」


そう言ったロイドがこの部屋の出口を見やる。


入り口が塞がれて尚、そこには不気味に光る薄緑色で半透明の膜が張ったままだ。


三人はその膜に近づく。しかし、決して触れようとはしない。


「ここを通ると死んじゃうの?」


「対策無しに通ると、だろう」


「ムチャクチャだな?電気が流れてるとかか?」


「見ただけでは分からんな・・・コウスケ君。何か要らない物は無いか?」


「要らない物?・・・石なら捨てる程あるけど?」


「ひとつ頼む」


コウスケは魔法鞄から石を取り出すと、ロイドに渡した。


「どうするのっ?」


「なに、この石に身代わりになってもらうだけだ」


そう言って、手に持っていた石を出口に向かって放った。


何事も無く膜を通り抜けた石は、向こう側で転がった。


「・・・何も起こらないじゃないっ!」


「フム・・・生物にしか発動しないのか・・・又は、目に見えないだけで発動はしたのか・・・」


何も起こらなかった、とは考えもしないロイド。


「要するにアレに触れずに、向こう側に行きゃあいいんだろ?」


何か思い付いたのか、コウスケがそう言った。


ブツブツと考え込んでいたロイドだったが、コウスケのその言葉に目を向ける。そして


「・・・転移か?」


少し考えてからそう言った。


「そうだ!転移ならアレに触れずに向こう側に行けるだろ?」


「危なく無いのっ?」


エルネが心配するが


「やってみる価値はあるだろう」


ロイドの言葉に「じゃあ」とコウスケが準備に入る。


膜の向こう側を見据え、集中したコウスケは


「じゃあ、お先!」


キメ顔でそう言った。


そして、魔法を発動した時特有の淡い光を放ち


「・・・」


「・・・」


「・・・アレ?」


キメ顔のままのコウスケが同じ場所にいた。


「・・・プッ」


エルネが堪らず吹き出す。


「じゃあ、お先!だってっ!恥ずかしっ」


恥ずかしさのあまり、プルプルと震えるコウスケ。


「魔法自体は発動していた様だな?という事は・・・この部屋が空間的に遮断されている?」


コウスケとエルネのやり取りを無視して、再び考え込むロイド。


「・・・ロイド!今ので何か分かったのか?」


エルネを「借金」と言う言葉で黙らせたコウスケは、ロイドに向き直る。


「・・・んっ?あぁ、どうやらこの部屋は転移を防ぐ為の空間遮断が施されている様だ」


コウスケの問いに少し遅れて答えるロイド。


「へぇ・・・んっ?でも二人で実験してた時は転移出来たぞ?」


五属性を合成しようとした時の事だろう。


「空間遮断にも幾つか有るのだよ。物体は通すが魔力は通さない物、物体は通さないが魔力は通す物、両方通さない物。と言う風にね。色々な用途の為に試行錯誤の結果枝分かれしたのだろう。ここで、転移はどうかと考えてみると・・・」


