中ボス戦 その2
「コウスケ~?これ、どうすんのっ?」
「どうすんの?って、ウォッ!・・・聞かれてもな」
コウスケ達はドラゴンと戦っている。
既に数十分経っているだろうか。
コウスケの立てた作戦は概ね上手く行った。
ロイドの魔法でドラゴンの翼はボロボロになり、地上に落ちる。
それを見た、コウスケとエルネは飛び出した。
コウスケが直接ドラゴンと対峙し、エルネは少し離れて援護射撃。
ドラゴンの攻撃は、全力の身体強化魔法を纏ったコウスケが受ける。
異常な量の魔力を消費している身体強化のおかげか、マントのおかげか、コウスケお手製の防具のおかげか、或はその全てのおかげか。
ドラゴンの強力な攻撃をコウスケは一人で受ける事が出来た。
エルネはコウスケの奮闘で出来た隙を突き、ウザがられようと頑張っている。
そうする事数分、ドラゴンの高すぎる回復力で翼が元に戻る。
ドラゴンはコウスケへの攻撃を一旦止め、空中に飛び上がる。
そこへ、待ってました。と言わんばかりにロイドが魔法を撃ち込み、再びドラゴンを落とす。
これの繰り返しだった。
つまり、コウスケ達は決め手となる威力の攻撃を出来ずにいたのだ。
「永遠に続きそうだが?・・・私は構わんが」
数分間仕事が無いロイドが、今の状況を見てそう茶化した。
「流石に永遠はエルフでも無理だよっ」
エルネも比較的余裕があるのか、そう答えた。
「寿命の長い奴等は、気楽でおっとッ!いいな?俺にはそんな余裕はウォッ!あぁもうッ!埒が明かねぇ。一旦上の層まで退却だッ!」
会話に参加してくるところを見ると余裕はあったように思えるが、コウスケは退却を決めた。
「ハーイっ」
「あぁ」
二人もこれには二つ返事で同意し、後退する。
こうして三人は尻尾を巻いて逃げた。
尻尾の有る種族はいないが・・・確認はしていない。
~~
三人は今、27層と28層の間。そこを繋ぐ階段の途中に腰を下ろしていた。
一旦は27層に出たものの、上がった途端に狼に囲まれてしまい面倒になった三人は今に至る。
「どうする?負ける気はしないけど、勝てる気もしないよ?」
エルネが口火を切った。
「確かに決め手に欠けるよな?無視して階段探すか?」
コウスケは倒すのを諦めて進むか?と提案する。
「逃げられる?アレからっ」
「ですよねぇ~・・・ロイドはどうだ?何かある?」
黙っていたロイドに話を振るコウスケ。
「そうだな・・・確かにドラゴンを相手にせず階段を下りる。と言うのは良い案だと思うが・・・28層には特別な何かを感じる。魔物が一匹、ドラゴン、広すぎる階層。これらを鑑みると、私は倒さなければ進めない気がするのだが?」
そう意見を出したロイド。
「確かにそれは中ボスのお約束だよな?やっぱ倒した方が良いよな・・・でも、あんなんどうやって倒せばいいんだ?攻撃は強ぇし、体はやたら丈夫だし、おまけにスゲェ回復力と来たもんだ」
「そうだよねぇ・・・弱点とか無いの?ロイド知らない?」
「私の知識の中には無いな。ただ・・・」
「ただ、何だよ?何か知ってんのか?」
「いや、弱点は知らないが、ドラゴンも一応生き物だ。首でも切り落とせば流石に絶命するだろう、と思ってな」
「そりゃそうだろうけど・・・首って言ってもメチャクチャ太ぇぞ?どうやって切り落とすんだ?」
「切断には刃物が向いているだろう。何か適した物は持っていないのか?」
その言葉に、エルネが腰から細剣を抜いた。
「流石にそれでは無理だろう・・・他には?」
次に動いたのはコウスケ。
腰から短剣を一対抜いた。
「・・・論外だ」
「ウチの刃物はこれで全部だ!あとは素材剥ぎ取り用のナイフと、包丁ぐらいしか無いぞ?」
三人揃って頭を抱えた。
「フン・・・残るは魔法で。と言う方法もあるが・・・流石の私でも無理だろう。私で無理ならエルネ君にも無理と言う事になる。残る可能性は・・・」
サラっと自慢を入れつつも、そう言ってコウスケを見るロイド。
「俺ッ?ってかそもそもドラゴンの首を一刀両断出来る様な魔法なんてあるのか?」
「一刀のもとに両断する必要は無い。魔法なのだから」
「今は屁理屈なんていいんだよッ!あるのか?」
「勿論、普通の魔術師ではまず無理だろう。しかし、コウスケ君の異常とも言える魔力量ならば可能性はある」
