人助け
2層に降りた三人は、またしてもその光景に驚く。
空にはどんよりと雲が掛かり、その下の大地は荒れ果てていた。
遠くに木も確認出来るが、枯れ木の様で緑は確認できない。
「寂しい所だねっ?」
エルネが率直な感想を漏らす。
「ま、まぁ上と同じじゃ面白く無いからな」
何故かダンジョンをフォローするコウスケ。
「・・・あの枯れ木は燃やしても元に戻るのだろうか?」
ロイドは相変わらす観察、考察に勤しんでいる。
「ロイド、もういいか?行くぞ?」
そう声を掛けて歩き出すコウスケ。
しばらく歩き回って階段を見付けた三人。
上の層よりも早く見付けられた。
どうやら、階段の目印が各層立っている様だ。
400年の年月で階段を探すと言う作業はすっかり終わり、今では目的の階層に魔物の素材目的、又はアイテム回収を目的とし、如何に効率的に行えるかが突き詰められている様だ。
純粋に攻略を目指しているのは一握りの実力者だけになっている様だ。
その実力者達も最後の最後で躓いていると言う話だったが。
そんな理由で楽に3層に降りるコウスケ達。
ちなみに、2層では狼の魔物が出てきた。
当然の事ながら先頭を歩くエルネに出てきた傍から瞬殺されていたが。
他の魔物が出なかった事を見ると、各層に一種類づつの様だ。
こうして順調に階層を降りていくコウスケ達。
気が付けば10層まで降りて来ていた。
この頃になると流石のエルネも瞬殺とは行かず、大人しく後ろにさがりコウスケが前衛を勤めていた。
「エルネッ!右の二匹を足止めしてくれッ!」
そう言って、前方から敵意剥き出しでこちらに向かってくる三匹のワニの様な、トカゲの様な魔物に向かって走り出したコウスケ。
「了~解~」
そう軽く返したエルネは指示通り右側の二匹に向け、魔力で構成された矢を放ち足止めに成功する。
その間に、一匹を仕留めたコウスケは直ぐ様エルネが足止めした二匹に迫る。
コウスケが狙いを付けると、エルネは何も言われ無くとも残りの一匹に矢を集中させる。
阿吽の呼吸というヤツだろう。
コウスケが殴り殺すのと、エルネが射殺すのは同時だった。
「段々手強くなって来たわね?」
「あぁ、やられる程じゃないがサクサク進めなくなって来たな?」
「前衛がもう一人いれば楽になりそうなのにっ」
「仕方無いさ。二人で頑張るしか無いだろ?」
そう言うコウスケとエルネ。
ロイドはどうしているかと言えば、エルネの後ろで後方を警戒していた。椅子に座って。
これは、ロイドが広域殲滅魔法が好きだ。と言ったからだった。
広域殲滅魔法しか使えない、では無く好き、だ。
要するに、それ以外は使いたく無いと言ったのだ。
初めは、もしかして使えないのか?と思いもしたが、昔に大事故を起こした事、400年間死なずに生きている事、更にはコウスケも手伝ったとは言え四属性まで合成した事を思い出し、それは無いだろう思い直す。
なら、それでもいいからと試しに後衛として参加させてみたところ、前に出ていたコウスケと、エルネまでも見事に攻撃範囲に捉えた魔法を放った。
結果的には、その時対峙していた魔物を瞬殺したが、辺り一面が火の海になった。
その後、このままコウスケとエルネで戦いながら進むか、逆にロイドを前に出して魔法で倒しながら進むか、と話し合ったがロイドの魔力が尽きてしまうと言う理由から、今のフォーメーションになった。
「もうっ!ロイドだけ楽してズルイッ!」
「ほぅ、私も参加していいのか?」
「むっ・・・小さい魔法だって使えるんでしょ?」
「まぁまぁ、取り敢えず二人でどこまで行けるかやってみようぜ?一応ロイドは学者って事になってんだから。それにこのまま行って、二人だけで攻略でもしちまった日には有名になるぞ?」
「・・・ハァ、わかったわよっ!」
どうにか纏まった。コウスケは意外と苦労していた。
再び、下への階段を探し歩いていると、行く手から戦闘音が聞こえてきた。