「そりゃ、転移は魔法なんだから、魔力が通るのだけで使えるんじゃねぇの?」


ロイドの即席魔法講座が始まり、コウスケが続きを答える。


エルネはこの手の話は聞かない様にしている。


「普通に考えればそうなる」


「違うのか?」


「あぁ。転移が魔法では無いのか、同じ空間属性だからなのかは分からないが、転移は成功する」


「じゃあ、さっきは何で・・・」


「転移のみを防ぐ魔法があるのだよ。それがこの部屋に掛けられているのだろう」


そう言う事らしい。


「なら壁を壊しゃあ出られるんじゃねぇか?防ぐのは転移だけで、物理も魔法も通すんだろ?」


「やってみる価値は有るかもしれんが・・・転移の対策をして、そっちの対策をしていない可能性は低いと思うが」


「確かに・・・」


ロイドの考えに納得してしまうコウスケ。


転移等と言う、使う者が少ない魔法を防いでおいて、他の方法を対処していないと言う事は考え難い。


「ダンジョンに行こうと言い出したのは俺だ。俺が責任を取ってこの膜を抜けるッ!」


八方塞がりだと諦めたのか、コウスケはそう言い出した。


「そんなのダメだよっ!コウスケ死んじゃうよっ!」


難しい話に、黙っていたエルネがコウスケを止める。


「この中で一番体が強いのは俺だ。どうなるか分からないが、耐えられる可能性が有るのは俺だと思う」


コウスケはそうエルネに説明した。


「でもっ・・・」


「それを言うなら私だろう。私は頭を落とされる様な大ケガでもしない限り死ぬ事は無い。試しに通ってみる、と言うなら私が適任だ」


ロイドがそう割って入って来た。


「それはダメだッ!!」


今度はコウスケがそう言った。


「コウスケ君。私は初めから考えていた。なに、まだ死ぬ気は無い。私の仮説が正しければ、私だけが影響を受けずに通れるはずだ」


「確証は無いんだろッ?」


「・・・コウスケ君。私を信じてくれ」


「・・・」


初めて見るロイドの真剣な顔に、言葉を失うコウスケ。


「・・・分かった。任せるぞ?」


「あぁ」


「えっ?いいの?コウスケ?」


意見を急に変えたコウスケに詰め寄るエルネ。


「お前もロイドを信じろ」


コウスケはただそう言うだけだった。


「そんなっ!」


エルネの思いとは裏腹に、ロイドは膜の張った出口に向かって行く。


その直ぐ前で足を止めると、振り向いて


「じゃあ、お先!だったか?」


そう言ってロイドは向こう側へと抜けた。


「・・・」


向こう側で立ち止まったロイドは、背を向けたまま黙っていた。


「ロイドッ!大丈夫かッ?」


ロイドの背中に問いかけるコウスケ。


「ロイド、動かないよっ?」


エルネも不安を募らせて行く。


固唾を飲んで見守っていると、不意にロイドが動いた。


後ろ姿では分かりにくいが、どうやら右手を顎に持って言った様だ。


ロイドが何かを考えている時の姿勢だ。


これには、コウスケもエルネもホッとする。


「ロイドッ!何か分かったのか?」


すると、ロイドは振り向いた。


何も変わった様子の無いロイド。


しかし、今だ考えたままだ。


そして、こちらからは見えない側の壁を、仰ぎ見る。


しばらく眺めていたロイドがようやく口を開いた。


「コウスケ君。こちら側の壁に出口を囲う様に魔方陣が描かれている。恐らくこれが、部屋の遮断と膜の原因だろう。魔方陣の知識が浅すぎて、私には読み解けないが・・・」


「なら、俺もそっちに行って見てみるよ」


「それはダメだ!通ってみて確信した。これは君達では通り抜けられない」


ロイドはそう告げる。


「ど、どういう事だよッ?どうしてだ?これを抜けたらどうなるって言うんだ?」


思わずそう聞き返すコウスケ。


「・・・どうやら、この膜は通り抜けた物、恐らく生物の寿命を奪うらしい。どれ程奪われるかは分からないが、戻った者がいない事を考えるとそう多くは残らないだろう。少なくともこの先へ進み、階段を下りて石碑に触れる程の時間も無いと考えた方がいいだろう」


そう言った。


「そんなっ!?」


エルネはそう言って、愕然とする。


「・・・エルネはっ?エルネなら寿命が長い分、残る時間も長いんじゃないかっ?」


長命種のエルフなら、とコウスケが期待を口にする。


「今までにエルフがこの場所を訪れた事が無い、とは考え難い。残される時間は一律と考えるのが自然だろう」


その言葉に、コウスケとエルネは顔を見合わせた。


しばらくコウスケと見つめ合っていたエルネは


「・・・じゃあ、仕方無いねっ」


そう言って微笑んだ。


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