「異常って・・・もし誉めてんなら言葉ぐらいは選んでくれッ!」
「勿論誉めている。羨ましい位だ」
「確かにコウスケって色々異常だよねっ」
「お前もかッ!エルネッ!」
エルネの裏切りに、演劇染みた言い回しをするコウスケ。
有名なその台詞もこの異世界では誰も知らない。
「だって、ホントの事じゃんっ」
エルネによってアッサリと流される。
「・・・それで?どの魔法でやるんだ?」
恥ずかしさを隠すため、話を戻すコウスケ。
「空間属性魔法が適している。と私は思うのだが?」
「空間属性?俺ん中じゃ守りに特化した属性って印象なんだが・・・どれ使うんだよ?使い慣れて無いのだったら少し練習しねぇと」
「問題無いだろう。コウスケ君が使っているのを何度か見ている」
「?・・・心当たりがまるで無いんだが・・・」
「空間遮断だ。使っていただろう?」
「えっ?アレこそ防御特化だろ?」
「確かに囲ってしまえば特性上、強力な盾にも牢にもなるだろう。しかし、例えば・・・」
そう言って、腕を出したロイド。
「今、この腕の手先側と、肘側を完全に遮断する様に木の板が出現したらどうなる?」
それを聞いたコウスケの頭の中には、スプラッターな光景が浮かんだ。
「うっ・・・理解しました」
「そうか・・・制御の方は問題無いか?囲むのでは無く、板状に発動して両側を遮断する感覚だ」
「精神が持てば・・・」
「コウスケ君の精神構造は特殊だ。問題無いだろう」
(俺は繊細なんだよッ!心臓に毛が生えてるみたいに言うなッ!)
と言ってやりたかったが、何とか堪えるコウスケ。
「ねぇ、腕に板が生えたらどうなるのっ?」
「後で見せてやるよ」
せめてエルネを道連れにしてやろうと、コウスケはそうエルネにそう答えるにとどめた。
~~
再び28層。
前回と同じ様に近付いて来るドラゴンを仰ぎ見る三人。
「いいかっ?作戦は分かってるな?ロイドが落とす。エルネは魔法で目眩まし。俺が首チョンだ」
新たに立てた作戦の最終確認をするコウスケ。
「分かってるってっ!」
エルネが元気に答える。
「私の仕事はキッチリ果たそう」
既に数度行った作業に自信を見せるロイド。
「よしっ!来るぞッ!」
そう言って、構えたコウスケ。
二人もそれに習った。
ーーーーーーーッ
既に何度か経験した、物理的に感じる音を何とかやり過ごし、ロイドが動いた。
今回は風属性の広範囲殲滅魔法を使った様で、見えない風の刃がドラゴンの翼の薄い部分。
翼膜と言われる部位を切り裂き、その破片がヒラヒラと舞っている。
おぉ~!とコウスケとエルネが見上げていると、切り裂かれた翼膜が舞う中、ドラゴンが頭から落ちる。
そのとんでもない重量故か、落下時に凄まじい音と衝撃。
キレイだ。等と場違いな事を思っていたコウスケとエルネは、その音と衝撃で我に返る。
「エルネッ!!」
「分かってるっ!」
そう一声掛け合って、走り出した二人。
エルネは断続的にドラゴンの顔を、水属性魔法で攻める。
弓ではあまり効果が無い事を覚えていたのだろう。
これには、水棲生物では無いドラゴンも参った様で、狙われている顔をエルネから遠ざけ様と首を持ち上げ、真っ直ぐに立ち上がった。
それを好機と見たコウスケは、身体強化の魔法を全力で纏い、急加速する。
一呼吸の間に、ドラゴンの足元まで距離を詰めると、今度は真上に飛び上がった。
腰辺りまで飛び上がると、腹、腕、肩と登って行き肩を強く蹴り、顎の下辺りまで飛び上がった。
「これでも喰らえッ!!そして、エルネにトラウマをッ!!」
そう叫びながら、空間遮断の魔法を、ドラゴンの首を遮断する様に放った。
ドラゴンの首に空間属性特有の、透明なガラスの様な物が出現し、しばらくして消えた。
コウスケは華麗に着地を決めると、少し離れていたエルネの元まで駆け寄り、直立不動のドラゴンを見上げた。
しばらくして
ズリュ
少し水っぽい音を立てて、首がずれた。
頭は前に、体は後ろに倒れていく。
「うえぇぇぇ」
あまりの光景にエルネは声を上げた。
(フッ、エルネへの精神攻撃は成功だなっ!これは一生物のトラウマだぞ!)
コウスケはそう思い、ニヤける。自分もえずきながら。
どう見てもコウスケの方がダメージがでかい様に見えるが・・・
こうしてドラゴン戦は、負傷者一名で勝利した。