これまでも数度、他のパーティは見かけたが、ダンジョンでは他のパーティの獲物を横取りする事は禁止。と暗黙のルールで決まっている。
勿論、助けを求められれば話は別だが。
それ故、遠くからどんな戦い方をするのか?と眺める事はあったが、近付く事は無かった。
しかし、今見えている状況は違った。
人を一人背負いながら逃げる様に応戦しているのが見えたのだ。
「あれは・・・助けた方がいいのか?」
出来るだけ面倒事には関わりたく無いコウスケだが、目の前で死なれるのは困ると感じ、そう聞いた。
「そうねっ!助けましょ!」
逆に正義感が強いエルネは助ける事を即決した。
「・・・」
ロイドは何も言わなかった。
「じゃあ、俺が突っ込んで魔物とあの二人を離すから、エルネは俺を援護しつつ回復の準備!ロイドは他の魔物から不意打ちを喰らわない様に周囲を警戒!これでいいか?」
「いいわっ!」
「あぁ」
二人からの返事を確認したコウスケは走り出した。
襲われている二人に近付くと向こうもこちらに気付いた。
「た、助けて下さいッ!お願いしますッ!」
「そのつもりだッ!」
そう言ってコウスケは襲われている二人と魔物の間に飛び込んだ。
そして、鋭い踏み込みで魔物に肉薄する。
追って来ていた魔物は三匹だった。
コウスケが一匹を殴り付ける瞬間に、残りの二匹に矢が複数命中した。
それで足を止めた魔物を見て、コウスケが飛び退く。
飛び退いた後、魔物を警戒しながら二人を肩越しに確認する。
「助かりました・・・って君はあの時のッ!?」
どうやら助けたのは、ダンジョンの入り口でコウスケ達をバカにした五人組の内の二人の様だ。
正確にはバカにした四人の内の一人が背負われている方で、怪我をしているらしい。
背負っている方は、コウスケ達を心配してくれたカートと呼ばれていた男だった。
「話は後だ。先にアレを片付けてくる」
そう言って魔物に向き直るコウスケ。
「でも君はッ!」
Eランクだろ?と言う前にエルネが追い付いた。
「コウスケッ!」
「エルネ!二人を回復してくれ。アレは俺が相手する!」
「分かったわっ!」
そう短くやり取りをして、コウスケは再び魔物に向かって行った。
「無理ですッ!彼を呼び戻して下さいッ!彼まで死んでしまうッ!」
彼まで、と言う事は五人いた残りの三人は死んでしまったのだろう。
「大丈夫よっ。それより回復するからその人を降ろして?」
エルネは冷静にそう言って、怪我をして背負われている人を見た。
「そんな・・・」
カートは背負っていた人を下ろした後、魔物に向かって行くコウスケを見てそう呟いた。
コウスケは魔物に向かいながら三匹を観察した。
コウスケの攻撃を受けた一匹はダメージが大きかったのか動きがぎこちなかった。
(アレは後回しにして、元気な方を先にやるか?)
そう判断して、身体強化の魔法を纏った。
途端に一歩の距離が伸びる。
まだ少しあった距離が二歩で埋まる。
一瞬にして魔物の目の前に現れたコウスケは、魔物の頭に振り下ろす様に拳を落とした。
加減の無い全力だったからか、その一撃で魔物の頭は地面にメリ込み、潰れた様な感触がコウスケの手に伝わった。
その感触に嫌な顔をする暇も無く、隣の魔物に蹴りを放つ。
蹴り飛ばされた魔物は最後の一匹にぶつかり、縺れて重なった。
(ここだッ!)
それを見たコウスケは重なっている魔物の方に向かって飛び上がり、落下の威力を乗せて首に手刀を落とした。
身体強化の早さと力が乗った手刀は魔物の首を押し潰す様に切断した。
(・・・こんなモンか?)
魔物が動かない事を確認して、エルネの元へと向かうコウスケ。
カートがこちらをジッと見ている。
(・・・面倒事の感じは・・・しないな)
また、面倒事かッ?と一瞬思ったコウスケだったが、何故かそう感じなかった。
(なんだ?面倒事かどうか分かる特殊能力でもあんのか?)
等と考えながら、エルネとカートが待つ場所へと戻るコウスケであった。




