ダンジョン都市プレーヌス
二日後、コウスケ達は城門前に出来た馬車の行列に並んでいた。
「それにしてもスゲぇ城壁だな?今まで見て来た街の中じゃ一番ゴツいぞ。この辺はデカイ魔物でも出るのか?」
「ここはダンジョン都市だから逆だろう」
コウスケの疑問にロイドが答える。
「逆?何が逆なのっ?」
うんざりする程長い列に、暇を持て余していたエルネも会話に加わる。
コウスケも同じ疑問を持ったのか、エルネの言葉を聞いた後、ロイドに目を向けた。
「確かに外への守りと言う面もあるだろうが、本質は内からの物を外に出さない為の堅牢な城壁だ。ダンジョン都市ではこの様な城壁が一般的だな」
「・・・それってダンジョンから魔物が出てくるって事か?」
「いや、私の記憶では滅多に無い事だ。だが、出て来る時は溢れる様に魔物が出るらしい。だからこそ、その魔物を街の外に出さない為に、内側からの力に強い造りの城壁を作ると聞いた事がある」
「それじゃ中の人達も出れなくなるじゃんっ」
「・・・それはつまり」
尤もな疑問をエルネが聞く。その答えをコウスケが想像する。
「そういう事だ。街の人を犠牲にしてでも魔物を閉じ込める。この街に住む人間はそれを覚悟で住んでいるんだろう」
「マジか・・・それが起こったらこの街は終わりなのか?」
「いや、ダンジョン都市には往々にして高ランクの冒険者が多い。城門が閉じられても少しは耐えられるだろう。その間に外からの増援を待つのだろう」
「成る程な」
「それなら安心ねっ」
コウスケはイーナの様な高ランク冒険者達が、溢れてくる魔物の群れと対峙している所を想像して、そう言った。
エルネの頭の中ではコウスケが一人で対峙している所が想像されていたが。それで安心なのだろうか?
(んっ?コレってフラグか?)
等と思った事は言わなかった。
そんな話をしている内に、城門前まで馬車は進んでいた。
「よしッ!次ッ!」
(あぁ、ここはまともな街だ)
そんな事を思うコウスケ。門番のお馴染みの対応がコウスケを安心させる。
コウスケとエルネはギルドカードを掲げる。
そこでコウスケは気付いてしまった。
ロイドがギルドカードを持っていない事に。
恐る恐るロイドの方を向くと、ロイドは胸を張って立っていた。
(・・・そうだよな。流石に何か用意してるだろうな?ロイドだしな)
少しホッとするコウスケ。ロイドもコウスケの方を見て、「任せておけ」と頷いた。
「・・・!おいッ!そこのお前も身分証か通行証を出しなさい」
ロイドに気付いた門番がそう言った。
「そんな物は無い。私はこのコウスケ君の奴隷だ」
(えぇ・・・無いんスね?ロイドさん・・・しかも奴隷って)
奴隷は、主人が身分証や通行証を持っていれば一緒に通れるのだ。ただし
「そうか。なら奴隷紋を確認する。見せなさい」
奴隷紋の確認をする。当然だろう。
(どうすんのッ!?ロイドさんッ!?あんた奴隷紋なんて無いだろッ?)
内心パニック状態のコウスケだが何とか隠す。
こんな時、しゃしゃり出て来そうなエルネだが黙っていた。
コウスケもそれに倣って、何か策があるのだろうと信じて黙っている事にした。
するとロイドは、スボンの穿き口に親指を掛けて
「わかった。奴隷紋は股間にある。ここで出しても?」
そう言った。
「・・・」
絶句する門番。門番は女性兵士だったのだ。
(うまいッ!上手いけどアンタそんなキャラじゃないだろッ!?)
「・・・それは困ります。そこの貴方!この奴隷の主人ですね?」
我に戻った門番がコウスケにそう聞いた。
(おっ、これを認めれば通れるって事だな?ロイドもやるなぁ)
等と考え、答えた。
「はい。そうです」
「流石にここで確認する事は出来ない。奴隷紋を光らせなさい。それで確認とします」
「・・・えっ?」
冷や汗を一筋流すコウスケ。
「光らせなさいと言っているのです」
コウスケは無言でロイドを見た。
ロイドは真っ直ぐにコウスケを見つめ返す。
(どっちだよッ!その目はどっちなんだよッ!大丈夫だ、の目なのか?助けてくれ、の目なのか?)
迷ったコウスケだが、もうどうにでもなれッ!とロイドの肩に手を置いた。
ピカァァァ
ロイドの股間は布越しに光を放った。
これには、空気を読んで無言を貫いてきたエルネも驚いた様で、ロイドの光る股間を凝視していた。
ロイドは腰に両手を当て、不敵な笑みを門番に向けていた。
「・・・よし、次・・・」
心なしか疲れた様に見える門番。
(なんか・・・すみません)
そう心の中で謝ったコウスケは二人を連れて門を潜った。
街に入った三人は入り口近くで案内板の様な物を見付けた。
この街はプレーヌスと言うらしい。ロイドによるとダンジョンの名前が街の名前になるらしい。
案内板を眺める三人。
「エルネ、適当な宿に向かってくれ。ロイド、お前はまずギルドカードな!さっきみたいなのはもう御免だからなッ!」
やや疲れた顔のコウスケが、二人にそう指示を出した。
「ダンジョンに突撃するかと思ったけど・・・意外ねっ?」
「あの門番の顔など中々見物だったではないか?」
それぞれに返事をする二人。
「ロイドのせいで疲れたよッ!今日はもう準備とか情報収集に充てて早めに休みたい・・・」
この場合は精神的にという意味だろう。
「それはすまない事をした。他に方法が思い付かなくてな」
そう言って股間を光らせるロイド。
「やめろッ!もうそれいいからッ!」
どう見ても楽しんでいるロイドに、深いため息をつくコウスケ。
しばらくニヤニヤしていたロイドだったが、飽きたのか光っていた部分から一枚の紙を取り出した。
コウスケは、その紙に照明の魔方陣が書かれている事を瞬時に見抜いた。
「照明の魔方陣か?それで光らせてたのか?」
「練習に書いてみた物だ。魔方陣・・・中々有用だ」
キリッとした顔で言うロイド。
「何だかふざけてる時のコウスケみたいっ」
そうエルネが感想をもらした。
「な、何だと・・・」
(俺はあんな風に見えているのかッ?)
精神疲労が蓄積していくコウスケ。
この日は、宿を取り、ロイドのギルドカードを取って、夕食ついでに情報収集をして終わった。
ちなみにロイドは商業ギルドに登録した。
あくまでも学者と言う肩書きは捨てないらしいが・・・




